ロザリンドの誤算
「あなた、今なんと仰いまして?」
ロザリンドは夫である公爵の言葉に耳を疑った。
「安定期に入ったのだから、そろそろ公爵領の別邸に引っ込む事にすると言ったんだが?」
「そんな話一言だって、聞いておりませんわ」
「そうだったか?兎に角その打ち合わせにアイザックが来る事になっておる。いつ到着だったか?」
側に控える執事に公爵は聞く。
「今日の午後にお着きと連絡を頂いております」
「色々打ち合わせやら、向こうの整備も任せておるのでな。ロザリンドの暮らしやすい様に整えていくつもりなのだ」
「あなた、私はこちらで出産いたしますわ。病院の設備の整った所で、安心して臨みたいので」
「あちらに名医を呼び寄せておる。心配は無い。空気の綺麗な場所で心穏やかに過ごせるだろう」
「嫌ですわ。私はこちらが好きですの」
「此処は息子達に継がせる準備が整ったのだ。私は公爵を引退して彼方に戻る」
「そ、そんな⋯⋯まだ引退は早いですわ。こんなにお元気ではありませんの」
「家族三人で不自由無く暮らせる様に整備を急がせておる。早く子供の顔が見たいものよ」
ロザリンドがいくら頼んでも無駄だった。
子供を産んで等と悠長にしていられなくなりそうだ。
ロザリンドは物を投げたい衝動を拳を握って何とか抑えた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
アイザックが到着した。
昼食はまだという事で、公爵家の食堂で昼食中だった。
「アイザックさん、聞いてますか?」
ロザリンドは刺々しく言った。
「はい、勿論。お爺様から詳しく打ち合わせして、ロザリンド様の過ごしやすさを優先するようにと言われていますから」
器用に肉を切り分けながら、相槌を打つ。
「私は嫌ですわ。田舎に籠るつもりはありません。それについてアイザックさんはどう思っておりますの?」
「奥様、アイザック様はお食事中でございます。お済みになりましたらお呼び致しますので⋯⋯」
先程から食事を早々に終わらせて、公爵の前で散々駄々を捏ねている。
食事を摂りながらの和やかな会話では無い為、給仕の従者が声を掛ける。
「あなたは黙ってらっしゃい!それでね⋯⋯」
「ロザリンド、アイザックは今食事中なのだ。いい加減にせんか!」
食事をする暇も無いほど、詰め寄り返答を求めてくる。
「あ、あなた⋯⋯」
ロザリンドは強く窘められて、顔をしかめて立ち上がり、バタバタと自室へ戻っていった。
「ロザリンドが済まないな。ゆっくり食べてくれ」
口元をナプキンで拭って公爵は席を立ち、ロザリンドの元へ向かった。
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ロザリンドはベッドのクッションを思い切り投げつけた。
心が物を投げつけたくて我慢出来なくなった。
「公爵を息子に譲るですって?それに田舎って私を閉じ込めるつもりなのね!冗談じゃ無いわ」
悔しくてギリギリギリギリ歯を食いしばる。
「何もかも上手くいかない!」
暴れる衝動が抑えられなくて、もう一つクッションをドアに向かって投げ付けると運悪く公爵が入って来た。
クッションが当たる前にサッと避けた公爵は、顔を歪めて真っ赤になっているロザリンドを見た。
「これはどういう事だ?私に投げつけたのかね?」
「⋯⋯たまたまです」
不貞腐れて答える。
「ロザリンド、もう決まった事だ。私達は来週、公爵領に越す」
「そんな⋯⋯」
「我儘も大概にしなさい。ご両親は許したのかも知れないが、私は許さん!」
「あんまりです。私は身重ですのよ!赤ちゃんに影響が有りますわ」
「暴れるかね?」
「なっ!何ですって?」
「知らんと思ったかね?ロザリンドの事は全て調べて知っておるよ」
「⋯⋯」
「公爵領はいい所だ、静かで環境も良い。周辺も整備させて不便を感じさせる様な事はないから安心しなさい」
「私を閉じ込める気なんですね、あんな田舎に!」
「ロザリンド、大人になりなさい。お前はもう此処の人間だ。自領の事を悪くいう事は許さん!」
ロザリンドは黙り込んだ。
計画を前倒しする必要がある⋯⋯口の片側がピクピク痙攣した。
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