大罪
今回は残酷な描写が中盤より有ります。
女性には特に辛いかも知れません。(2回目の❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎が目印です)
苦手な方は、中盤付近まで読んで頂き、明日の更新をお待ち下さい。m(_ _)m
ロザリンドはここ最近、夫である公爵を避けていた。
ロザリンドの無言の怒りを夫に知らしめたかったのである。
ここまですれば、今迄ロザリンドの願い事を何でも聞いてくれた夫が根負けして、公爵引退を撤回し王都での生活が継続するのではと思っていた。
しかし百戦錬磨の夫は意にも介さず、ロザリンドは益々怒りが膨れ上がった。
頼みのアイザックは、出掛けてばかりで頼りにならない。
あの後約束が果たされたか気になって聞いてみたら、
「きちんとお爺様には言っておきました。後はご夫婦で話し合って下さい」
と言ってさっさと仕事に戻ってしまった。
外出が多く、帰ってきたら侍従がべったりと補佐をしていてゆっくり話もできない状態だ。
もっと二人で会う時間を持たないと、アイザックを懐柔出来そうもない。
「今日も出かけてしまったの?」
執事相手にイラついて言うと、
「出店関係の話し合いに出掛けられております」
「そんなもの、呼び付ければいいだけでしょう!何でわざわざ出向く必要があるのよ」
「何せ件数が多いものですから、スケジュール調整が難しく」
「たかが商人でしょう!何時に来いと言えばいいのよ。こちらは公爵家よ、何より優先されるべきでしょうに」
「こちら側がお願いするのですから、身軽に動いた方が効率が良いと仰って」
「田舎に誘致して儲かるはず無いじゃないの。無駄よ無駄!」
ロザリンドの為のものであるのに、引っ込むつもりのないロザリンドは他人事のように吐き捨てる。
来週末の引っ越しに向けて、公爵邸は皆が忙しそうにバタバタしている。
幾らロザリンドが止めるように言っても、使用人達はその手を止めず引っ越しに向けての準備が整いつつある。
来週頭には次期公爵であるアイザックの両親も上京して、夜会の席で公爵交代が発表される手筈らしい。
ロザリンドひとりが泣いて暴れようとも、これは覆せない国の決定事項であった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
公爵邸は静まり返っていた。時刻は深夜2時を回っていた。
息を殺していたロザリンドは、隣に居る夫がいびきをかいているのを確認した。
そしてガウンを手に足を忍ばせて、こっそり部屋を抜け出した。
目的の部屋はアイザックの寝室。
業を煮やしたロザリンドは、アイザック相手に既成事実を作ろうと企んでいた。
階下の少し離れた西奥が寝室だと、さり気なく聞いて確認が取れている。
ロザリンドはスリッパのまま、足を忍ばせて薄暗い廊下を歩いて行く。
階段まで来て、暗くて足元が覚束ないので、手摺に摑まり一段一段慎重に下って行く。
これがはしたない事だとは思ってもいなかった。
ただ自分の目的を叶える為に、必要な事としか認識が無かった。
寝室に忍び込んでベッドに裸で潜りこめば、アイザックも諦めるはず。
抵抗するなら大声で助けを求めてやる。
起きなければそのまま朝を迎えてもいい。
夜這いが例え失敗しても、妊婦である私に暴力をふるう事も無いだろう。
いずれにしても責任を追及されて……私がそこで実は二人は愛し合っていると暴露する。
公爵家はこの大事な時期に、スキャンダルを出す訳にもいかず、この件はもみ消される筈だ。
アイザックが責任を取る方向に進むだろう。
自分の大胆な思いつきに、ロザリンドは人知れず笑みを漏らす。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
暗い階段を無事下りきってホッと一息ついた。
そして西奥を目指そうと廊下に踏み出した時、履いていたスリッパの先が、ほんの僅かな段差に足を取られる。
グラリと上下のバランスが崩れた。
ドスン。
「ギャァ―!」
ロザリンドは正面から思い切り転んでしまった。
咄嗟の事でお腹を庇う事も、手をついて衝撃を和らげる事も出来なかった。
静まり返っていた邸内にロザリンドの悲鳴が響く。
邸内のあちらこちらから人が慌てて出て来る。
「痛い、痛い、お腹が……」
ロザリンドはお腹を抱えて丸まった。
皆なぜこんな所に公爵夫人が一人でいるのか、理解に苦しみながら助け起こす。
「医者を、医者を呼べ。大変だ、出血されている!」
その時に階段を一人下って来る公爵が居た。
「何故この様な所にロザリンドが居るのだ」
「分かりません。悲鳴を聞きつけてこちらに来ましたから」
「ロザリンド、大丈夫か?何があったのだ?」
「ア、アイザック様に呼び出されて、突き飛ばされて……痛いぃー」
「アイザックが?」
「そうです。内密な話があると。この時間に来てくれと、そして私を……お腹が変」
「一先ずこちらに運びましょう」
近くの客室に運び込まれて、駆けつけた医者の診察を受ける。
ロザリンドは薬で眠っていた。
「それでお腹の子は無事なのか?」
「今のところは流産してはいないのですが、心音が……診療所で調べてみませんと何とも」
「何と言う事だ!」
「お静かに。薬で眠っておいでですが、痛みがあるはずですから」
この事がきっかけで、平和な公爵家に嵐が吹き荒れる事となる。
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