プルエラの野望
【side プルエラ・フォン・デザント】
リンブル王国の中を移動し始めて早二週間。
そろそろデザントとの国境が見えてくる頃合いだ。
私は揺れる馬車の中から乗りだし、虚空を見つめる。
もう見ることはないかもしれない、彼の姿。
それを思い出すだけで、私の胸は張り裂けそうになる。
「……アルノード」
リンブルとの話し合いは、つつがなく終わった。
王太子殿下もお優しい方で、交渉面で齟齬が発生するようなこともなかった。
それに……アルノードと話をする機会だって作ってくれた。
私はいったいどうして、彼と会いたかったのか。
その理由は、実際に面と向かって話してようやくわかった。
私はただ、彼に謝りたかったのだ。
王族の派閥争いに巻き込まれ、デザントにいることができなくなってしまった彼に、ずっと申し訳なさを感じていた。
ガラリオ兄様が実質的な後継者レースから外れた今ならば。
彼をデザントへ、連れ帰ることができる。
国内での風向きは、既に変わっていた。
アルノードの評価は上がり、ただ地味な防衛作業をサボり気味に行っていた人という査定は覆り。
彼はバルクスでの防衛を完遂させ、『七師』ヴィンランドではできなかったことをやってのけたデザントの国士だったのだと、今では知る者も増えてきている。
魔の森からの魔物の侵入が増加傾向にある今、部下と共に魔物たちを斥けていたアルノードたちの力は、デザントからすれば何をしてでも取り戻したいものなのだ。
私はお父様から話を聞いたことで、それをしっかりと理解していた。
お父様は徹底的に無駄を嫌う方だ。
その本心を告げなかったとはいえ、私にアルノードを連れ戻してきてほしいから、わざわざリンブルにまで来させたのだろう。
私はそれをある程度は理解した上で……それでも、アルノードに会いたかったから、ここまでやってきた。
結果として、アルノードがデザントに仕え直すようなことにはならなかった。
私も無理に連れ戻すことはしなかったし。
これは当初の私の目的からすると、ズレているのかもしれない。
けれどしっかりと話をしたからこそ、後悔はしていなかった。
だってアルノードは――今の生活に、十分満足しているのだから。
『わかりました。アルノードは今……幸せなのですね』
『はい、プルエラ様。ですので今すぐに、デザントに戻るつもりはありません』
『そうですか、わかりました』
だったら私は彼にわがままを言って、泣き落としをするようなことはせずに……彼に新天地で、頑張ってもらうことにした。
私ばかりがわがままを言っていてはダメ。
もっと前を、向かなくちゃ――。
「デザントに戻ったら、私も頑張らなくっちゃ。私も尋ねられたときに……今が幸せだと、そう返せるように」
馬車が前に進んでいくと、国と国を分ける境界線が見えてくる。
国と国の間の境目を抜ける、その瞬間。
私はデザントとリンブルが切り替わるのと同時に、気持ちも一緒に切り替えた。
未練を断ち切らなくちゃ……いや、違う。
むしろそれを、明日のための糧にしなくちゃ。
アルノードが自分から来たくなるような場所を作ることができたら……今度こそ、私は――。
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