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しばしの


【side ソルド・ツゥ・リンブル=デザンテリア】



「……まさか本当に、勝ってしまうとは」


 アルノードからの報告を聞き、素直な感想を述べる。


 避難誘導に俺の名前を使ったこと。

 その際に面倒のいくつかを背負い込まされたこと。


 こいつからの報告は、それら全てがどうでもよくなるような内容だった。


 まさかやってきたのが『七師』で……しかもそれを倒しただと?


 どこからどこまで本当なのか、判断に悩む。

 いっそのこと全てが作り話だと言われた方が、納得できるくらいだ。


「何か証拠とか……ないか? ちょっと今回ばかりは、いささか荒唐無稽だと……」


 俺が若干気まずさを感じながら言うと、アルノードは少し悩んだ素振りをしてから……スッと『収納袋』から何かを取り出した。


 それは……誰かの頭蓋骨だった。


 ただの人骨は、見慣れている。

 俺とて戦場に出たことは一度や二度ではない。

 火魔法で焼け焦げた者や、火葬した兵たちの骨だけになった遺体など何度見たかわからない。


 だがそれは……俺が今まで見てきたどんな骨とも違った。

 まず色が白い。

 本来なら黄色がかっているはずのそれは、新品の魔物の牙製の剣のように不自然なまでに白かった。


 そして何故かその骨は……うっすらと光っていた。

 魔道具のランプにも満たない淡い光だが……骨が光っていることそれ自体が異常である。


 内部に大量の魔力を宿した素材は、光ることがあるという。

 例えば鉱床から採ったばかりのオリハルコンなどは、地脈の魔力を吸い上げ続けたせいで、しばらくの間は強い光を発すると聞いたことがある。


 顔を上げ、頭蓋を手に持つアルノードの顔を見る。


 眉間に皺を寄せ、口を引き結び、ジッと骨を見つめている。

 非常に複雑そうな顔だ。

 それほどまでに、彼との戦いは激しかったのだろうか。


 スッと骨をしまう彼を見ても、俺は何も言うことができなかった。

 『収納袋』の中へ入れてから、アルノードは再度顔を上げる。

 その時にはもう、先ほどのような不満げな顔はしてはいなかった。


「今のが、ウルスムスの頭蓋骨です」

「たしかに……並大抵の人骨ではなかった」


 なんというか……触れれば今にも動き出すかのような恐ろしさがあった。

 あれが『七師』のものだと言われれば、さすがの俺でも納得せざるを得ない。


「ご苦労だったな」

「いえ、ですが少々疲れました……」

「それはそうだ。気ままな冒険者生活をさせてやれなくてすまないな、今日はゆっくり休んでくれ」

「はい、失礼します……」


 本当にしんどいのか、アルノードはそのまま部屋を出て行った。

 後には俺と、後ろに控えている使用人と騎士だけが残る。


(まさかここで『七師』同士……いや、元『七師』と現『七師』との戦いが起こるとは。しかもそれが、アルノードたちの勝利に終わるとは、正直なところまったく想定していなかった)


 『七師』の存在は、周辺国や属州において非常に大きい。

 有事の際は彼らがやって来て、自分たちの土地を根こそぎ壊し尽くしていく。

 そういった恐怖は、デザントという国についての恐ろしさを骨身に染みこませるだけのものがある。


 けれど今、その一角がリンブルへ鞍替えをし、更にもう一人の『七師』を倒すことに成功した。


 さすがにいなくなればすぐに補充というわけにもいかないだろうから、これでしばらくの間、デザントは『七師』の二人欠けた状態で外征と国内統治を行わなければならなくなる。


 アルノードたちが行っていた東部天領の防衛についても考えれば、余力もかなりの部分はなくなるはずだ。


 となると……更なる好機が、やってきたというわけか。


 今のうちになんとしてでも、アイシアたちを継承レースから引きずり落とす。

 そして後顧の憂いがなくなった段階で、俺が各国を説き伏せてみせよう。


 デザントの落日が……まさか本当に見えてくるところまで来るとはな。

 アルノードが来るまでは、考えられなかったことだ。


 白鳳騎士団の装備が揃えば、彼らをトイトブルク周辺へ派遣させることもできる。

 魔道具の整備も揃っているという話だし……『辺境サンゴ』に最低限の人員さえ派遣してもらえれば、あとはなんとかできるところまでもっていけるはずだ。


 ここ最近、アルノードを始めとする『辺境サンゴ』には少々働いてもらいすぎている。

 未だ不透明な国際情勢ではあるが、今からしばらくの間くらいは、彼らにゆっくりしてもらってもいいはずだ。


 ここまでお膳立てをしてもらったのだから、俺が国内の派閥争いで負ける道理もない。


 そういえばアルノードは、以前ガードナーでのんびりと暮らしたいだとか言っていたな。

 それならその願い、俺が叶えてやることにしよう。


 もちろん、これだけで大恩が返せたとも思っていないが……英雄たちにも休息は必要なはずだ。

 こちらが楽をさせてもらった分、しばし彼らには静養してもらうことにしよう。


 俺はそう決め、即座に文官を呼び出し、諸々の手続きを進めてしまうことにした――。


お読みいただきありがとうございました。

これにて第二章は終了となります。


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