事件の顛末とその後
それからは怒涛の日々が待っていた。
おば様は後遺症が出る事なく、予定より少し早めに屋敷へと戻られた。
本人の強い希望からで、屋敷の方がゆっくりと出来るので、医療関係者を常駐させることを条件に許された。
パトリシアも泊まり込み甲斐甲斐しく世話をした。
そして裁判が開かれてフェリシナ嬢には有罪、終身修道院送致が決まった。
商会は廃業となり、会長はエリアル・クラーク侯爵夫人に賠償金支払いを申し出たが、本人からでは無いので拒否された。
しかし会長はほぼ全財産をクラーク領への寄付と、全国の従業員の退職金に当てて、ほぼ無一文となった。
これからは夫人と2人で行商で一からからやり直すらしい。
商売には厳しい人だったが、一人娘の行動を諌められなかった責任を取った形となった。
クラーク領に寄付された莫大な金額は公共工事に使われ、市民生活がより豊かに過ごし易くなる事となった。
従業員達は充分過ぎる退職金を貰って、新しい就職先探しに奔走する事になり、慌ただしく別れる事となった。
パトリシアにも当然賠償金の提示が有ったので、おば様同様お断りしたが、退職金は有り難く頂いた。
その代わり伝票釘と金種箱のアイディアを、商会弁護士の手配でもう既に個人名で特許出願されていた。
制作販売ルートも商会存続時に決めてあったらしく、其れをそのまま譲り受けて、図らずも毎月不労所得を得る事となる。
仕事は失ったが、退職金で家の残りの借金も無事完済出来た。
これで慎ましく生活すれば働く必要は無くなったが、パトリシアは新しく仕事を探す事にする。
しかし除籍されておらず、貴族という事がネックとなり、中々仕事が決まらない。
仕方無く、レース編みや刺繍を雑貨店に委託販売してもらう事になった。
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あれからメイソンさんは、共謀は無かったと認められたものの、道義的責任を取る事となる。
以前商店を辞めた女性が、警察に名乗り出て証言したのである。
その女性は新聞で今回の事件を知り、フェリシナ嬢に自分も同じ様な事をされた、自分も当時メイソンさんと付き合っていたと証言した。
そして転勤を強要されて、拒否すると商会も辞めさせられ、酷い目にあったと訴えたのだ。
しかし皮肉にもその証言がフェリシナ嬢の減刑に繋がり修道院送致になった。
女性にしたらより重い刑をという意図が有ったのだろうが、メイソンさんが女性達を騙し弄んだ事を印象付けた結果になった。
そしてメイソンさんは婚約話が進んでいた事を隠して、パトリシアともデートしていた事から罪には問えないが責任の一端あり、と広く知られる事となった。
これによりクラーク領はおろか、国中に顔と名前が知られて、結婚詐欺師の様な扱いになった。
その為、渋々生まれ故郷の田舎に戻る事となり、パトリシアにもお別れを言いに来た。
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「色々考えたんだが、田舎に戻る事にするよ。顔と名前が有名になったからね」
苦笑いともつかない様な歪んだ笑みを浮かべて、パトリシアに言った。
「そうですか、道中お気を付けて」
「もう、笑ってはくれないんだね」
「……」
「これ、田舎の住所なんだ。何も無いど田舎でね。近くに来たら寄ってくれよ」
メモを渡そうとする。
「いえ、受け取れません。……どうかお元気で」
「こんな事にならなかったら、君と……」
「それは無いと思います」
パトリシアはキッパリ否定した。
「そうか、身分が⋯⋯」
「そうではありません。ご縁が無かったのです」
「縁か……」
「この様な事がなくても私はその内、気が付いていたんじゃないかと思います」
「……」
「私達二人にはご縁が無かった、それで良いではありませんか?」
「そうか、全ては自分の蒔いた種だしな」
「お身体に気を付けて、お元気でお過ごし下さい」
「済まなかった。でも惹かれている気持ちに嘘は無かった」
「もう、終わった事です」
メモをズボンのポケットにねじ込んで、パトリシアの顔を暫く見つめてメイソンさんは去って行った。
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その後、風の噂で証言をしたあの女性が彼の後を追い、後に二人は結婚したらしい。
この女性には退職時に慰謝料込みで退職金が支払われていた為、賠償金は無かった様だ。
今彼等は、田舎で小さな商店を夫婦で営んでいると言う。
彼も幸せを掴んだのだ。
パトリシアの遅い初恋が終わった。
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ゴールデンウィーク如何お過ごしですか?
私はどっこも出ていません!
野菜ジュース買いに薬局にこれから行くかもしれません〜( ̄+ー ̄)




