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パトリシアの初仕事

 パトリシアがマーサと共に新居に入居する日が訪れた。

「パトリシアちゃん、マーサさん寂しくなるわ」

「おば様には長い事お世話になりました、私たちを受け入れて下さって感謝しています」

「何を言ってるの、パトリシアちゃんは私にとって娘も同然よ。マーサさんもそう、実家だと思っていつでも遊びにきて頂戴」

 おば様の優しい言葉に2人で目をウルウルさせた。

「さぁ、今日はお別れ会よ三人で楽しみましょう」

 3人で輪になって手を取り合った。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 新しい生活が始まった。

 マーサは商人の家の通いの家政婦の仕事が、パトリシアは王都から支店を出している人気の商店で経理の仕事を始める事となった。

 マーサは今までの仕事を活かす事が出来、パトリシアは仕事というものが初めてだったが元々勉強家であった事、記憶力がいい事で物覚えもよく新しい環境にも何とか慣れる事が出来た。

 但し、支店が閉まってから売り上げ計算などが有る為にどうしても帰りが遅くなる。

 それで店長を任せられているメイソン・ロペスが帰り道という事で都合が付けば送ってくれる事になった。

 仕事場まで近い環境だったので当初パトリシアは遠慮したが、メイソンが是非にと言ってくれマーサも心配するので甘える事にした。


 メイソンは24歳と歳こそ若かったが王都でメキメキ頭角を現した人物で、流石有名商店の店長を任されているだけにとても頭が良く人あしらいが上手く親切で人当たりの良い人物だった。


 エリアルおば様などはメイソンに会った途端に心の中で「合格!」と思ったらしい。

 マーサがやけにご機嫌のおば様から聞き出したらしい。

 何が合格なのかはおば様にしか分からないが、お眼鏡に適ったという事か。


 彼は落ち着いたグレーの髪、ブルーグレーの瞳の持ち主で穏やかな笑みを浮かべる好青年だ。

 素敵素敵と少女の様にはしゃいでいたので、おば様の好みなのかもしれない。


 メイソンは性格も穏やかで休みの日は読書を楽しむらしくパトリシアと話も合い、本を勧め合ったり自然体で楽しい時間を過ごせる人物だった。


 パトリシアは忙しさで奔走している内にすっかり忘れていた。

 また来ると言った男の事を。

 すっかりパトリシアの中では遠縁の親戚と言う(くく)りになった男性。

 そう言った影の薄い認識だったアイザックだが、パトリシア会いたさに戻って来たのだった。



 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「パトリシア、久し振り」

 彼はニコニコと満面の笑顔でパトリシアの前に現れた。

「まぁ、アイザック様じゃ有りませんか」

 相変わらずキラキラとした破壊力抜群の金髪、緑眼。

「あれからどうしてた?仕事は決まったの?」

 確かアイザック様が帰ってから1ヶ月位は経っていた筈だ。


「お陰様で、所で姉の披露宴如何でしたか?」

「それがさ、急遽中止になったんだ」

「中止?」

「新婦が熱っぽくてね、長旅で疲れたんだろうという事だったんだけど」

 まぁ確かに伯爵領で結婚式、公爵領で披露宴をして、それから王都に帰る道すがら友人や親戚の家を回ったのだ。

 幾ら健康で丈夫でも疲れが溜まって当然の様な気がしてきた。


「体は大丈夫だったのでしょうか?」

「まだはっきりしないんだけど妊娠したかもという事で祖父が大事をとって中止に近い延期にしたんだ」

「えっ妊娠?」

 思いも寄らない朗報にパトリシアはつい大きな声を発した。

「うん、僕はあんまりその辺は分からないし詳しくもないから。それにデリケートな問題だからその後は詳しく聞いてないんだけど……」

「……姉は幸せそうでしたか?」

 それは気になっていた。

 もしあの時知らなければ私が新婦となっていたかもしれない。


「うん、意外と幸せそう?に見えたけどどうだろうか?でもお爺様はそれは大事にしてたよ」

 側を片時も離れない程にね、アイザックは思った。


「そうですか、安心しました」

「妊娠も安定期?に入ったら新聞発表があるんじゃないかな。世紀の年の差カップルだからさ」

「確かにそうですね。ありがとうございました」


「それで仕事は決まった?」

「はい、商店の経理で皆さんに良くしていただいてとても充実しているんです」

「それは良かったね。もし決まってなかったら()()秘書でも頼もうかと思っていたんだけど」

 アイザックはそれで戻ったと言っても過言では無い。

 もう既に仕事が決まってしまったのは予想外だった。

「ご心配頂いて、楽しく仕事もしていますしマーサとの暮らしも楽しいんです」


「⋯⋯それとさ、あの日貰ったじゃないか、サンドイッチ。とても美味しく頂いたよ」

「あ、そうですか?確か余り物を挟んだのですよね。急だったので」


「レースも君が心を込めて編んだんだろう?大事にしてるよ」

「実家にいる時に暇潰しの手慰みに作った物なので大した事ないです」

「いや、どこに出しても恥ずかしくない素晴らしい作品だよ」

「⋯⋯?」

 お世辞で褒めて頂いても何も出ないのに⋯⋯とパトリシアは考えていた。

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