返事がないただのしかばねが返事してしまった件
※改稿しました。
どうもカオスです。
知る人ぞ知る長編『壊れた歯車は異世界に行っても壊れたままだった』の作者です。
なんか突然ひらめいてしまったので執筆してみました。
これが初めての短編です。
宜しくお願い致します。
どうも、しかばねです。
今、私はとある監獄の1部屋の隅で無様に骨になって横たわっています。
しかし、肉体も脳もないはずの死体なのに何故か意識だけはあります。
さて、どうして私はこうなってしまったのか。暇なので解説しよう。誰もいないけど。
かつて、しかばねになる前の私は王国の選定により、勇者に選ばれました。選ばれた理由は単純に一番強かったから、みたいです。
それから私は旅先で出会った頼りない仲間と共に、魔王討伐の為に旅に出て、数々の敵を倒してきました。主に私が。
しかし、ある日魔王軍の強〜い幹部のバカ野郎によって私達のパーティは全滅し、魔王領地の監獄へ収監されてしまいました。
それから誰も助けには来ず、ひたすら過酷な労働を強いられ、食事もろくに与えられなかった私達は栄養失調により1ヶ月も持たずに、しかばねと化しました。
しかばねはそのまま放置された為、やがて肉体は腐食し、骨だけになりました。
――で、それから数百年くらい経過して今に至ります。
当然動けないので、外の様子だとか魔王がどうなったかとか等の情報は一切分かるはずもない。
ですが、不思議なことに耳がなくても何故か音はよく聞こえるので、この監獄の状況はなんとなくですが把握しています。
今、この監獄には恐らく誰もいないでしょう。
なぜって? 音が一切聞こえてこないのです。
不気味なくらいの静けさが監獄を支配しています。
音が聞こえてきたとしても、大抵風かネズミのどちらかです。幽霊さんは……たまに来ますが、骨だけの私には興味がなく素通りします。壁を抜けて移動できるなんて羨ましいです……。
なので、誰と会話することも、そもそも生物すらまともに見てません。
せめてネズミでもいいから私の目の前に現れてくれないかと願うばかりです。
何の変わり映えもしないこの光景を見続けるなんて辛すぎます。
最初、骨になってからは、過酷な労働をしなくて済む! と喜びを感じていた時期もありましたね。
正直、魔王討伐も超めんどくせえと思っていたので、今後は、どんなにぐうたらしても何も言われないし、食事もしなくてもいいという夢のような生活を送れると思っていたのですが……。
さすがに数百年もこのままなので、変化が欲しいと思ってしまいます。
いやー、本当に何か変化は無いですかね?
何かするにしても、壁のシミの数を数える事、ネズミが鳴き声を上げる回数を予想する事、壁に次にヒビが入るのがどの位置かを予想する事くらいですかね……。
まあ、もちろんどれも全然楽しくないですけどね……。
ははは……。
はぁ……。
しんどい。
誰か来て。
誰か来てよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
頼むからさああああああああ!!!
せめて、勇者か冒険者がここに来て、私に向かって『返事がない。ただのしかばねだ』くらいに思ってもいいからさああああああああああああ!!!!!
…………。
…………。
まあ、そんなこと思っても無駄だけどね。
どうせ誰も来ないよ。
だって私、故郷に居た頃からすげえぼっちだったもん。
はい、2人1組になってー、と言われても必ず余るし、超陰キャだから誰かと話しても、私の声が小さくてうまく伝わらなかったり、超絶コミュ障だから話がうまく噛み合わなかったり……。
いや、私には共に苦難を乗り越えた仲間いるじゃん。と思ったけど――
みんな目が死んでた。
強敵が来ても、チームワークバラバラだった。
強敵倒して、喜びを分かち合おうとしても、みんな目が死んでた。
まるでつまらない業務をやるみたいに虚無感を醸し出してた。
会話もあまりしなかった。
したとしても、やっぱり目が死んでた。
魔王幹部が現れた時も目が死んでた。
というか、常に目が死んでた。
魔王幹部に敗北して捕まった時は、さすがに焦燥感に駆られて目が泳ぐくらいするのかと仲間達を見てみたけど、やっぱり目が死んでた。泳ぐ前に死んでた。というかもう既に死んでない?
過酷な労働を強いられた時も――いや、もう言わずもがな。
なんだこれ。
いや、本当になんだこれ。
彼らにとって、私との冒険って何だったの?
そんなに虚無感を醸し出して冒険するなんて聞いたことないよ?
そんなに私が嫌いだったの?
