vsウルスムス 9
「ほとんど、同時か……」
膝を折り、やってくる虚脱感と戦いながら、そう独白する。
激しい光が、ゆっくりと弱々しい物へと変わっていく。
ウルスムスの身体から、そして俺の身体から、赤い閃光が消え、空気へ溶けていった。
纏っていた赤いオーラが消えると、全身が一気に重たくなった。
魔闘気を使うために、気力と魔力を使いすぎたこと。
そして魔闘気による強化が、気力のみによる強化へ切り替わったことで、身体が重くなったのがその原因だ。
俺の方は魔力が切れたため、内側で気力を循環させ強化を最小限で行っていた。
対しウルスムスは気力が切れ、強化魔法によって運動機能を向上させているため、魔闘気と比べると薄くなった赤いオーラが立ち上っている。
「クソッ……げ、下民の分際でぇ、生意気なっ……」
俺の方もまったく余裕はなく、なんとかして立ち上がるのが精一杯だった。
指先が痺れ、頭の回転が鈍くなり、視界がぼやけて見える。
完全に魔力欠乏症の初期症状が出ていた。
今この瞬間に攻撃をされれば、間違いなく抵抗できずにモロに食らうことになるだろう。
だがそんなことは気にせず、俺は『収納袋』から取り出した魔力ポーションを呷った。
なんとか、最低限度の魔力を回復したところでホッと息をつき、なんとかして顔を上げる。
するとそこには、俺と同様かなりキツそうな様子のウルスムスの姿があった。
ウルスムスの方は、ぜぇぜぇと息を吐いていた。
俺より幾分か辛そうに膝に手を当ててなんとか立っている感じだ。
こいつの場合は、切れたのが魔力ではなく気力である分、全身を襲うだるさは相当なものになっているはず。
気力は循環する、どちらかと言えば内側の、臓腑に関連したエネルギーであり。
魔力は放出することを目的とした、どちらかと言えば外側に指向性のあるエネルギーだ。
身体を動かす分には、気力切れの方がしんどいのは間違いない。
気力の場合は、ポーションでも回復ができず、自然回復を待つしかないしな。
俺は最低限の魔力が回復したことを確認してから――『収納袋』から大量の魔力筒を取り出す。
そして中に入っている下級の属性魔法を、ありったけウルスムスにぶちまけていく。
当たり前だが、そんなものではウルスムスの張っている結界を破ることはできない。
俺が何をしているかを理解したウルスムスが、いやらしい笑みを浮かべる。
「ハッハッ、悪あがきはよせ。そんなもんじゃ俺の結界を破れないことくらい、さすがのお前にもわかるはずだ」
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
俺はウルスムスにはまったく取り合わず、ひたすら『魔力筒』を使い続ける。
もちろん結界は一枚たりとて割れず、ただウルスムスに魔法が飛んでいっては、弾かれて周囲に飛び散っていくという行程が何度も続いた。
さすがにイラついたのは、ピクリと眉間に青筋を立てるウルスムス。
自分がおちょくられているとわかったのか、ギロリと俺の方を睨んでいる。
「無粋な……魔導師の神聖な戦いを、道具で汚すか。お前はやはり、宮廷魔導師たる器ではない。アルノード……お前はここで、死ね」
ウルスムスの右手に凝集された、爆発的な魔力の高まり。
間違いなく、あいつが打てる最大威力の魔法が来る。
俺が一発でも食らえば、ひとたまりもないような――恐らくはウルスムスが個人で開発した、超級魔法が。
避けるだけの余裕はない。
『魔力筒』を握る手も震えており、まともに移動ができる状態ではないからだ。
俺は自分目掛けて魔法を放とうとするウルスムスを見て――笑う。
そして思い切り息を吸い込み……叫んだ。
「やれ!」
「はいはい、相変わらず隊長は人使いが荒いネ」
魔法が現象として現出する直前、第三者の場違いに陽気な声が響く。
そして……全力で放たれた一撃が全ての結界を割り、ウルスムスを思い切りブッ飛ばした――。
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