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『怠惰』

【side サクラ】


 二人で駆けながらやってくると、夕暮れ時よりも早く目的地にたどり着くことができた。

 それにしてもアルノード……いや、アルノード殿の強化魔法はとんでもないな。

 これほどの魔法の使い手で、そして聞いたこともないような魔道具まで持っている。


 正体を聞かずとも、彼が並大抵の人間でないことくらいは察せてしまう。

 恐らくその正体は私と同じ貴族だろう。

 御家騒動で家を追われた元嫡男……というのは、少しばかり想像が飛躍しすぎか。


 馬車より走った方が速いと言われた時は正気を疑ったが、たしかにその言葉に嘘はなかった。

 そして今私たちの目の前には、本物の山賊たちの姿が見えている。


「本当にあるとは……すまないアルノード殿、私は貴殿のことを少しばかり疑っていた。気分もよくなかったことだろう」

「いえいえ、信頼がないのですからそれも当然のことです。それより何より、今はオウカ様の救出を」

「そうだな、その通りだ」


 山賊の根城なのだろう洞穴の内部は、こちらからは見れない。

 自然に隠されてこそいるものの、明らかに人の手が入っている。

 恐らくはもとあった物を、人力で新たに掘り進めたのだろう。


 入り口には歩哨が二人ほど立っており、それぞれ周囲を警戒している。

 手には斧と剣を持ち、盗賊にしては上等そうな麻布の服を身につけている。


「でも妙ですね……」

「いったい何がだろうか、アルノード殿」


 彼の力を目の当たりにし、正体にあたりがついたので、尊大な態度を取ることも控えている。

 彼は首を傾げ、あごに人差し指を当てて叩いていた。

 考えるときの癖なのだろうか。


「自分はここに来る道中、この辺りに居る山賊は狩り尽くしました。彼らはいったい……」

「アルノード殿は彼らの正体が山賊ではない、と考えているのだな」

「ええ、盗賊団を三つほど潰しましたが、どこの頭目もあんな上等な服は着ていませんでした。それに彼らは装備も上等ですし、武術の心得もありそうだ」

「なるほど、参考になるな」


 私には盗賊の服の違いなどはわからないので、アルノード殿の言うことに間違いはないように思える。

 もし彼らが盗賊なら、今すぐにうちと身代金の交渉の一つも始めているはずだ。

 だが、だとすれば……。


「となると、盗賊に扮したどこぞの貴族の手の者だろうな。それならオウカの身は安全だろうから、まずは一安心といったところか」

「足の引っ張り合い、というやつでしょうか」

「フッ、その通り。どこの国にもある派閥争いというやつだ」


 身内の恥をさらしているようで少しばかり恥ずかしいが、嘘は何一つ言っていない。

 リンブル王家を中心にして国を纏めようとする派閥を王党派と言い、アルスノヴァ家はこの派閥を取り纏めている。

 それに対するは、各種領地の発展を最重要視する地方分派だ。

 現在のリンブルは、この二つとそれを静観する中立派を合わせた三つの派閥によって分かれている。

 ちなみにそれぞれの旗印は、王党派が第一王子、地方分派が第一王女、中立派が第二王女である。


「それだと殺すのは問題になるでしょうか?」

「……いや、もし他貴族からの依頼だとすれば証拠が残らないよう気を配っているだろう。それが原因で政治問題になることもないだろうから、特に問題はないはずだ」

「なるほど。では数人だけ気絶させて、後は殺してしまいますね。生きたまま運ぶのは面倒なので、首だけ持って帰ればいいでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってほしいアルノード殿。いくらあなたが強力な魔法使いとはいえ、想像の通りなら向こうにいるのも貴族の子飼いの実力者たちだ。まずはアルスノヴァ騎士団と合流して……」

「いえ、そんなに強い魔力持ちも気力持ちもいないので、大丈夫ですよ。むしろ魔力だけなら、あいつらの頭目よりオウカ様の方が多いです」

「……いったいいつの間に探知魔法を? というかアルノード殿は、いったいどれだけ多才なのだ……」


 探知魔法を使える人間は決して多くない。

 使うために必要なマジックインパルスの均一な放射の難易度は高い。

 それほど精密な魔力コントロールができる人間の絶対数は少ないし、そんなことができるならもっと高威力の魔法や回復魔法を覚えようとするのが普通だ。


 アルノード殿は、いったい……。

 最初は一笑に付していたが、彼はもしやあの謎に包まれた『七師』、『怠惰』のアルノードの高弟か何かなのではないだろうか。


 冷静になって考えているうち、気付けばアルノード殿は指をパチンと鳴らしていた。

 彼の視線の先にいる二人の見張りが、そのまま意識を失って倒れてしまう。

 あれは……『睡眠』の魔法スリープか。

 自分よりも実力の劣る人間にしかかけられないはずだが……。


 もう驚き疲れたよ。

 けれどきっと……いや間違いなく、この後も何度も驚かされることになるのだろうな。


「眠らせました。オウカ様を助けに行きましょう」

「ああ……全てが終わったら、話を聞かせてくれ」

「もちろんです、私もそれを望んでいますので」


 アルノード殿がなんのために手伝ってくれているのかはわからない。

 しかし彼を引き入れることは、リンブルにとって有益なのは間違いない。

 ――いや、今はそんなことなんかどうだっていい。


 待っていろ、オウカ。

 今お姉ちゃんが、助けてやるからな!

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