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最後まで


「セリア、もういいぞ」

「はぁ、結局出番ありませんでしたねぇ……」


 俺は正直なところ、ウルスムスと戦えば『辺境サンゴ』の力を結集させても負けると踏んでいた。

 正確に言えば一手が足りず、力及ばずのまま負けると考えていたのだ。


 なのでセリアには、その足りない一歩を埋めてもらうつもりだった。

 だからこそ彼女は常に離れたところから、いざという時に動いてもらうための準備をしてもらっていたのだ。


 だが結果だけ見れば、その必要はなかった。

 彼女に無理をさせずとも、俺たちだけの力で勝つことができたからだ。


「勝てたのか……」

「勝っちゃいましたねぇ……」


 俺が呆けていると、後ろの方からエルルたちが飛びついてくる。

 勢いがすごすぎて思わず倒れそうになるが、そこは男の意地でなんとかこらえた。


「勝ちましたっ!」

「ああ、勝ったな」

「私たち……あんまり役に立たなかった」

「いや、俺だけじゃ勝ててなかったさ」

「でも本当に、よく勝てましたね」

「ああ、俺もどうして勝てたのか不思議だ」


 いったい何を見誤っていたんだろう。

 俺たちの戦力を低く見積もりすぎていたのか、ウルスムスのそれを高く考えすぎていたのか……。


 少し考えて、なんとなく推測が立った。


 俺は多対一を仕掛けられた段階で、ウルスムスに他のメンバーを人質に取られる可能性を想定していた。

 あるいはその中の誰かが殺されてしまうことも考慮に入れていた。


 しかしウルスムスはそのどちらもしなかった。

 彼は寝ているライライを人質にとって俺を殺そうとはしなかったし、エンヴィーたちの命を奪うこともしなかった。


 最後に放ったような超級魔法を使っていれば、鎧型『収納袋』を貫いた可能性は十分にある。

 けれどアイツは最後まで、あくまでも俺と戦っていた。


 そのこだわりに助けられた……ということなんだろう。


 相互理解ができていれば……ウルスムスと戦わずに済んだり、仲間に引き入れることができるような展開になった可能性もあったんだろうか。

 最初から対話をする選択肢を捨てていた俺は、間違っていたんだろうか。


「彼が虐殺を起こしていたことは事実ですのでぇ、そんなに深く思い詰める必要はないと思いますよぉ」

「……そんなに顔に出てたか」

「隊長は嘘がつけませんからね」


 たしかに、ウルスムスは気まぐれに聖別と称して人を殺すような、大分とち狂った価値基準を持つ人間だ。

 俺があいつに実力を認められたから、ああして会話ができていただけ……ってことか。


 ――そうだよな、少し考えればわかることだ。

 俺とあいつが和解する展開には、絶対にならない。

 今の俺が……少しばかり、感傷的になっているだけだ。


「一応、遺骨は拾っておくか」

「そうですねぇ、いざという時にはスケルトンにもできますしぃ」


 ウルスムスの居た所には、真っ白な人骨が残っていた。

 その身に強力な力を宿す人間の肉体は、魔物の物と同様に素材として使えるほどの硬度や魔力との親和性を持つ。

 ウルスムスの骨ともなれば、ドラゴンやリッチにも劣らぬ優秀な素材として使うことができるだろう。

 セリアの手に掛かれば、それこそ最強のアンデッドの素体にすることもできるかもしれない。


 ……さすがに今は、そんな気は起こらないが。

 今後のことも考えて、一応遺骨は持っておこう。

 『収納袋』から壺を取り出し、骨にひびが入ったりしないよう、丁寧にしまっていく。


「……とりあえず、帰るか」


 納骨を終え、立ち上がる。

 みなからの同意は取れたので、一度街へと戻ることにした。


「うぅん、もう食べられないヨ……」


 眠ったままのライライをおぶりながら、空を見上げる。

 既に日は暮れ、夜が訪れようとしていた。


 結局人的な被害のないまま、『七師』ウルスムスを倒すことができた。


 リンブルとしても重大な脅威の一つが取り除けた。


 そして俺としても『七師』相手に戦うことができたとわかったのだから収穫は大きい。

 セリアの隠し球も残したまま勝てたしな。


 でもとにかく……疲れた。

 しばらくの間は、のんびりと静養したい。


 そうだなぁ、それこそ前にエルルが言っていたように、ガードナーあたりで静養するのがいいかもしれない。


 俺たちはとぼとぼと覚束ない足取りで帰っていく。


 みなまったく元気はなかったが、俺も含めてその顔は明るかった――。


 俺たちは強いのだ。

 『七師』を相手にして、勝利を収めることができるほどに。


 それがわかったことこそ、何よりの収穫――ってことに、しておこうか。

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