ウィンク
「毎晩夜遅くまで、何をやってるんだ?」
「なんだ、気付いてたのか」
「いや、以前夜に目が覚めて厠に行っていた時にな。アルノードの部屋の灯りが付きっぱなしだったから。それ以降たまに見た時があったが、毎回灯りがついていたのでな」
サクラも『辺境サンゴ』に入るからには、強くなるに越したことはない。
彼女との朝練だけは、毎日続けさせてもらっていた。
数日で見違えるほど変わるわけではないが、それでもわずかに動きが良くなってきた気がする。
足りていなかった対人経験が、補われているんだと思う。
サクラはどうやら侯爵家の娘ということで、本気で戦ってもらえていなかったようだから。
「色々と準備をしてるんだよ」
「それは、会談のための……ということか?」
「ああ」
「アルノードは何かが起こると考えているんだな」
「その通り」
俺がなんの準備をしているかは、サクラにも伝えていない。
未だ絵図は、俺の頭の中に留めておいてある。
彼女は不満そうな顔をしているが、全てを話すつもりはない。
俺の予想を伝える人間は、最小限に留めておかなくちゃいけない。
それこそ精神操作系の魔法で操られる可能性があるサクラには、教えるわけにはいかないのだ。
もし事前にバレたりすれば、対策の意味がなくなるからな。
色々と作ってみてはいるんだが……やはりどれもしっくりこない。
これならいけるという魔道具は、未だ作ることができずにいる。
トライアンドエラーを繰り返しているうちに、時間が経過していく。
焦り始めていた俺の前に、久方ぶりに『辺境サンゴ』の面々がやってくる。
なるべく早く伝えた方がいいと思ったので、俺は帰還早々、クランの幹部たちを招集することにした。
「久しぶりだな、みんな」
「隊長もぉ、お疲れ様ですぅ」
俺が呼び出したのは、現在のクランで中心的な役割を果たしている者達。
エンヴィー、マリアベル、エルル、セリア、ライライ、シュウの六人だ。
少し無理を言って、セリアとシュウにも来てもらっている。
俺がそれだけ、本気ということでもある。
ぶっちゃけ行き詰まっているというのもあるな。
「ずいぶん厳重じゃないですか、これ」
「内密の話し合いってことでしょ、少し考えればわかることだよ」
「何、何なの、戦う?」
「もはや僕が戦闘能力ないの、わかってて言ってるでしょそれ……」
言い争うエンヴィーとシュウの声も、周りには漏れないようになっている。
周囲には結界魔法で強固な結界を張り、あらゆる音をカットできるようにしてあるからだ。 そして併せて幻影魔法も使っているため、今の俺たちは優雅な昼食を摂っているように見えているはずだ。
これでデザントの密偵がいたとしても、中で何を話しているかバレる心配はない。
「今日集まってもらったのは他でもない」
ゆっくりと、一人一人に目を向けていく。
じゃれていたメンバーたちも、元から真面目な顔をしていたメンバーたちも、みながこちらを向く。
「実は俺たちで一つ、大仕事をやろうと思っているんだ」
「大仕事……ですか?」
「私たちが?」
「『通信』の魔道具作りよりどうでもいいことだったら、怒りますよ」
「さっさと本題言ってくださいよぉ」
安心しろ、多分この大陸にとって、そこそこ重要なことではあるから。
『通信』の魔道具とは違って、いささか生々しくはあるがな。
俺は以前大隊で一緒に行動をしていた時のように、親指をグッと立てた。
そしてちょっと一狩り行ってこようぜというような気軽な態度で、パチンとウィンクをする。
「デザントから来る『七師』……みんなで力を合わせて、倒そうぜ!」
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「アルノード!?」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!