だとしたら、なんで私についていったの? 確かに私生前はまあまあ美少女だったからその理由だけでついていってかもしれないけど。
私がなかなか喋らなかったから? チームワークがバラバラだったから? それなら確かには私の責任と言えなくもないけど、なんかショックだわー。
……はぁ……。
何なんだろう、私の人生って……。
ただ虚しく過ごして、雑に勇者に選ばれて、雑に冒険して、雑に捕まって、雑に死んで、雑にしかばねになって……。
私、何の為に生きてるの? もう死んでるけど。
誰か教えてよ。
誰か……。
……誰も来ないよね。
この数百年間、こんな風にずっと祈り続けたけど、何か起こった事なんてなかったよ……。
ああ……でも、思ってしまう、願ってしまう。
誰か来て、と――
ガタッ。
ん?
なんだ、音がする。
いつものネズミか?
だが、ネズミの足音にしては音が大きい。足音が響くなんて、それなりに大きな生物でなければ出ないだろう。しかも、素足でもない。硬いものを打ち付けるような音だ。
この音は聞いたことがある。
あぁ……数百年振りに聞いた……。
そう、これは人の足音だ。
目的は分からないけど、誰か来たんだ!
こっちだ! ここに来てくれ! 私はここにいる!
来て!
お願いマジで!
来てよ!
お願いします!
何でもしますから! 何もできないけど!
そんな私の願いが通じたのか、冒険者らしき2人組の男が現れた。1人がランプを持って部屋を隅々まで照らすと、残念そうな顔で首を横に振った。
『ここも何もなさそうか』
ここにあるよ! ピッチピチの美少女ギャルが! 骨だけど!
『そうだな、あるとしたら……そこのしかばねくらいか』
や、やった!!!
人が!!!
人が声を出して、しかも私を認識してくれた!!!!!
嬉しい!!!
変わり映えしなかったこの景色に新たな色がついた!
あぁ、凄い……白と黒以外の色が加わると、ここまで色彩が豊かになるのか!
『なんか、不気味だな』
『ああ、幽霊とか出そうだ……』
たまに来るけど、悪い幽霊は来たことないよ。
『おいやめろよ! 幽霊じゃなくて、宝か何かがあるかもしれないし、一応ここもさっさと調査しちまおうぜ!』
『そ、そうだな!』
男達はしなくてもいい恐怖で身を震わせながら、この部屋に足を踏み入れ、調査を開始した。
ああ、もっとのんびりしててもいいのよ?
なんなら住んじゃう?
男でも大歓迎よ! お茶はないし、出せる力も身体もないけど!
1人の男が私の骨に触れた。
『……』
何か思う事があるのか、じっと私を見つめている。
『うん、返事がない。ただのしかばねだな。こりゃ』
言った……言ってくれたああああああああ!!!!!
私にしかばねって言ってくれたああああああああ!!!!!
やっぱ、骨だけの死体を見るとそう言うんだ!!!
私の予想が当たった!!!!!
嬉しい!!!
あははははははははははははは――――
――――はっ!!!
部屋を見渡してみると、さっきまで居たはずの男達がいない。
というか痕跡すらない。
あぁ……どうやら夢だったようだ。
さっきまでのテンションが嘘のようだ。
さっきって言っても夢だけどね。
あはははは……。
笑えねえよ夢オチなんて……。
くそ……くそおおおおおおおお!!!
その後、私はしばらく放心した。
夢から現実への落差に、私の精神は大きなダメージを受けた。いや、ダメージ受けるって……死んでるはずなのに不思議だよねー。
はぁ……さっきの夢が正夢にならないかな……。
私は、そう願いつつ、また虚無感溢れる1日を過ごすのだった。
ん?
いつの間にネズミが目の前に居た。
色々考え込んでたからか、全く気づかなかった。
ネズミは、まるで私を慰めているように私の骸骨に前足を置いた。
なんだ、慰めてくれるの?
『ありがとう』
感謝を伝えたくてそう声を出してみると、ネズミは声にビックリしたのか、慌ててどこかへ去って行ってしまった。
どこに行くの、行かないでと思うよりも前にあることに気づいた。
あれ? 今、私しかばねなのに……喋ったよね?
私、骨だけのはずなのに……喋れないはずなのに……返事してしまった。
『わたし……喋ってるーーーーー!?!?!?』
最後まで見て下さり、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
楽しんで頂けたのなら幸いです。
もし、好評ならば、今後、この作品の長編版を執筆することも考えます。
宜しくお願い致します。