親バカの……末路
「ほう、どういう事なのか聞かせて貰おうか」
お爺様がにやりと笑った。
「どういう事?私とお腹の赤ちゃんが生命の危機にさらされた事ですわ」
「して?」
「アイザック様が言えない様なので、少し早いですが告白しますわ」
「ロザリンドの告白とは……?」
公爵が続きをどうぞ、という顔をしている。
ロザリンドは暇な時間でシミュレーションしていた作り話を語り始めた。
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「あの事件には実は裏があったのです」
「……」
「あの日、私が寝室を抜け出したのは……アイザック様と愛し合うつもりだったのです」
「な、何!?」
サンチェス伯爵は夫人と共にギョッとする。
「ロザリンドそんな事は、一言も……」
「驚かせると思って黙っていたのです」
「そんな大事な事、聞いていませんよ!」
サンチェス伯爵夫人は、考えてもみない方向に進む娘を唖然として見つめた。
「勘違いしないで下さい。この子は夫の子です!でもその後に……愛し合ってしまったのです」
「誰が、誰を」
黙って聞いていたアイザックは地の底のような声を出した。
もう我慢の限界だった!
「アイザック、もう少し黙っていてくれないか」
お爺様が静かに言った。
「お爺様、あんまりです!」
「いや、最後まで聞こう」
父が口を挟む。
「あの日、私達は真夜中に密会する事を約束しました。アイザック様は気持ちが抑えられなくなり、告白されて……最初はお断りしたんです。でも気持ちの強さに根負けしてしまいました」
「……」
「アイザック様はずっとお一人で寂しかったのです。そしてそこに私が現れた。諦めようと努力されたそうです、何度も何度も」
「……」
「でもダメでした。諦めようとすればするほど気持ちは募りますでしょう?」
「……」
「気持ちの板挟みになられて……私との事が急に罪深い事に今更ながらに気が付いて、あの夜パニックを起こされたのです」
「……」
「そうでなければ、愛する私を突き飛ばしたりなさいません。これだけは信じてあげて下さい」
「ロザリンド、言いたかっただろうに可哀想に一人で抱えて」
サンチェス伯爵は夫人と共に涙ぐんだ。
「でもこれだけは言えます!アイザック様は悪くありません!」
「そうだね、アイザックは全くの被害者だ!」
公爵が口を開いた。
「それでロザリンドはこれからどうしたいのだ、希望を正直に言ってみなさい」
ロザリンドは自分の言動が受け入れられたと思ってにこやかに言った。
「まず、この子は公爵の子ですから王都で産んだ後は差し上げます。せめてものお詫びですわ」
「いらんと言う事なのかね」
「そうですわ。愛情が無い訳ではありませんが、新生活には……分かりますでしょう?」
「ああ。そうだな」
「良かった。ご理解頂けて」
「では産んだ後、子にはもう会わせてやれんぞ。それでもいいのかね?」
「構いません。皆さんが証人ですわ」
「ロザリンド、それではこの子があんまりにも……」
サンチェス伯爵夫人の方がロザリンドより愛情深いようだ。
「いえ、新生活には却って邪魔よ。これから新しい子を産むのですもの、ねっ」
アイザックに向けてロザリンドはウインクをした。
アイザックは顔を背けた。
「そうか、では新生活に援助をしてやらねばならん、受け取ってくれるかね?」
「援助?勿論喜んで頂きますわ。何かしら?お金?それとも爵位?領地かしら?」
「さて、これで方針は決まった。準備は出来ておるか?」
「はい万全でございます」
執事が答えると
「ではすぐに出発するように。くれぐれも気を付けるのだ。子供がおるでな」
「出発とは?」
「ロザリンドもここでは気兼ねするであろうから新しい場所を用意させた。そちらに直ぐに移って貰う」
「直ぐにですか?」
サンチェス伯爵は慌てた。
「いや、ロザリンドだけ先にやろう。ご両親には後始末もあるから残って頂いて」
