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入院

「⋯⋯何だって、私が真夜中に呼び出した?」

 アイザックは目の玉が飛び出す程、驚いた。


「そう仰っておられます」

「誰が?」

「ロザリンド様で御座います」


「そ、それでこの私が突き飛ばしたと?」

 アイザックはつい声が大きくなる。

「⋯⋯はい」


「真夜中に呼びつけて身重女性を突き飛ばす、まるでサイコパスじゃないか」

「……」


「それでお腹の子供は?」

「今、診療所で診察を受けていらっしゃると思いますが⋯⋯」

「有り得ないよな」

「はい、そう思います」


 アイザックは昨日商店の出店計画の為に、何時もの様に計画書を持って有名店を回っていた。


 途中で学生時代の友人に偶然再会、誘われて飲みに行く約束になった。

 真夜中に帰るのもと思い、ホテルに宿泊する事にしたのだ。

 その事は同行した従者が屋敷の者達に伝えており、二日酔いの頭でゆっくり寝坊して帰ってみると、この騒ぎになっていた。


「彼女は私が不在とも知らずに、何をする気だったんだ?」

「さぁ?急なご用事でもお有りだったのでしょう」

「真夜中の2時過ぎに?」

「はい、まあ」

「まさかとは思うが⋯⋯夜這いか?」

「私からは何とも⋯⋯」

「良かった、ホテルに泊まっていて」

「左様で御座いますね」


「お爺様は?」

「ロザリンド様に付き添っていらっしゃいます」

「そうか」

 アイザックはそうとしか、言いようが無かった。

 何時もの様に此処で寝ていたら、犯人にされる所だった。


「私の寝室を彼女は知っていたのか?」

「メイドがひとり、ロザリンド様より聞かれたそうに御座います」


「⋯⋯念の為に部屋を別館に移しておいてくれ」

「はい、畏まりました」


 其れにしても⋯⋯アイザックは親の身勝手な行動で、お腹の子供に何かあったら可哀想だと思いを巡らせた。

「無事でいてくれるといいんだが」

 独り言が溜息と共に響いた。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 ロザリンドは朝の早い時刻に診療所に運ばれていた。

 処方された薬が効いていて、本人は眠ったまま夫立ち合いの元、診察が進められた。

 診察の結果、お腹の子供は無事だったものの心音が弱くなっており、絶対安静が言い渡された。

 そしてこのまま入院する事となった。


 ロザリンドの嘘は皆に知られていた。


 しかし妊婦の体調を優先せよと公爵からの命令で、箝口令(かんこうれい)が敷かれて、この件は伏せられた。


「私の、私の赤ちゃんがぁー!」

 ロザリンドは診療所で目を覚まし、取り乱して何処にその元気があるのかと思われる程泣き叫んだ。

 側にいた夫である公爵が、

「シッ、シー!大丈夫。頑張って生きてくれているよ」と言った。


 子供は無事だった事を聞くと、てっきり流産したのだと勘違いしていた様で大人しくなった。

「但し、心音が弱くなって予断を許さない状態だそうだ。(しばら)く入院となるよ」


「お父様とお母様にお会いしたいわ」

「サンチェス伯爵夫妻にも来て頂こう。ご心配だと思うからね」

 優しく夫が声を掛ける。


「今は眠りなさい。興奮するとお腹の子に悪い」

「えぇ⋯⋯」

 そう言ってロザリンドはまた眠った。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 そして3日後、早馬で知らせを受けたサンチェス夫妻が到着した。妹のセシリアを伴って。

「ロザリンド、もう起き上がって大丈夫なのかい?」

 父親が顔を覗き込んで声を掛ける。

「そうですよ、知らせを受けた時は生きた心地がしませんでした」

 母親は涙を浮かべて娘の手を握る。

「お姉様、赤ちゃんが無事で良かったですわ」

 セシリアは冷静に少し離れたところで声を掛けた。

「さぁ、セシリアも手を握ってあげなさい」

 母親が強引にセシリアの手を取った。

 側に公爵が居るので、家族仲の良い所を見せたかったらしい。

 セシリアもこの茶番のような家族ごっこをどこか冷めた目で見ていた。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 医師の見立てでは、一ヶ月程入院して様子を見る事になった。

 その間、サンチェス夫妻とセシリアは王都の公爵邸に滞在する事となった。


 身内の三人には作り話を吹き込み済みで、後はこの子を出産したら離婚するだけ。


「両親によると彼、別館で謹慎させられているみたいだから、上手いこと誘導しなくっちゃ」

 ロザリンドはアイザックが見舞いに来ない事が気になっていたが、別館に移った事を知り謹慎させられているのだと都合よく思い込んでいた。


「一時はどうなるかと思ったけれど、田舎には行かなくて済んだし……後は彼に責任を取らせるだけね」

 ロザリンドはご機嫌だった。

 そして暇を持て余して、勝手に計画を立てる。


「楽しみで仕方がない〜」

 上機嫌でアイザックが夫になった姿を想像した。

 ロザリンドの大好きな若く洗練された容姿を持つ将来公爵となる男。

 これこそがロザリンドの求めていたものだった。


「また社交界を賑わせちゃうわね、新聞社が取材に来るかも」

 子供がお腹の中で一生懸命に生きようとしているのに、自分の事しか考えの及ばないロザリンドだった。



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