元婚約者の新たな婚約
ロザリンドが良からぬ企みを巡らせている頃、元婚約者ロバートはエブリン嬢と良い関係を築いていた。
二人の最初の出会いは元婚約者の友人としてエブリン嬢を紹介されて。
婚約破棄前後でエブリン嬢の人となりを深く知り、お互いに惹かれ合っていると言っても良いと思う。
しかし直ぐに婚約とならなかったのは単に世間体からであった。
其れと時期を見ていたと言っても良い。
自分達まで直ぐに婚約してしまうとエブリン嬢が世間の目に晒され周りから何と言われるかを恐れたと言う事だ。
婚約破棄の時二人の事が噂になっているとサンチェス家側から聞かされたが、あの後そんな話も噂も一切無かった。
口止めして回るような人達では無いから、噂の話はでっち上げであったのだろう。
余程スペンサー公爵が好きだったと言う事だろうか。
年上好きとは知らなかった、やり手の公爵にロバートには無い魅力を強く感じたのだろう。
しかし其れももう過去の事、元婚約者のスペンサー公爵夫人も幸せを無事掴み、子まで成していると言う。
もういい加減自分達も幸せになってもいい頃だと思う。
メイド長のエマからもそろそろ旦那様方にお話を持って行かれてはとの進言も有り決意した。
そうだ、うかうかしていたら誰かに横から盗られるかも知れん。
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意を決して両親の元へと向かう。
「お話が有ります」
両親揃って食後のお茶を楽しんでいた所であった。
両親も何となく分かっていたのかも知れない、固唾を飲んで次の言葉を待っている。
「前々からお話ししていたエブリン嬢と婚約をしたいのですが」
「そうか遂に決意したのか」
父が顎を触りながら頷く。
「そうですよ、遅過ぎる位です」
母は大賛成らしい、性格の穏やかなエブリン嬢と気が合うのだ。
「賛成して頂けますか?」
「勿論だ、あちらのお父上とも先日ご一緒してな。もうそろそろ話を詰めようかと言っていた所だ」
「そうなのですね、ありがとうございます。では正式に婚約を申し込みます」
ロバートは満面の笑みで両親に頭を下げた。
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それから数日後、婚約申し込みの手筈を整えロバートは父親と共にエブリン嬢の家の応接室に緊張しながら座っていた。
緊張で喉がカラッカラのロバートは先程から落ち着かずお茶ばかり飲んでいる。
「チョットは落ち着かんか、ロバートみっともないぞ」
父親から諌められてカップを握ろうとした指を離す。
「前の時はそんな事は無かったではないか」
「今回は本当に好きだからでしょうか、緊張で居ても立っても居られない気持ちです」
「ほらもう直ぐいらっしゃる、シャキッとせんか」
父親からも励まされしっかりせねばと背筋を伸ばす。
コンコンコン⋯⋯。
「失礼します。ようこそいらっしゃいました」
ロバートの大好きな人が入って来た、父親と共に。
今日の彼女も可愛かった、ぽっちゃりしていてふわふわと柔らかそうで明るい太陽のようだ。
ロバートはエブリン嬢から目が離せなかった。
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無事婚約が纏まりエブリン嬢と庭に散策に出ていた。
「受けてくれてありがとう」
ロバートは興奮冷めやらぬ熱い眼差しで言った。
「私の方こそ、とても嬉しいですわ」
エブリン嬢も頬が赤くていつもに増して可愛い、林檎の様だ。
手汗をジットリかいた手をズボンで拭き、手を差し出す。
エブリン嬢がソッと握るとロバートはその場に膝を突いた。
「エブリン様、僕と結婚して下さい」
「はい、喜んで」
ロバートは上着のポケットからこの日の為に選んだエブリンへの指輪を差し出す。
大きな一粒石のパールの指輪。
「まぁ、これを私に?」
その言葉を聞いて若干震える指で指輪を彼女の指に嵌める。
「貴方のイメージで選びました。とても似合っています、二人で幸せになりましょう」
「はい」
エブリン嬢は涙ぐみロバートは彼女を優しく包んだ。
ロバートは幸せの絶頂にいた。
その背後からヒタヒタと災いの足音が近づいて来るのも知らずに。
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