読唇
初対面は然るべき場所でということで、王都にある王宮で行われることになった。
まず最初は国王との謁見かとも思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
ソルド殿下との面会の方が早いのは、彼の方がデザントの外交上の優先度が高いからなのかもしれない。
「初めまして、ソルド殿下。本日はお日柄も良く――」
「プルエラ王女殿下こそご機嫌麗しゅう――」
久しぶりに見るプルエラ様の姿は……見違えていた。
なんというか、娘の独り立ちを見るお父さんのような気分だ。
男子三日会わざれば刮目してみよとは良く言ったものだが、女の子の成長もこれほど早いんだな。
今のプルエラ様は、前に俺が宮廷に居た頃よりもずっと自分に自信を持っているように見える。
以前のようなおどおどとした態度は鳴りを潜め、しっかりと背筋を伸ばして、デザントの外交を行おうとしているように見える。
リンブルからすればデザントは仮想敵国にはなるんだが……プルエラ様、頑張れと思ってしまうのは、情に流されやすい俺の悪いところだな。
ソルド殿下の方ははきはきと話していて、こちら側は手慣れた様子だ。
けれど、それに食いつこうとしているプルエラ様だって負けてはいない。
……って、いったい俺はどっちの味方なんだろうか。
と自分にセルフでツッコミを入れているうちに、気付けばかなりの時間が経ってしまっていた。
ぼうっとしているうちに、二人の間の話は終わったようだ。
双方とも長ったらしい装飾塗れの口上を述べていたが、要約すれば両者の言い分は『今後とも仲良くしましょう』という一言で言い表せる。
それをとにかく厳かな感じで言うのが、貴族社会というやつなのだ。
そもそも俺は政治の細かい口出しなんかはしないしできないので、ただ立っているだけである。
俺がいるからか、機密のようなものはまったく話題の端にも出なかった。
プルエラ様の目的は、本当にただの表敬訪問なんだろう。
特にすることがないおかげで、俺はめちゃくちゃ暇を持て余していた。
最初の方は何かあるかもと気張ってたが、しばらくして何もなさそうになってからは警戒レベルを落としている。
少し余裕ができたから、全然関係ない方向に思考が逸れていったんだけども。
「では、これで」
「はい、ですがその前に一つよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ」
ソルド殿下とプルエラ様が立ち上がり、握手を交わす。
そしてソルド殿下はくるりと振り返り、俺の方をジッと見つめてきた。
アイコンタクトで、何かを伝えようとしているようだ。
俺の方もジッと見つめ返すが、何を言おうとしているのかがまったくわからない。
男二人が黙々と見つめ合う、地獄のような時間が流れる。
殿下は諦めたのか、パクパクと口を動かした。
読唇術ならある程度の心得があるので、ようやく殿下の意図を知ることができる。
(こ・こ・に・の・こ・れ)
俺がコクリと頷くと、ソルド殿下は満足げな顔をしてそのまま部屋を出ていく。
そして応接室の中には……俺とプルエラ様、そして彼女の護衛である騎士たちだけが残る。
ここに残って……俺にいったい、どうしろと?
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