再会
その後、公爵家は無事に代替わりした。
お爺様は生まれる子供の環境を整える為、別荘地に引っ越した。
王都に居たアイザックは、淡々と社交をこなしていた。
そして、王家主催の夜会でパトリシアと再会することとなる。
パトリシアは車椅子の義父と共に出席していた。
実家で疎まれていた頃とは見違える程、堂々として美しくなっていた。
幾つもの特許を保有しているらしく、会社を起こして会長職にも就いているらしい。
社交界でも有名になりつつある。
引き篭もり伯爵令嬢から平民、そして侯爵令嬢へと転身した事。
その波乱万丈な生き方と、自分のアイディアひとつで会社を成功させている事から、女性実業家としても注目されていた。
その為、独身男性や提携を望む貴族が幾重にも取り囲み、アイザックが近付こうとしても人垣が厚く、気付いてもらえなかった。
しかし、車椅子の義父を気遣って、早目に帰宅するので、その時をアイザックは逃さなかった。
「パトリシア」
パトリシアは、懐かしい声を聞いた気がしていたが義父が疲れているので、そちらに気が回らなかった。
「パトリシア、こっちだ!」
「あら、アイザック様ではないですか。ご無沙汰しております」
「お義父様、アイザック様ですわ」
「おお。これは久し振りだな。と話したいのは山々なんだが、疲れてしまってね。どうだね、うちの馬車で送ろうか?」
「はい。是非!」
アイザックは従者にパトリシアの馬車で帰る事を伝えて、喜んで乗り込んだ。
信じられない、会いたくて堪らなかったパトリシアが目の前に座って居る。
「アイザック君は今王都にいるのかね?」
「はい、お爺様の件が片付きましたので」
「そういえば大変だったみたいだな」
「まあそうですね」
そう言ってチラリとパトリシアの表情を窺った。
「私の事ならお気になさらず。あの家とはもう既に縁を切っていますから」
「妹のセシリア嬢の縁談も破談になったと聞いた」
「そうですね、あの家では唯一気になる存在でしたから、残念ですが。これも運命なのでしょうから」
あの後、新聞社にスッパ抜かれてロザリンドの事が世間に知れ渡った。
金目当てで結婚して、若い男を陥れて乗り換えようとした悪女だと、各紙書き立てた。
パトリシアはこの件を殆んど内容を知らず、専らマーサさんからの情報だと言っていた。
ロザリンドは素行不良の妻として、修道院で暮らし無事に女の子を産んだ。
その子は直ぐにお爺様に引き取られて、今は湖畔の別荘で暮らしている。
「マーサから聞きましたが、アイザック様にもご迷惑をお掛けしたのでしょう?」
「狙われたみたいでね、既成事実を作られそうになったんだ」
「それはまた⋯⋯」
パトリシアの義父であるトンプソン侯爵が流石に絶句している。
「あの件はもうお終いだ。それより凄いじゃないか、会長なんて」
「ただ幾つかのアイディアが当たっただけですわ」
「そんな事は無いだろう、私がいた時も2つばかりアイディアが採用されていたじゃないか」
「思い出しました。お義父様、アイザック様ったら私が用意していたそのアイディアに躓いて怪我をされたのですよ」
「そうなのかい?」
「あれは慌てていて、足元が見えていなかったのです。おでこを怪我したんですよ」
「子犬みたいにしょんぼりして⋯⋯笑ってはいけないけれどマーサから治療を受けたんです」
「パトリシアが手当してやらなかったのかい?」
「そうなんですよ、冷たいったら無いでしょう!」
馬車の中で思い出話に花が咲く。
パトリシアは自分の力で強く逞しく立っている。
アイザックはどこか懐かしくあの輝いていた日々を思い出すのだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「アイザック様、お元気で。クラーク領に来られましたら是非お寄りください」
「あぁ。パトリシアありがとう。そうさせて貰うよ。侯爵様もお元気で」
「またお会いしよう」
そう言ってパトリシアを乗せた馬車は小さくなって見えなくなった。
「君は今、幸せなんだね⋯⋯」
決して交わることのない道、でも友人としてなら一生関わっていけるだろう。
アイザックはパトリシアの眩しい笑顔を思い出していた。
涙が一粒頬を伝った。
「ははっ、また会いたくなってきた⋯⋯」
アイザックの切ない呟きは、誰にも聞かれなかった。
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あと数話で終わりますが、外伝を書いてますので最終回に合わせて公開できればと思っています!




