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ロザリンドの手紙

 ロバート・コールマンは近頃戸惑い、理解に苦しむ事態に頭を悩ませていた。


「またあの方からお手紙です」

 エマから手紙を受け取る。

「また?」

 ここの所、頻繁に元婚約者だったスペンサー公爵夫人が手紙を寄越す様になっていた。


 返事は当たり障りのない時候の挨拶と、相手の体調を気遣う短い物にしていた。

 婚約、結婚はあまり話題に上げる気にならず、敢えて書かない短い文面にしていた。


 やり取りを続ける気がなかったので、その場限りと思っての事だった。

 そのうちどこからか耳に入るだろうと思っていたのもあった。


 最初は妊婦が暇を持て余して気紛れで近況を知らせてきたのだと思った。

 元婚約者の自分に幸せアピールかよ、と思っていたのだ。


 しかしこう頻繁ではスペンサー公爵も良い気がしないだろう。


「一体彼女は何を考えているんだ?」

 そろそろ結婚式の招待状を送らねばと思っていた所に意味不明な手紙。


「招待は考えていなかったが、遠回しに出席したいのアピールだろうか?」

「でも時期からして出産したばかりになりますよ、体力的にも無理ですよ」

「そうだよな、だとすると変だよな」


 ロザリンドが出産後復縁を望んでいるとは思いもよらないロバートは、困惑していた。


「あれ?ちょっと待てよ。エブリンとの婚約は知っているのかな?」

「ご実家の誰方かから、お聞きになっていますでしょう」

「そうだよなぁ」

 相手の真意が読めずに首をかしげる。

「単純に幼馴染でもありますから、坊っちゃまを心配なさっての事かも知れません」

「そうだと思いたいが、自分の事しか書いてないんだよ」


 そう言いながら、今届いた手紙を開封して読んでいた手が止まる。

「おい、これ嘘だろう。何の事だ?」

「どうなさったので?」


「何故、うちの屋敷にこんなものを作れと言うんだ?今からリフォームの計画だ?意味が分からん!」

「何を作れと仰っているので?」


「専用のエステ室と子供が遊びに来た時の部屋だと」

「エブリン様のご友人としてのアドバイスでしょうか?」


「エステ室はエブリンの為だろうが、子供を連れて滞在するつもりなのかも知れん」

「新婚の元婚約者の家に?気まずくはないのでしょうか」

 エマはあり得ないという顔をしている。

 実家があるのだからそこに泊まれば良いだけの話だ。


「普通の神経ならこの時期に、その様な事は考えもしないだろう。余程暇と見える」

「何だか嫌な予感がします。一応ご招待状を送られたら如何ですか?」

「どちらにしても妊娠後期の方に失礼だろう、妹さんに聞いてみるか」

「それが宜しいと思います」


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 ここはサンチェス領で人気のティールーム、ロザリンドの妹セシリア嬢をロバートは呼び出した。

「ご無沙汰しております。エブリン様はお元気?」

 彼女とは婚約破棄の時に会って以来だった。

「あぁ、元気にしているよ」

「後数ヶ月でご結婚でしょう?色々お忙しいのでは有りませんか?」

「お陰様で順調に進んでいるよ。こちらは大丈夫なのだが……」


「何かお困り事ですの?」

「アレを出してくれ」

 従者に命じて数通の手紙を差し出す。


「これは手紙ですか?……お姉様から?」

「ここ最近になって頻繁に手紙が来るようになってね、短い返事は返していたんだが」


「あのお姉様がお手紙ねえ」

 らしくない、セシリアは考えた。

「意味が分からんのだよ。読んでみてくれるかい?」

「分かりました」


 暫く目を通していたセシリアは大きな溜息をついた。

「最近痛感しましたの、ロザリンド姉様の事。これでハッキリしましたわ」

「どういう事だい?」


「姉様はとても思い込みが激しく、そして我儘です。貴方も手放したく無いのです、きっと。自分の物は自分の物、他人の物も自分の物」

「我々は正式に婚約破棄したんだぞ、それは考えすぎじゃあ⋯⋯」


「いえ、あり得ます。長年婚約者だったのですもの。貴方が未だに、自分を想っているとでも考えているのじゃないでしょうか」

「まさか⋯⋯」

 そんな気持ちは微塵もない。

 其れどころか婚約中も今の愛するエブリンに比べたら……。


「この文面、自分の事しか書いてありませんでしょう?」

 セシリア嬢が手紙をトントン指で叩きながら言う。


「いや確かにそうだが⋯⋯私がエブリン嬢と婚約して結婚間近だとは知っているのだよな、当然」

「私はあの結婚の後会ってもいませんし、手紙もやり取りは有りません。だから両親しか⋯⋯」


「君のご両親が、婚約破棄後の私達の事を言うだろうか?余り面白くもない話題だしね。ところでご両親はいつお会いになったんだい?」


「先日、パトリシア姉様の事件がありましたでしょう?あの時に両親揃って次姉の元に行ったのですが、パトリシア姉様の所には泊まりもせず、直ぐ様王都の姉の所に向かったらしいですわ」

「大変な娘を放って置いてかい?」


「両親はパトリシア姉様に無関心、放置という一種の虐待をしていたのですわ。私もその頃は考えが子供で、見て見ぬ振りをしましたから同罪なんですが。だから不思議はありませんが、言うとしたらその時かしら?」


「ご両親に確認してくれないか?事と次第によっては、手紙で伝えようかと思う。公爵閣下から誤解されてもまずいからね」


「分かりました、今日聞いて下働きの者に手紙を持たせますわ」

「そうして貰えると助かる。済まないね」

「いえ、元々誤解があっての事ですから」

「誤解?」

「何か企むかもしれないという事ですわ。時期が来たらお話しします」

「そう言われると、凄く気になるんだが」

「エブリン様と3人で話しましょうか。家の恥になる事ですが、他言無用という事ならお話ししますわ」

「そうか、では機会を設けよう。助かるよ、招待状を出産間近の方に送るのもどうかと思うしね」

「ではその時に」


 そう言ってティールームを後にした。

 その後、両親もその件は話をしていないことが分かった。

 手紙には、早急にセシリア様から手紙を出して知らせるとあった。


 これで結婚の準備に集中出来る。

 ロバートは新生活に想いを馳せた。



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ゴールデンウィーク終わりますね、結局スーパーと薬局だけの外出。

皆さんは如何でしたか?( T_T)\(^-^ )

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