vsウルスムス 18
「ふっ、お前もまったく風流のわからない愚か者、というわけではないのか。やはり魔導師の決闘の最後は、己の持つ至高の魔法の撃ち合いと相場が決まっている」
目を瞑りながら意識を集中させていると、ウルスムスが話しかけてきた。
ゆっくりと目を開く。
不思議なことに、今のウルスムスからは険が取れていた。
彼は晴れやかそうな顔をしながら、己が放つ魔法の準備を整えている。
俺は結局……まったくと言っていいほどこいつの考えが理解できなかった。
俺に突っかかってきたところまではわかる。
デザント貴族らしい、選民意識や差別意識があったのも事実だ。
こいつは魔法で何度も無辜の民を虐殺してきているし、意味のない殺戮も何度もしてきた。
だからこそ全力で、こいつを倒すために戦ってきた。
俺がやられてウルスムスがリンブルで暴れ回れば、また多くの犠牲が生まれてしまうと。
そのための魔道具を作り、仲間と共に戦い、まともに戦えば敗北は必至だったウルスムスを、ここまで追い詰めることができている。
だがだとすれば、今のこいつは……どうして俺を相手に、いっそ清々しそうな顔をしているんだろうか。
お前からすれば俺は、自分をあの手この手を使って殺そうとする卑劣漢だろうに。
「貴様に俺が負けるはずがない……存分に用意を調えるがいい」
先に魔法の発動準備を終えたウルスムスが、魔力が凝集され光る右手を見つめながらそう呟いた。
多分だけど……ウルスムスの中では、自分がしていることに一貫性はあるんだろう。
ただそのルールがあまりにも独善的なせいで、本人以外にはまったく理解ができないほど無茶苦茶に見えるって話なんだろうな。
多対一で戦ったり、不意打ちや事前準備を調えていた俺を殺すためなら、さっさと魔法を打ち込んでもよさそうなものだが……そのあたりには、余人にはわからない何かがあるんだろう。
「お前は……どうしてそんな顔をしているんだ?」
「――ふむ、どうしてだろうな。雑種の遠吠えを聞いていても、不思議とそれほど怒りは湧いてこない。戦いの中で精神が摩耗したからか……いや、違うな」
ウルスムスはフッと、小さく笑った。
その笑みは俺が今まで見たこいつの表情の中で、一番まともなものに思える。
つい先ほどまでブチ切れて目を充血させていた人物とは、まるで別人だ。
「俺はここ数年、これほどまでに追い込まれたことはなかった。手段は卑劣にして下劣にして、騙し討ちじみており、まともではなかったが……それでも全力を出せたという一点において、気持ちのいい戦いだった。お前もその部下もカスだが……俺が全力を以て戦えたというその一点で、全ての罪科は帳消しになる。褒めて遣わす」
俺にはまったく理解のできない理論だったが、時間をくれるというのならありがたい。
最終的な段階に至っても、相互理解には程遠かったが――不思議と俺も今は、悪くないと感じている。
やはり全力で戦うと、気分はいい。
死の危険を前にして――俺は気付けば笑っていた。
「ふふふ――あっはっはっは!」
「……ククッ」
二人とも気付いている。
この激突を最後に、立っている者はどちらか一人になると。
だがそれでも……俺たちは笑う。
そして笑い合い――その右手を、相手へと突きつけた。
「『超過駆動』スターダストファイア!」
「『輝くもの、天より堕ち』!」
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