不穏な雲行き
おばの領地は、王都から離れた田舎の長閑な場所に位置している。
此方は農地と大きな湖に恵まれて、領地の規模に対して恵まれた環境と言えた。
パトリシアの生家との違いは、おばがこの地の利を活かし先を見通せて、大変賢い女性だったからだろう。
湖では漁で潤っている他、観光地用に大きなホテルやコテージといった観光にも力を入れていた。
田舎にしては王都の大きな商店を積極的に誘致し続々と支店を出させ、目抜き通りには人気の商店が軒を並べるように整備し、観光にも一役買っていた。
それで人気の静養先として、有力貴族達の避暑地としても賑わっていた。
領民の税金にしても周りの領地に比べて若干低く抑えられていて、領民の生活は豊かで潤っていた。
その為経済が上手く回り、領民の購買意欲も盛んであった。
これだけ見てもおばの領地経営能力の高さが窺える。
おばは夫を亡くしており、その亡くなった夫が父親の遠縁にあたる。
ウチの母親とは相性が悪く、今まであまり行き来が無かった。
今回は幸運にも父親が早馬で打診してくれて、急遽お世話になる事が決まった。
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その頃、姉のロザリンドは婚約者と上手くいっていなかった。
会っても心ここに在らずで生返事を繰り返し、婚約者を困惑させた。
身分の高い公爵家の嫁に、自分こそが相応しいと思っていた為だった。
そして今まで猫を被り、決して婚約者に見せることが無かった素の自分を、少しずつ見せる事になった。
あからさまな変わりように、婚約者をはじめ友人達も首を傾げた。
ある日の事、ロザリンドは女性の友人と婚約者の家を訪ねていた。
「このところ忙しい様だけど何かあるのかい?」
「あ、あぁ。家に大切なお客様がいらっしゃるの。それでよ」
「何方がいらっしゃるの?」
一緒にお茶会をしていた友人が聞いてくる。
「え、あぁ。公爵様。父のお友達なの」
「そうなのかい、そんな話初めて聞いたな」
「そうよね」友人の女性も同意する。
「それで何故君が忙しいの?」
「私じゃないと務まらないのよ、お相手が」
「ご両親のお友達だろう?」
「そうだけど、何?私がお相手したら悪い訳?」
「そんな事一言も言って無いよ、ほら以前君が観たがっていたお芝居の席がやっと取れたんだ」
「ふーん」
「ふーんって。あんなにおねだりしてたじゃ無いか」
「そうでしたかしら?」
「何?興味がもうなくなったの?」
「色々忙しいから多分行けないわ」
「お相手するにしても、始終居なきゃ行けない訳では無いだろう?お芝居に行く時間はあるんじゃ無いか」
「まぁそうだけど、予定がまだ分からないから空けておきたいの」
「そんなわざわざ手に入れてくださったんでしょう?」
友人は呆れて言う。
「別の人にあげれば?あ、うちの妹が欲しがるかも」
「君どうしちゃったんだい?」
「ハァ?それどういう意味よ。私がワガママだっていうの?」
「そんな事一言も……」
「言葉にはして無いけれど顔つきがそういってんのよ!」
「不快にさせたらすまない」
「少しは気を遣ってよ、イライラさせないで!」
「それはどういう……」
「……」
「ごめんごめん。では予定の無い日に行こうか。まだ期間は残っているし、予定が空いた日を教えてくれる?」
「もしかしたら公爵様の御一家もいらっしゃるかもしれないから、お約束出来なくてよ」
「それは決まった事なの?」
雰囲気の悪くなった二人を取り持とうと、友人はあたふたして言った。
「まだ分からないわよ。そうなるかもの話!」
「そこまで配慮しなくてはいけない相手なの?他の姉妹もいらっしゃるでしょう?」
「貴方は黙ってて。パトリシアは病気療養中でここに居ないし、セシリアは我儘で常識知らずなの」
「それはあんまりじゃあ……」
「もう二人ともしつこい!」
「しつこい?」
「私は婚約者だけど妻では無いのよ!ずけずけものを言うの止めてくれないかしら」
「提案しているだけだろう。君があんなに観たいと言うから」
「婚約者なら当たり前でしょ。煩わせないで」
そう言うと席を立って帰ってしまった。友人も後を追う。
「彼女人が変わったようだ、何かあったのかな?」
するとメイドが言いにくそうに口を開く。
「坊ちゃま、先程お話し中にあちらのメイドに話を聞きましたら……」
「どうしたの」
「その公爵様のお相手を、パトリシアお嬢様にとご両親がおっしゃったのに、無理やりロザリンド様が」
「それで?」
「凄い癇癪を起されて、物を投げて手が付けられなかったと。パトリシアお嬢様はそのせいでご静養に無理に出されたようです」
「癇癪?」
「昔からよく物を投げたりして、起こしていたようですよ。ご両親は注意もしないと」
「嘘だろう。それでどうやって収まるんだ?」
「物を買い与えたり、好きな所に連れて行くからと約束すると、収まるそうなのです」
「躾がなっていないと言うのか」
「使用人は皆言っています。今まで黙っていて済みません。坊ちゃまにはそのような事が無かったので、お耳に入れるべきではないかと」
「いや知らせてくれてありがとう。少しこちらでも調べてみるよ」
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