マーサのお悩み相談室
「……それでお嬢様どうなさったので?」
マーサは他人事だと思って絶対面白がっている。
「マーサ、それ心配して無いでしょう。顔が笑ってる!」
「ブホッ、こ、こんなにもお嬢様を心配しております」
顔は真面目に戻ったが、キュっと結んだ口角が上がってプルプルしている。
アヒルみたいだ。
「でね、アイザック様が始終仏頂面なもんだから、店長が空気を読んで早々に解散となっただけ」
「解散ですか」
マーサは気の毒そうに眉を顰めた。
「折角の初デートだったのに。一言、言ってやろうかしら」
「そうですね。そんな奴は、馬に蹴られて……おいでになられました」
ドア横の窓を見ると、レースのカーテン越しに挙動不審者が約一名。
家の様子を窺っている。
私は足音も荒くドアへ向かって行き、勢いよく開ける。
「ストーカーですか?」
「いや、……あの、その。今日は悪かった」
そう言って頭をぺこりと下げた、公爵家ご子息様が。
「それで、謝りに来られたんですか?」
「キチンと謝罪をしたいから、入っても良いかな?」
「いえ、ここで結構です。私よりも店長に先に謝罪して下さい」
「先に……は出来ないから、明日必ず店に伺ってさせて貰う」
「約束ですからね、いいですね!」
「分かった。約束の指切りを……」
小指を立てるアイザック様。
「子供では無いので口約束で結構です」
何故かしょんぼりとして、花と焼き菓子の詰め合わせを差し出す。
「お持ち帰りくだ……」
マーサが花とお菓子には罪がありません、と言って受け取って逃げる。
「……折角なので頂きます。アイザック様、お仕事は良いのですか?」
「勿論、キチンとやっているよ。心配してくれてありがとう」
「なら良いのですが。こんな事している暇があったら、お仕事頑張って下さい」
「分かった。パトリシアが応援してくれるなら頑張るよ」
「応援?」
「兎に角、頑張るから」
「そうなさって下さい。では疲れましたので、これで」
そう言ってドアを目の前で閉める。
アイザック様は口を「あ」の字に開いたまま視界から消えた。
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其れから数日後、パトリシアの居ない時間を狙ってアイザック様がマーサを訪ねて来た。
「……アイザック様、それ全て逆効果です」
アイザック様側からの話にマーサは言った。
「やはりそうか」
「はい、長年パトリシアお嬢様にお仕えした私が力になりましょう」
「宜しく頼む」
「ところでお嬢様の家庭環境についてはご存知ですか?」
「馬車の中で無理に聞き出して少しは分かっているが」
「お嬢様は長年に渡りご家族から蔑ろにされてきました。社交はおろか婚約者もいらっしゃいませんでした」
「婚約者がいない事は私にとってラッキーとも言えるが、その家庭環境は本当に可哀そうだ」
「アイザック様、そのお気持ち同情ではありませんか?」
「同情?」
「同情と愛情を間違う方もおりますから」
「最初は同情だったかもしれん、でも彼女の強さ。前向きさ、勤勉さ、明るさ……」
マーサは慌てて会話を遮った。
このままいくとお嬢様の長所が延々と続くと感じたから。
「本気であの手強いメイソン店長に勝つおつもりですね」
「勿論だ」
「分かりました。そのままだとメイソン店長の圧勝でしょうが、私がお味方に付けば……」
「……付けば?」
アイザックはごくりと喉を鳴らした。
「やっと互角という所ですかね?」
軽い調子でマーサが答えた。
「それで互角」
「はい、はっきり申し上げてメイソン店長、お嬢様のタイプです!」
「何!」
「これは仕方のない事。頭のすげ替えは出来ません」
「……」
「だからこそ、アイザック様イメージアップ大作戦!」
「そのままではないか」
「ウオッホン、それでも互角までは持っていけますよ……」
悪魔の囁きだ。
「よし、頼む」
「それでは……」
策士マーサ、アイザック氏に秘策を授ける。
短編「隣国より嫁いで半年、そろそろお時間です!」がと日間総合部門と日間異世界恋愛部門でそれぞれ1位になりました!(ノД`)・゜・。
此れも皆さんが日頃から応援して下さるから。
ありがとうございました。まだまだこれから頑張りますので引き続き宜しくお願い致します。
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