セシリアの密談
丁度その頃、セシリアはロバート様の私邸に招かれていた。
勿論、ロバート様とその婚約者であるエブリン嬢、メイド長のエマさんの4人で人に聞かれたくない密談である。
「多分、狙われていたんだと思うの!」
セシリアのわざと陽気な言葉はその場の全員を凍りつかせた。
「狙われたって元婚約者の私が?」
ロバート様は目を見開いて言う。
「そう!」
セシリアは全てを悟った顔で頷いた。
「いや、訳が分からん。公爵夫人は幸せなんだよな?」
「子供まで授かっていてなぜその様な……理解できませんわ」
生真面目なエブリン様の顔色が悪くなる。
「自分から望んだ結婚ならね⋯⋯」
セシリアは遠くに視線を逸らし、意味深な言葉は続く。
「いや自分だけ分かったつもりで話すのはやめてもらえるか。含みのある言葉で我々はさっぱり分からん」
他の二人も頷いている。
「⋯⋯もしかして、公爵様との結婚は無理矢理で逃げるおつもりとか」
今まで黙っていたエマさんが恐る恐る言うと
「当たりだと思うわ」
セシリアはキッパリと言い切った。
「えっ!新聞で読んだが、世紀の大恋愛なんだろう?」
随分話題になって、幸せを掴む為に婚約破棄したのだと納得したのだ、両親も私も。
「アレは表向きですわ」
セシリアはサラリと返した。
「チョット、頭を整理するから。⋯⋯つまりあの結婚は本意じゃなくて、無理矢理?もしくは渋々だった。そして離婚して逃げ出す先に、実家では無くこの私がロックオンされていたって事か?」
ロバート様の顔が歪む。
「そうです、ロザリンド姉様はそういう事を平気でする人です」
セシリアは遠い目をして頷く。
今更ながらに焦ったのか、ロバート様が淹れてあった熱いお茶を一気に飲む。
「アチッ、アチチ……」
ロバート様の胸元が濡れる。
「だ、大丈夫ですか?」
エブリン様が慌ててハンカチを差し出して、心配そうに声を掛けた。
「く、口の中を火傷した、イタタ。セシリア嬢が変な事を言うから」
「ププッ、長年のお付き合いでロバート様のその様に焦ったところ、初めて見ましたわ」
「笑い事ではない!分かるように説明してくれ」
「つまりですね。姉は多分、公爵家が適齢期の孫の為に嫁探しに来ていると思っていたんです。でも実際は公爵様ご自身の伴侶を求めていらした。自分の勘違いに気がつかず、早まって婚約破棄したんです」
「何故そのような事をなさったの?」
エブリン様には全く理解出来ないようだった。
「先日ロバート様にはお話ししましたが、私の次姉のパトリシアは両親から虐待を受けていました。そのパトリシア姉様を公爵に宛がおうと、つまりは厄介払いですね。両親が皆に黙って画策したんです」
「何と言ったらいいか⋯⋯」
ロバートは体の弱い閉じ籠りがちで、人前に出る事も嫌がる妹と聞いていた。
だからこそ、避暑や夜会、お茶会にも出られないと思っていたのだ。
「それをパトリシア姉様に公爵家から縁談が来たと勘違いして、家から追い出しました」
「そして勘違いに気付かず横取りして、したくも無い結婚を後には引けなくなってしたと」
「そうだと思います」
「逃げ出す為に、この私を利用しようとしたのか!」
「その通りですわ」
「⋯⋯」
皆が余りの事に一瞬思考が停止した。
「こちらの気持ちも確認せず、それであの訳の分からないエステ室と子供部屋か」
ロバート様は拳を握ってブルブル震える。
「未だに貴方は姉を愛し続ける男とでも思っていたんでしょう、大した自信です」
セシリアはもう笑っていなかった。
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