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君の背中にはレッテルがある  作者: 川住河住
プロローグ
1/32

1話 出会い

「なあ。お前、見えているんだろ?」

 名前の分からない男がそう言った。

 僕は動揺を見せないように黙って考える。

 どうしてバレた、と。

 今までずっと上手く隠してきた。

 誰にも知られないように生きてきた。

 それに、ちょっとやそっとのことでバレるものではないはずだ。

 考えていくうち、()()()が話したのかもしれないと一瞬疑った。

 だが、それはないとすぐに打ち消す。彼女は、そんなことをする人ではない。

「おいおい、無視しないでくれよ」

 教卓の前で仁王立ちしている男がまた口を開く。

 そもそもこの男は誰なんだ。

 名前は知らないけれど、校内で何度か姿を見かけたことがある。それどころか廊下ですれ違い、挨拶をしたことだってある。

 年齢は二十代半ばから後半くらい。今日もまた黒色のスーツ、白いワイシャツ、紺色のネクタイを締めている。毎回同じ格好をしているから見間違いようがない。

 最初は今年採用された教師だと思っていた。けれど、今になって新任式でこの男の姿を見ていないことを思い出す。

 教育実習に来ている大学生でもないだろう。入学式があったばかりの四月に教育実習なんてないはずだ。

 学校に出入りする業者か、他校の教師が出張で来ているという可能性も考えた。だが、部外者が一人で自由に行動していいはずがない。ましてや勝手に教室に入って、生徒に話しかけるなんて……。

 そもそもいつの間に入ってきたのだ。僕が教室に入ってきた時にはいなかったはずなのに。

 今は放課後。生徒は下校するか、部活動に向かう時間帯だ。

 僕は荷物を持って帰ろうと思っていたところに声をかけられた。声のする方を向けば教卓の前に男が立っていたのだ。

「何のことですか?」

 一人で考えてばかりでは答えが見つからない。

 相手がどこまで知っているのか。どうして知っているのか。

 それらを確認するために質問してみる。

「お。ようやく反応してくれたか。嬉しいねぇ」

 難しい顔をしていた男の表情が緩んだ。

「あなたは誰ですか? この学校の教師ではないですよね」

 言いながら教室の出入口を横目で確認する。

 ここを出て職員室か、警備員室に行かないと。

 残念ながら前も後ろも両方とも戸が閉まっている。走って行くとしても戸を開ける手間がある。

 面倒だ。男に気づかれないように片足を出入口の方に向ける。

「俺のことはどうでもいい。今は、お前のことを話そう」

「だから、何のことを言っているのか分かりません」

「能力のことだよ。お前のその、見える能力のことを言っているんだ」

 まずい。

 やはりこの男は知っている。

 これは非常にまずい。

 出入口に向けていた足を名前の知らない男に向け直す。

「もう一度聞く。見えているんだろ? 頼む。教えてくれ!」

 男は真剣な表情で言うと、深々と頭を下げる。

 いつ知ったのだろう。

 どこまで知っているのだろう。

 どうして知っているのだろう。

 いくつもの疑問が頭の中に浮かんだ。

 ほんの少しだけ考えてから決断する。

 これで二人目か、と思いつつ、重い口を開いた。


「ああ、僕には見えているよ」


 そう答えてから僕は、今までのことを振り返る。



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