vsウルスムス 11
「今ならウルスムスとほぼ同等の戦いができるはずだ。俺は待機して回復に専念するから、しばらくの間はお前たちが時間を稼いでくれ」
「「「「はいっ!」」」」
既に傷は癒えてはいるが、全快には程遠い。
全身がまだかなりだるいので、接近戦も先ほどのようにはできないだろう。
そのためエンヴィーたちは、俺を背後に置き去りにして前へと駆けた。
彼女たちの動きは、どこかぎこちなく、固かった。
だがそれも当然。
今から戦おうとしているのは……かつて自分たちが住んでいた場所を属州へと変えてしまった、最強の魔法使い『七師』のその一画であるウルスムス。
俺がかなり削ったとはいえ、あいつはデザントで十指には入るだけの男なのだから。
(だがそのための備えはした。あとは仕上げをご覧じろ……俺は一刻も早く、戦線に復帰しなければいけないな)
エンヴィーたちの装備は、いつもの『ドラゴンメイル』ではない。
今の彼女たちはプリズムの鎧を身に纏っており、兜を着用し肌が出ないようしっかりと全身を防護している。
既に日が落ち始めており、太陽光はない。
そのため反射する光自体が少なく、闇の中にいるために本来なら見える七色の反射光はない。
全身をがっちりと防御しているのは、そうでもしなければウルスムスの火魔法に対抗することができないからだ。
ウルスムスの全力の火力を食らえば、たとえ気力で強化をしていようと消し炭にされかねない。
エンヴィーは正面から、エルルは右から、マリアベルが左から。
三方からウルスムスへと近付いていき、ライライは闇に溶けてその姿を隠した。
ウルスムスはエンヴィーたちの動きを見て、即座に魔法を放つ。
その方向は……上。
「我の太陽!」
ウルスムスは火魔法を宙に滞空させることで、擬似的な太陽を造り出す。
その光源により、後退していた俺と背後から回り込もうとしていたライライの姿が露わになった。
警戒すべきは未だ戦闘能力を残している俺と、先ほど結界をぶち抜いたライライ。
戦力的に優劣をつけ、優先順位が高い順に処理をした結果だろう。
だがエンヴィーたちは……決してそのへんの雑兵じゃないぞ?
「シッ!」
「そこっ!」
左右からの同時攻撃。
開かれたドラゴンの顎が閉じるかのように、二振りの『龍牙絶刀』がウルスムスへと吸い込まれてゆく。
パリンッ、パリパリッ!
結界が破られる様子が、俺からもはっきりと見える。
夜の闇に溶け込んでの奇襲を警戒するため、どこかの誰かさんが光源を出してくれたからな。
しかし……さっきより、少し身体に近いな。
あれだと結界の枚数も、五枚前後になるのではないだろうか。
いくら『七師』とは言えど、手負いの状態で回復を優先させれば、即座に十枚近くあった結界全てを再度張り直すことはできなかったと考えるべきか。
「チイッ、水辺に集るウジ虫共がっ!」
ウルスムスが必死に応戦しようとするが……エンヴィーたちはその攻撃を読み切り、完全に捌いていた。
そもそもが三対一である。
いくら身体能力で勝っていようとも、ウルスムスが近接戦闘で飯を食ってきたエンヴィーたちを相手にするのは厳しいものがある。
「――取った!」
エルルが最後の一枚の結界を割る音が聞こえる。
自分が『七師』でもない……あいつからすれば人ですらない属州民相手に苦戦していることが我慢ならないのか、ウルスムスは顔を真っ赤に変色させ、鬼面のような表情を浮かべているのが、ここからでもよく見える――。
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