「そうですね、お父様、お母様後始末を宜しくお願いしますわ。貴金属やドレスに漏れが無いようにしっかりとチェックお願いしますわ」
「ロザリンド終わり次第追いかけるからな」
「アイザック様もお早くね」
そう言うとロザリンドは皆に勝利の笑みを浮かべて、用意された馬車に颯爽と乗り込んで去って行った。
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「さて、では我々は……」
荷造りの為に席を立とうとしたサンチェス伯爵夫妻は、執事にあっさりと止められた。
「では。本当の話し合いをしましょうか」
お爺様がドスの利いた声で着席を促す。
「クククッ、聞きしに勝るロザリンド劇場?だったね」
黙って聞いていた弟が笑いながら言う。
「本当に、どういうお育ちをしたらあの様になるのかしら?」
スペンサー夫人が白けた顔で言う。
先程とガラっと雰囲気の違う場の空気に、サンチェス伯爵夫妻は戸惑った。
「お前達は公爵家を食い物にする気か?」
お爺様は静かに言った。
「それはそちらが……」
「ロザリンドは妄想癖があるようだね」
「な、何ですって?」
「嘘ばかり、ペラペラ並べて。アイザックが何をしたと言うのだ」
「それは先程」
「あの夜、アイザックは友人と飲みに行ってホテルに泊まっておる。証人なら山程居るのだ」
「それは、どういう?」
「あの夜この屋敷にいる筈も無い者が、どうやってロザリンドに怪我をさせられるのだ」
「しかしあの子が……」
「アイザックの寝室をメイドにわざわざ聞いてか」
「ロザリンドがウソをついたと?」
「あぁ、箝口令を敷いたのはこの私だ。ロザリンドがどういう言い訳をするのか確かめたのだ」
「そんな……」
「納得いかんなら裁判しよう」
自信ありげな様子を見てとったサンチェス夫妻は戸惑った。
「いえ、滅相もありません」
「あの、公爵様。それではロザリンドはどこに?」
「あぁ、修道院だ。もう一生出る事は叶わん」
「そんな」
「アイザックに懸想したばかりか、夜這いしておいて罪をかぶせて。その上子供もいらんと言った。安心するがいい、子供は修道院で出産させたら此方が引き取って育てるからな」
その言葉を聞いて、サンチェス伯爵夫人はその場で泣き崩れた。
「自分達でロザリンドを出そうなどとしないほうがいいぞ」
「⋯⋯」
「離婚はしないから素行不良の妻の矯正という名目で、修道院送致と陛下のお耳にも入れた」
「そんな」
「陛下は私が例え亡くなろうとも、他者に害為す者として一生神に仕えさせるようにと、お言葉を頂いた。逆らえば貴族籍を取り上げられるだろう」
「でもなぜそこまで陛下が」
「分からんのか?陛下はアイザックを大切な末姫様の婿に考えていた程気に入り、息子の様に大切にしてきたのだ」
「……」
「それを末姫様の我儘で反故にしてしまった。大変アイザックを不憫がって、今度こそは愛する人と結婚させてやりたいと心を砕いて下さっていたのだ」
「……」
「今回の事は大変お怒りで、サンチェス伯爵家など潰してしまえという勢いだった。これでもお止めしたのだ、この私が!」
「私達の娘が申し訳ございません」
「お許しください」
2人は顔色を無くし、ガタガタ震えて頭を深く下げた。
「明日朝、こちらを出ていけ。もう何があろうと足を踏み入れる事は許さん!」
サンチェス伯爵夫妻は朝を待たずに、夜逃げの様に出て行った。
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昨日はお休みを頂き、あと数話で完結する分を一気に書き上げました。
皆様のご納得いただけるエンドになると思います!
それとロザリンドの娘編を外伝として執筆を始めました。
間引き草の最終回付近で、同時投稿出来たらいいなと思って、頑張って書いています。
ネタバレにならない様、第一話は配慮しています。
ロザリンドのような親を持っても本人の努力と環境で、幸せを掴むお話を目指します!
そちらも投稿しましたら是非、遊びに来て下さいませ_φ(・_・




