出発
あれから気の毒な事に、雇い主に振り回される使用人達の嘆きが、聞こえるようだった。
昼間に大掃除をしてピカピカに磨き上げられた場所を、滅茶苦茶にされた。
姉が癇癪を起こし、花瓶や飾り物の皿などを投げて暴れた。
その上夜遅くまで後始末もやらされて、疲れてやり切れない事だと思う。
姉の幼い頃は頻繁に起こしていた癇癪を、年頃を迎えてからは久し振りに見た。
今迄は長女大事な両親が、怒ったり注意したりした事が皆無で、ドレスや宝飾品、話題の場所への避暑等でご機嫌を取り、黙らせてきたので私も姉の癇癪を久々に目の当たりにした。
年頃になり分別も付くようになったのだから、あそこまで酷いとは思わなかった。
幼い頃、次女の私は長女の振る舞いを見てあんな風にはなりたくないと反面教師とした。
要領のいい三女の妹は二人の姉を見比べて、其れが得になると踏んだのか元々の気質か、姉程激しくはなかったが同様の癇癪持ちとなった。
一晩寝て冷静になって流石にまずいと思ったのか、姉は高級な品々を破損させた事を、あなた達が止めないからと使用人を叱って責任転嫁した。
でもお蔭で根負けした両親が、姉が公爵のお相手を務める事を了承し、私は親戚の家に病気で一時療養と言う名の避難が実現した。
自身の身の振り方をどうしようかと頭を悩ませていたので、渡りに船と姉の提案に乗り、公爵が来られる数日前から出かける事になった。
馬車に意気揚々と乗り込む私を見て、晴れ晴れとした姉を除いて両親は苦虫でも嚙み潰したような顔をしていた。
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「ハァ~。いい天気、生き返る~!」
街を出て田園風景になったところで、私は漸く肩の力を抜く事が出来た。
「お嬢様、窓から顔を出すのはお止め下さい」
「だってやっと息が出来る。ねぇ、この感覚分かるでしょ」
「……そうですね、ご家族から離れられたお嬢様は生き生きとされております」
馬車の窓からすがすがしい風が吹く。
顔は引っ込めたが、手を窓から出して日の光と風を感じる。
「皆には申し訳なかったけど、姉が癇癪を起してくれなければ実現しなかったのよ~」
「それはそうですが宜しかったのですか?公爵閣下のお目に留まれば、未来の公爵夫人も夢では無いのでは?」
「目に留まる訳にはいかなかったの。いやよ、堅苦しくて厄介な公爵夫人とか」
「そうでしょうか?お嬢様は努力家で心配りもお出来になります。公爵夫人になる資格は十分おありになるかと」
「なりたくないの。自由にのびのび暮らしたいのよ。実家も居場所が無いしね」
「そのような事はありませんよ」
「ありがとう。そんな風に言って貰えて嬉しいけど、両親があんな風でしょう?両親が選んだ方に嫁いでも、幸せになれるとはどうしても思えないの。だから自分の道は自分で探すと決めたの」
「……さようでございますか、差し出口をききました」
「本当に私の心配をしてくれるのはあなた達だけね」
「勿体無いお言葉です。屋敷の使用人たちは皆そう思っております」
「これから行く所はね、遠縁にあたるのだけど未亡人のおば様の所なの。楽しみで仕方が無いわ」
「こんなに明るいお嬢様を初めて見ました」
「あの家の重圧がね。いえいいの。幼い頃おば様には良くして頂いたのよ。これから一か月沢山楽しむつもりよ」
「そうですね、羽を伸ばされるのが良いと思います」
「マーサ、……ありがとう」
「いえ」
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