癇癪
パトリシアはいろんな思惑の交差する自邸を抜け出し、ホッと肩の力を抜いた。
両親の思惑は分かってはいるが、相手の出方が分からない。
若いなら若いほどいいと思うような人物なのか、孫のようにしか思えないのが普通ではないのか?
父の招待に応じると言う事はその気があるのか?
元々父の従姉妹に来た話を、我が家が横取りする形になって大丈夫なのだろうか?
あんなに盛大にお金を使って、勘違いでしたでは済まないのではないだろうか。
幾ら考えても堂々巡りになるばかりなので、自分の事に集中することにする。
但しこれだけは言える、家の思惑を知っているとおくびにも出してはいけない。
決まればそう逃げるだけ、その準備だけは怠らないようにしないと。
そう思い直したが姉のことだけは心配だった。
早まって、折角仲良くしている婚約者を蔑ろにしないと良いのだけれど。
お相手が良い人なだけに、其れだけが心に影を落とした。
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いつもの様に図書館で暗記をした後、本を新しく借り受けマーサと共にアンティークショップへ足を運んだ。
此処で平民風のワンピースドレスとリボン、靴、帽子などを購入して帰宅した。
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「何よ、どうしてパトリシアになるのよ。私がやるって言ってるじゃない!」
姉のキンキンとした怒鳴り声が響き渡っている。
興奮しているのか、見境なく物を投げているらしい。
「お嬢様、お願いですからお止め下さい」
折角大掃除をしてピカピカに磨き上げた使用人たちの苦労が、姉の癇癪で台無しになっている。
「ただいま戻りました。どうなさったの?これは」
余りの惨状に言葉を失った。
ここ数年は鳴りを潜めていたが、姉の癇癪は相当なものだ。
「パトリシアお姉様、こちらにちょっと」
妹のセシリアが小声で手招きする。
「本人の意思を確認しましょう、丁度帰って来たのだから」
お姉様に見つかり惨状の残る部屋を後にして、応接室へとやって来た。
「パトリシア出かける前に言ったわよね、公爵様のお相手は出来ませんって」
「はい。お姉様の仰る通りですが何ですの?お姉様の事を拒否なさったの?」
「そうなのよ、パトリシアにお願いするってお母様が意地悪仰るのよ」
「お姉様何か予定がおありなんですの?」
「何も無いからお相手できるのに。それに私は長女よ。ウチの代表として当たり前でしょう」
「お母様、私に何故固執されるのか分かりませんが、お姉様が適任です。そんなに仰るならその間私は、親戚の家にでも滞在しますわ」
「待ちなさい、パトリシア!」
今迄洟も引っ掛けなかったくせに。
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私は両親が気持ち悪くて、部屋に鍵をかけて立てこもった。
どんなに素敵な方でも、祖父と年が変わらない方は結婚の対象じゃない。
公爵の遺産?そんなものいらないわ。
貴族の娘として、政略での結婚も受け入れるつもりはあった。
でも限度がある、娘の幸せを願うならある程度は見合った相手にするだろう。
今まで来た話を潰したとも言っていた。
搾取子、私は紛れもなくそうなのだろう。
老公爵と結婚したら一生金蔓だし、城に働きに出ても給料を毟り取られ、有力者に繋ぎをつけろとか言われ兼ねない。
私に利用価値があると見ている強欲な両親に幻滅した。
空腹にも関わらず胃が暴れ出しトイレで吐く。
苦い口の中をうがいで清める。
でも流石に姉に打ち明ける訳にもいかないわね。
常識を疑われるし、なぜそんなことを知っているか詮索される。
でもあの調子なら姉は意固地になってしまうだろう。
両親が姉に根負けして、私が極力公爵様と接触しないように考えなければ。
「何かいい案はないかしら?」
父の従姉妹に来た話ならそちらを突っついてみる?
祖父母に言ってみようかしら。
私はその段取りを模索し始めた。
皆様いかがお過ごしですか?
私は金曜日が一番好きです〜♪(´ε` )
良い週末になります様に!