その先に……
あれから幾つもの季節が過ぎた。
パトリシアの会社は順調に業績を上げて、大きく成長した。
そして義父の紹介で知り合った男性と結婚していた。
マーサも思い人と結婚して2児の母となっている。
パトリシアの結婚生活は穏やかで、順調だった。
しかし子宝にだけは恵まれなかった。
夫はまだ新婚の様なもの、焦る必要もないと言ってくれていた。
しかしパトリシアは幼少期からの不幸な生い立ちから、どうしても早く子供が欲しかった。
その結果、子供のいない寂しい思いを仕事で紛らわせていた。
そんな結婚3年目の時に、夫が落盤事故で突然亡くなった。
視察先で巻き込まれての事だった。
突然の事でそれから数年、パトリシアは廃人の様に過ごした。
周りに支えられて、ここ最近ようやく立ち直りつつはある。
でもせめて子供でもいてくれたら⋯⋯パトリシアは養子を迎える事を考え始めていた。
そんな時に、元公爵であるアイザック様の祖父が亡くなったとの訃報が届く。
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湖畔に建てられた別荘で、その子は父親とひっそりと暮らしていた。
その子の母親のやらかしで、一族からは何かと煙たがられていた様だ。
葬儀に参列した時にアイザック様からは、そう聞かされた。
勿論、パトリシアと血の繋がった実の姪だ。
常に元気だろうかとパトリシアも気にはなっていた。
時々届く、アイザック様からのお手紙にその子の事がよく書かれていた。
その子の元を時々訪ねては気に掛けていた様で、一族では唯一懐かれていた様だ。
アイザック様はその後一度結婚したものの、子供を成さぬまま性格の不一致で離婚したと聞いた。
「お互い独り者に戻ったのね」とパトリシアが笑って言うと
「立ち直ったんだね、本当に良かったよ」と彼も笑った。
思えば夫が亡くなった時も、すぐに駆け付けてくれたっけ。
パトリシアの中で何かがストンと有るべきところに収まった。
「貴方に相談があるの。あの子を私の養女に迎えられないかしら?」
「いや、私が養女にしようと思っていたんだ」
「あら、アイザック様はまだお若いし、今後また再婚なさるでしょう?」
「⋯⋯」
「私ならあの子を預けても、安心だと思いませんか?」
「⋯⋯」
「何とか言って下さい。アイザック様」
「⋯⋯」
「⋯⋯?」
何か考え込むアイザック様に、この話は早過ぎたのだろうかと不安になった。
でも一族で今後の養育問題は、避けて通れない。
「も、」
「⋯⋯も?」
「もしも⋯⋯」
「もしも?」
「その⋯⋯」
「⋯⋯?」
「いっ」
「い?」
「い、い、一緒に育てて貰えないだろうか?」
「一緒に?」
「つまりだな、けっ」
「け?」
「結婚して下さい!」
「結婚⁉︎」
「そう結婚してあの子を一緒に育てて欲しい」
「⋯⋯」
「アイザック様ならお若い方と再婚されれば⋯⋯」
「パトリシアじゃないと駄目なんだ!」
「私?」
「ずっとずっと好きで、愛していて、その⋯⋯他の人では駄目なんだ」
パトリシアの頭の中をその言葉が巡る。
「何故私なんですか?」
「自分でも分からないんだ。パトリシアの事を考えると幸せな気持ちになって、でも邪魔はしたくなくてそれでそれで⋯⋯」
お洒落な彼らしからぬ、不器用な言葉が却って心に届く。
「つまりずっと好きだったって事ですか?」
「そう!それ!」
「子供みたいに⋯⋯」
「け、け、結婚して下さい!幸せにします!いや私もなります」
「ブッ!」
「一緒に家族になりましょう!」
「はい」
「それで⋯⋯今、はいって言った?」
「えぇ」
「う、うわーっ!」
アイザック様は真っ赤になって、パトリシアをいきなり抱き抱えてクルクル回った。
お葬式なのに不謹慎じゃないの?と思ったがみんなが何故か、頷きながら拍手してくれた。
「おじ様?」
その子は名前をミリエンヌと言う。
「ミリエンヌ家族になろう!パトリシア世界で一番、愛してる!」
ミリエンヌは目を丸くして泣き笑いを浮かべた。
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その後、喪中ではあったが、二人は籍を入れてミリエンヌを養女とした。
亡くなったスペンサー元公爵の遺言で、夫に再婚してミリエンヌを頼むとあったからだ。
喪が明けて二人の結婚式の日、夫は男泣きした。
長年の片思いがようやく実を結んだと言って。
「綺麗だ、世界で一番綺麗だ」と言いながら。
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そして今、二人の息子を産むことが出来て、パトリシアは3人の子持ちになっている。
「また、お父様べったりくっついてる!」
子供達にいつも言われるが、夫であるアイザックは気にも留めない。
何時も私の側に居て、何でも話す仲の良い夫婦だと思う。
最近、パトリシアの性格にそっくりになってきた長女のミリエンヌは、17歳になっていた。
お年頃で運命のお相手を探そうと、ここの所、躍起になっている。
「そんな探して直ぐ見つかるものじゃないんだが」
夫は可愛がっているミリエンヌを、嫁にやるつもりは無いと公言している。
「一生私達の側に居たら良いんだよ」
「いや!そう言って邪魔して。お父様なんか嫌い!」
「お姉様がお嫁に行かないと僕が困る!」
長男のローガンが言う。この名前はエリアルおば様の亡きご主人にあやかってつけた。
「何故なの?」
パトリシアは笑って聞いてみた。
「だってこの間、誰かが言ってた。そうしないとお嫁さん来ないぞって」
「まぁ、誰がそんな事言ったのかしら?」
「誰だっけ、カイト叔父さん」
「アイツは余計な事を⋯⋯」
「だから早くいい人を見つけてね、姉様」
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このお話も後一話になりました。明日が最終回です!
明日からは娘ミリエンヌの物語『ロザリンドの娘と呼ばれて』を同時投稿します。
頑張って外伝という形にして他の登場人物の気になるその後も書けたら良いな、と思っています!
こちらも宜しくお願いします!




