vsウルスムス 16
「マリアベル、合わせてっ!」
「――おけ」
エンヴィーが姿勢を低くし、足を狙いに行く。
対しマリアベルは左側へ周り、ウルスムスの利き手を使いにくくする軌道をとった。
「ぬうんっ!」
ウルスムスは大きく剣を振りながら、マジックインパルスを全方位に放つ。
エンヴィーはその衝撃を受け少しだけ動きが強ばり、マリアベルの攻撃はウルスムスの仕込み杖によって受け止められる。
エンヴィーの攻撃は通ったが、浅い。
回復魔法によってすぐに修復され、ローブの下からは肌色が覗いた。
今度はエルルも合わせた、三人での攻撃。
マジックインパルス自体、難しい技術の一つではある。
それにいちいち全方位目掛けて使っていては、魔力消費が激しい。
そのためウルスムスは使うものを、得意の火魔法の方へ切り替えたようだ。
「紅蓮の禍津波」
ウルスムスはある程度衝撃を伴う火魔法を用いることで、俺たちの勢いを削ぐことに集中していた。
現状、ウルスムスよりもエルルたちの方が個人の近接戦闘能力は高い。
そんな状態で多対一という状況を作られるのを嫌い、多少強引に魔法で隙を作っている感じだ。
だがそれでも全ての攻撃を防ぎきることはできず、ウルスムスの全身には傷が刻まれていく。
あいつはそれを更に回復魔法で癒やしながら戦わねばならないため、戦闘に用いる魔力量は加速度的に増しているはずだ。
更には俺とライライの存在が、常にあいつの意識の一定部分を割いているのも大きい。
隙を見せれば俺たちの本気の一撃を食らう。
それがわかっているからこそ、魔力消費が多く、発動までに時間がかかる大技を使うことができていない。
そしてエンヴィーたちとの戦いに完全に意識を向けることができないため、結果として更に傷は増していき、魔力だけが延々と消費されていく……。
俺も適宜戦闘に参加し、ウルスムスの意識をこちらに向かせながら、とにかく傷をつけていく。
その度に全てを治すウルスムスの魔力は、とっくに空になっていてもおかしくはないはずなんだが……今のところ、魔力切れになる様子はない。
……俺だったら多分、既に二回は魔力が尽きているくらいの量は使ってるはずなんだが。
ウルスムスの最も威力の高い火魔法を封じ込めることができているおかげで、あいつの放つ魔法で俺たちの誰かが即座に死ぬようなことにはならない。
それがわかっているからこそ、みな果敢に攻め立てている。
魔闘気を俺が削りきることができたから。
満身創痍で、まともに防御態勢すらとれない俺を助けてくれる『辺境サンゴ』のみんなが居たから。
こうして今も、戦い続けることができている。
俺は一人では、どの『七師』にも劣るかもしれない。
でもだからこそ、こうして一度干戈を交えたからこそ、自信を持って言える。
俺だけの、じゃない。
俺たちが力を合わせれば……その矛は『七師』にも届く。
再度前進、回復魔法を使ってもその内側の熱までは取れていないウルスムスへと剣を突き立てる。
傷を癒やしながら、ウルスムスは最初と比べれば随分と雑になった振りで、俺との距離を引き離した。
「ク……クソがっ! 卑怯千万、貴様はそれでもデザントの魔導師かっ!」
「今はリンブルの魔導師なんでね!」
明らかにウルスムスから、焦りが見えてきた。
対し俺の方は……うん、割ともうすぐに気力が底をつきそうだ。
他の面子はどうか。
確認してみれば、既にライライは酔いが回りきり眠っていた。
そしてエンヴィーたちも『七師』を相手に近距離戦を挑み続けるという、デザントの人間からすればありえないことを続けているおかげで、かなり消耗している。
肉体的にも、精神的にもだ。
ここまでお膳立てをして、それでも五分五分か……。
だがこの五分だけは、絶対に取らせてもらうぞ。
次に万全の状態で戦えば、俺はお前には勝てない。
だからウルスムス、なんとしてでも……お前はここで、殺す。
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