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プロローグ


 いつものように天領での魔物討伐を終え帰ってくると、兵舎に人だかりができていた。

 何事かと思い輪の中へ入っていくと、なんとこの混雑の理由は俺にあるようだ。

 なんでも王都からやってきた紋章官からの呼び出しがかかっているらしい。


 紋章官というのは、王家の使う王印を管理する立場の宮内職だ。

 王と密接な関わりを持っているため、強大な権力を持っている。

 そんな人物からの呼び出し――正直なところ、嫌な予感しかしない。


 けど追い返すわけにもいかない。

 俺も王国の禄を食んでいる身だし、王に取り立ててもらった恩もある。

 宮廷魔導師として、王家には敬意を払わないといけないのだ。





「アルノード男爵」

「はっ!」


 紋章官は、三十を超えたがっしりとした体つきの男だ。

 襟にある紫色の帯は、彼が第二王子の紐付きであることを示している。

 俺はそんな王家直属の人物を、兵舎の中の応接室に案内することになった。

 彼は封書を開くと、その内容を読み上げる。


「軍務大臣エオルデ・フォン・フランツシュミット様からの命令を言い渡す。貴公は本日付で国外追放の刑に処されることとなった。それに伴い宮廷魔導師の資格は剥奪される」

「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「職務怠慢がその原因だ。卿は他の宮廷魔導師たちと比べると戦果が挙げられていない」

