表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/59

愛しい人

 彼女を見つけたのは思いもよらない、お爺様の結婚式の時だった。


 あのお爺様が、結婚を望んでいるとは知らなかった。

 あの年齢で選ぶ人だから、もっと年上の未亡人とかだと思っていたら、何と若い女性というでは無いか。

 どんな女性かと思ったら、何処となく覇気が無い派手な女性で驚いた。


 それで持ち前の好奇心がむくむくと湧いてきて、色々動き回っていたらその女性は居た。


 パトリシア・サンチェス。


 三人姉妹の真ん中で、結婚に浮かれている伯爵夫妻に代わって、的確な指示を出していた。

 始めは使用人かと思う程、地味な身なりをしていたので気になった。


 その頃の私は自分でいうのも何だけど、生まれと容姿に恵まれて女性に拒まれた事も無かった。

 声掛けして素っ気なくあしらわれたのは、あれが初めてかも知れない。


 最初は揶揄(からか)ってやれ位の気持ちだった。

 それが長い長い片想いに繋がるとは、その時思いもしなかった。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 彼女は強い、馬車の中で彼女の状況を聞き出す為に、話を巧妙に持っていった。


 渋々自分の置かれた状況を話してくれて、同情心が湧いた。

 でも彼女はそれを良しとはしない人だった。


 今まで女性は弱く、守ってやるべき存在で。

 すぐ泣いて、縋ってきて、力を助けを求める。


 でも彼女はそれを望まなかった。

 他の人には無い、強い意志をその目の奥に見た。



 それから何かと気になって、側をうろつく事になった。

 いつも大丈夫だろうかと気になって、頼ってこない彼女に憤りを感じたりした。


 この気持ちが何なのか、分からないが毎日会いたい事だけは、確かだった。


 彼女の視界に何とか入ろうとしたり、周りからは失笑されても止められなかった。

 自立して、自分の力で立とうとしている彼女の力になりたかった。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 そんな彼女に気になる相手が現れた、支店の店長をしている切れ者らしい。

 相手は穏やかな人物で、パトリシアと同様に本をこよなく愛する男。


 パトリシアの気持ちが急激に傾いていくのを、止められ無かった。


 焦れば焦るほど空回りしてパトリシアの表情が曇る。


 悪循環を繰り返す私に、パトリシアの友人でもあるマーサさんがアドバイスをしてくれた。

 このままでは嫌われる事も考えられると。

 少し離れてみることを勧められ、渋々それに従った。


 離れてみて、何とも思っていない人物からの気持ちの押し付けなど不要で⋯⋯。

 どれほど彼女に負担をかけていたかを思い知らされた。


 これで良かったのだと、思えば思うほど逢いたくなった。


 いつも空を見上げてはこの空は彼女に繋がっているのだと思っていた。

 毎日想いを込めて手紙を書いた。

 沢山書いたものの中から一通だけ当たり障りの無いものを送った。

 彼女の負担にならないように。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


『何時も駆け付けてくれる人』


 そんな認識で、大変な事態になったらそれとなく助けてくれたその人に、いつも感謝をしていた。


 その中でも特に、メイソン店長絡みの事件で、エリアルおば様がお怪我をされた時を思い出す。

 すぐに駆け付けてくれて、特別室の隣の部屋を押さえていてくれた。

 お陰で移動時間を付き添いに当てられて、身体的にも随分助けられた。


 彼も暇では無い。

 どちらかといえば忙しい人なのに、毎日手紙をくれたりこんな風に助けてくれた。

 あの時は心に余裕がなくて、そんな気遣いをつい見過ごしていたがいつも力になってくれた。

 手紙も色々な地域の訪問に合わせて、情報が書かれていて楽しく読めて勉強にもなった。


 好意は知っていたが、姉の事もありどうしても結婚相手とは考えられなかった。

 友人でいいじゃ無いの。

 狡い考えかも知れないが、縁が無かったのだと思う。


 そして私も激しい愛では無いが、穏やかな方と知り合って結婚した。

 彼もその後、家格の釣り合う方と結婚したと風の噂で聞いた。


 これで彼との道が交わる事は無いと思っていた。



 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 私は夫を亡くし、彼は妻と離婚した。

 私は子供を欲して、血の繋がったミリエンヌを養女にと考えた。

 彼もお爺様の遺言で、ミリエンヌを養女にしようと考えていたと言う。


 交差する筈のない道が、ミリエンヌを通して交わった。


 私は思い出した、私の作ったサンドイッチをとても嬉しそうに受け取ってくれた事。

 包んだ手慰みのレースを宝物にしてくれている事を。

 不器用でやった事もない、家具の色付けやニスを一生懸命に塗ってくれた事を。

 家を購入して食費を節約している私達にいつも差し入れしてくれた事も。


 不器用な愛情で包んでくれた人。

 遠くからいつも見守ってくれた人。


 今は彼と結婚できてとても幸せだ。


 彼は私が幸せにしてくれたと言っているが、私の方が幸せにしてもらっている。


 真ん中の要らない子、忘れ去られた様に家族の輪にも入れて貰えなかった不憫な子。

 過去の私はもう居ない。


「パトリシア愛しているよ」

 夫は何時も優しい目をしている。


「私もよ、アイザック」

 私は愛しい人の名前を今日も呼ぶ。



評価を宜しくお願いします♪( ´▽`)

これにてパトリシアとアイザックのお話は終わりです!

この話と同時投稿で『ロザリンドの娘と呼ばれて』が始まります!

こちらも宜しくお願いします〜(=´∀`)人(´∀`=)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