嵐の前の静けさ
ロザリンドは犯人に仕立て上げたアイザックに会う事が叶わないまま、今日退院を迎えた。
両親とセシリアが連日見舞いに来てくれたお陰で、退屈はしなかった。
お腹の子供は何とか持ち直して、ロザリンドは公爵邸に戻って来た。
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両親はこちらの生活がいたく気に入ったらしく、自宅療養するロザリンド姉様に合わせてまだ居座る気らしかった。
「お父様、もうそろそろお暇しましょう」
セシリアは領地をほったらかしにして、見舞いの後に買い物や観劇と贅沢三昧の両親に言った。
「何を言っているんだ。ロザリンドが寂しがるだろうが」
「そうですよ、予断を許さない状況を抜けたからと言って、心の傷が癒えたとは言えませんもの。側に居てやらなくては」
両親とも姉の心配というより、王都の生活を楽しんでいる様にしか、セシリアには見えなかった。
「領地が心配では無いのですか?」
「それなら任せて来ているから大丈夫だ」
「そうですよ、後一、二ヶ月位なんて事はありませんわよ」
「テンゼンはまだ代理が務まる程、しっかりしていませんわ。心配ですからもう帰りましょう」
セシリアは必死になって言うが、両親はどこ吹く風。
「あっ、あなたが婚約者に会えなくて寂しいのね。何ならあなただけでもお帰りなさい」
母がそう言うと、父も賛同して頷いている。
「分かりました。明日私だけでも帰ります」
ロザリンド姉様には、夫や使用人達がついている。
何も心配する事はないでは無いか。
それよりもセシリアには心配事があった。
遠縁から養子に迎え入れた『テンゼン・サンチェス』である。
父が親戚から頭の切れる者として兼ねてより目を付けていて、やっと迎え入れた男。
でもセシリアはこの男が胡散臭く思えて仕方無かった。
其れなのに、領主教育を途中で投げ出して此方で遊興三昧。
「家にそんな遊び呆けるお金があるのかしら?」
領地ではきっと使用人達が困っている筈、セシリアは嫌な予感がしていた。
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広大な公爵邸には別館と呼ばれる本館のそれでも半分程ある建物があった。
そこに今現在アイザックが籠り、例の移住計画を進めていた。
そしてロザリンド騒動で延び延びになっていた、公爵位の引き継ぎ式が王城で行われる事となった。
長男であるアイザックの両親が、いよいよ明日到着する。
まだロザリンドの両親も滞在中らしいので、顔を合わせる事になるだろう。
お爺様の本心は読めないが、概ね常識人なので心配する事はないとは思うのだが、アイザックには気掛かりがあった。
ロザリンド事件?の真相が明らかになっておらず、メイドによるとロザリンドの実家の家族はアイザックが原因と思っている。
勿論他の者達は知っているのだが、お爺様の意向で子供が安定するまで我慢してくれと、頼まれていた。
あまり気持ちの良いものではないが、子供の為ならば仕方無いと我慢している。
しかし明日両親が来るので顔合わせした時に、一悶着あるのでは無いかと思っている。
両親は、特に母親がロザリンド様を良く思っていない。
贅沢するばかりで思いやりに欠け、内政などにも興味を持たない彼女を毛嫌いしているのだ。
典型的な享楽主義者だとかなり厳しい目で見ている。
今は妊娠中の大事な時期なので我慢しているが、アイザックが犯人扱いを受けていると知ったら、激怒するに違い無い。
「衝突しなければいいのだが⋯⋯」
アイザックは此処の所、貧乏くじばかりを引いている。
「パトリシアに会いたいな⋯⋯」
これから待ち受けるであろうトラブルの予感にアイザックは溜息をついた。
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翌日、ロザリンドの妹セシリアがひとり領地へ帰って行ったらしい。
アイザックは使用人から報告を受けた。
そして午後になって、アイザックの両親が弟と弟の婚約者を連れて到着した。
「何故アイザックがこんな所に居るのですか?」
母は別館で仕事をする息子を見て言った。
本館にはロザリンドの両親が長逗留している。
アイザックが追いやられたと感じたのか、母の機嫌が悪い。
「これには訳があって。お爺様のご意向も有ったから⋯⋯」
言葉を濁すアイザックに、
「ロザリンド様のご両親にご挨拶したのだけれど、鼻で笑った様にしてそそくさと行ってしまわれたの」
弟の婚約者が母の気持ちを代弁する。
「随分と失礼な方達ね。結婚の時はあんなにペコペコされていたのに、鼻で笑って会釈よ!」
「そうだなキチンとしたご挨拶が無かったな」
父も言う。
「お爺様があれをお許しになっているとしたら、気分が悪いわ。そう言った事には厳しいお方だったから」
「お爺様もお考えがあっての事でしょうから、一先ず落ち着いて下さい」
「お爺様、変わられたね」
弟がポツリと言った。
「だから私は反対したのに⋯⋯」
「お前、よしなさい!」
母の言葉を父が遮った。
アイザックは話題を変える為に、弟と婚約者は別館に泊まる様に勧めた。
「使用人達もその方が良いって。何があったの?兄さん」
「後で話すよ」
そうとしか言いようが無かった。
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