「――私の命令は天領の防衛です! 他国への侵攻を担当するウルスムスたちと同様の水準を求められても不可能なのは、当然のことではないでしょうか」


 宮廷魔導師というのは、魔術師の中でも特に秀でている者たちが、王からの選任を受けることで就くことのできる名誉ある仕事だ。

 七人しか任命されることのない非常に狭き門で、なれるだけで自分だけではなくその子孫まで生活に困ることがなくなる。

 就任できただけで貴族位が与えられ、貴族位の世襲が認められるようになるからだ。


 この場合の優秀さというのは、魔導師としての戦闘力のことを指している。

 侵略を繰り返し領地を拡げてきたデザント王国では、どれだけ殺傷力の高い魔法が使えるかが重要視される。

 俺以外の宮廷魔導師たちは、みんな戦場で派手な成果を示し、その存在感を示し続けていた。


 でも俺には、残念ながらそれができない。

 与えられた任務が、この東部天領であるバルクスの防衛だからだ。

 魔物と生存領域がかち合うこの場所で、これ以上魔物たちに領地を荒らされぬよう防衛することが、宮廷魔導師としての俺の役目。

 現状維持をすることを目的としている場所で、華々しい成果なんか出せるはずがない。


「これは王命である! ――これ以上の言葉は叛逆とみなし、直ちに爵位を取り消しの上、死罪とするが?」

「……承知致しました」

「――よかろう。ふぅ……わざわざ辺境くんだりまでやってくるほど、私も暇ではないんだがな」


 いくら魔法で魔物を倒せたところで、世俗的な権力には逆らえない。

 まったくもって納得はできないが……国外追放処分は受け入れなくちゃいけない。


 けど、王だって俺がここで手柄を挙げようがないことくらいわかっているはずだ。

 ……どうにも政治的な臭いがするな。





 宮廷魔導師も紋章官と同様に宮内職なので、王宮内の権力闘争とは密接な繋がりがある。

 派閥闘争のような無意味な争いが嫌いなので、俺はいつも中立派だった。

 跡目争いをしている王太子と第二王子じゃなく、かわいらしい第二王女殿下プルエラ様の派閥にいたくらいだ。


 王位継承権第六位の殿下と仲良くさせてもらっていたのは、彼女が小さい頃に俺の妹分だったレリアにどこか似ていたからだ。

 まさか血のつながりがあるとも思えないが、もしレリアが大きくなればこんな風になっているだろうと思っていた、そのままの見た目をしているのだ。

 特に笑顔がそっくりだったりする。


 とまぁ、俺は出世レースとは一歩外れたところで自分の仕事を黙々とこなしてきた。

 そんな姿勢が、多分どちらかの陣営に目障りに映ったんだろう。

 日和見主義とでも思われたのかもしれないな。


 まぁ官職とおさらばできるというならそれでもいいだろう。

 これでも宮廷魔導師になれるくらいには魔法の才能もある。

 適当に魔道具でも作って魔道雑貨商人にでもなれば、余裕で暮らしていくことくらいはできるからな。




 決意を新たにしてから、出発にあたって必要なアイテムをリュック型の『収納袋』に入れていく。

 これは空間魔法を付与して自作した魔道具だ。

 一見するとただのリュックにしか見えないが、本来の千倍以上の容量がある。


 この『収納袋』は空間魔法と付与魔法の才能がある程度ある人間なら、割と簡単に作ることができる。

 もっともその両方を持っている人間自体、かなり少なかったりはするんだけど。

 軍需物資扱いなので流通量が国に厳格に指定されていたりもするが……売らずに自分で使う分には、いくら持っていても構わないのだ。


 この魔道具において、増やせる収納容量にはある程度のところで頭打ちになる。

 だが高級な素材や魔力触媒を使えば、更にいくつかの効果を付けることができる。


 自分で使う物には自重をせず貴重な素材を大量に使っているため、『重量軽減』や『遅延』なんかの効果がついていたりする。

 『遅延』の効果がどれくらい強力なものになっているかはわからないが、少なくとも数年前に入れた生肉は今でも全く問題なく食べられる。

 多分内部ではほとんど時間が止まるくらいにはなっているんじゃなかろうか。

 サラマンダーの逆鱗からドラゴンゾンビの腐蝕革、ストームパイソンの昂角にユニコーンの糞まで、使える物はじゃんじゃんぶち込んだし。


 この辺境に来て唯一よかったと思えることは、タダで大量の魔物素材が手に入るところだな。

 配下の兵士たちに配ってもだぶつくくらいの量が手に入ったし。


 よかったと言えば、あいつら――第三十五辺境大隊に出会えたことも、その一つだな。

 自分のことを慕ってくれるやつらと出会えたことは、人生の中でも、一二を争うくらい素晴らしいことだと思う。


 この場所を去ることに少しもの悲しさを感じながらも、淡々と物を入れていく。

 多分俺がここで作った『収納袋』は世界トップクラスの代物……だと思う。

 最高級品の『収納袋』はほとんど流通しないし、俺はそもそも魔術師に友達がいないから、あくまで推定だけど……。


 ちなみに血を一滴垂らし、本人認証をしないと開けない造りにしているので、盗まれても俺以外の誰にも使うことはできない。

 防犯対策もバッチリというわけだ。


 そんな『収納袋』に今まで作ってきた魔道具や装備、ストックしてあった食料なんかを入れていく。

 すぐにいっぱいになってしまい、また新たな物を。

 全てを収納しきったときには既に十個近い『収納袋』がはちきれそうな状態になってしまっていた。

 内容量は、リュックのパンパン具合で可視化されるようになっているのでわかりやすい。


 そしてそれらの奥には、ここ五年分の防衛任務でため込んできた魔物の素材たちが入った『収納袋』が百個近くある。

 いやぁ、自分で言うのもあれだけどよくこれだけの魔物を狩ってきたものだ。

 別に持っていってしまっても構わないだろう。

 元々素材のうちのある程度を上納すれば、残りは好きにしていいって話だったし。


「――よっこいしょっ! ふふっ、今の俺に持ちきれないものなどないのだ」


 思わず笑みをこぼしながら、机の下の引き出しから目的のブツを取り出した。

 新たに現れたのは、兵士が出兵時に背負うサイズの大きなリュックだ。

 もちろんこれも『収納袋』なのだが、色々と試していくうちに今までにはなかった新たな効果を付けることに成功していた。

 貴重な『リッチの冥核』をほとんど全て使うことでようやく完成したこいつに付与されているのは、『相互魔力場を中和し、包括する新たな魔力場形成』。

 めちゃくちゃ簡単に言えば、これは『収納袋』を入れられる『収納袋』なのだ。


 通常『収納袋』の中に『収納袋』を入れることは、互いの空間魔法が干渉し合うため不可能とされていた。

 これはそんな不可能を可能にした、スーパーな魔道具なのである。


 そういえばこの空間魔法の相互干渉を中和するための理論についての論文、書き上げたけどまだ提出してなかったな。

 直近で来た魔物の軍勢(スタンピード)を食い止めようと必死だったから忘れてた。

 ……もう出す必要もなくなったわけだけど。


 というか今思えば、俺がこんなことになってるのって、宮廷工作をなおざりにして研究に没頭したせいじゃないか?


 ……あんまり王国を恨まないようにしよう。

 たしかにこの国は腐ってるが、追放される理由のうちの半分くらいは、何かをするとすぐ周りが見えなくなる俺のせいな気がする。

 新天地でやり直すときは、もう少し気を付けないとな。


 少し悲しい気持ちになりながら、俺の五年間の仕事の成果をスーパーな『収納袋』へ入れていく。

 こいつは普通のものとは区別して、何か新しい名前をつけるべきかもしれない。

 時間はたっぷりある、道中ゆっくり考えるとするか。

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