私の一歩
パトリシアの人生で初めての一大プロジェクトが始まった。
先日目星をつけた物件は場所も良いので決して安い買い物では無かったが無事購入することが出来た。
購入資金は、貰っていた小切手を換金したお金の残りや、金目の物を換金し後は分割払いにしてもらった。
これは私が不在の内におば様とマーサで値引き交渉してくれて私はサインするだけになっていた。
ありがたい。
そして私がいない間に少しでも住み易い様にと、一階の水回りを中心に壁紙など手を入れたらしい。
リフォームの料金はエリアルおば様からのお祝いと提案を頂き甘えさせてもらった。
元々置いてあった展示用見本家具も頂ける事になり、部屋の壁紙に合わせて色を塗り直したりニスを塗ったり⋯⋯を何故かあのアイザック様がやっている。
領主館まで毎日遊びに来られては隠しておくことが出来ず、パトリシアが家を買った事をおば様がポロッと洩らしてしまった。
何かお祝いを是非したいとの事だったが、
「邪魔しない事が一番のお祝いです」
と言うと肩を落とし明らかにいじけてションボリするので、おば様が男手の必要な事をお願いしたらとアドバイスしてくれた。
てっきり使用人に指示してやらせるのかと期待したパトリシアが馬鹿だった。
流石公爵令息、自分がやると子供のように駄々を捏ねやったは良いがとても⋯⋯お粗末な仕上がりとなった。
しかし本人としてはとても頑張ったらしく、絶対にこれを使ってくれと先手を打たれてしまった。
コッソリ後でやり直そうと思っていたが仕方が無いので
「どうせレースのテーブルクロスを掛けるし」
と自分を納得させる様に言うと、叱られた子犬の様に目をウルウルさせた。
「可愛く無いって!」
流石に本人に聞こえない様にではあるが、小声で言うとマーサが慌てて
「アンティーク家具の様な仕上がりです。流石アイザック様ですねぇ」
と見え見えの嘘をつき事なきを得た。
後で聞くと相手に聞こえないにしてもお顔に出てましたよ⋯⋯と優秀なマーサがさり気無くフォローをしてくれたのだとパトリシアは感謝した。
「特にこの辺とか味があって愛着が湧くね」
とかアイザック様は自画自賛で勝手に盛り上がっているので、パトリシアはほっておきさっさと荷物の整理を始めた。
ベッドを搬入する迄に通り道を確保しないといけない。
パトリシアが忙しく動き回るのをアイザックはずっと目で追っていた。
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それから数日後、エリアルおば様が唐突に言った。
「気を悪くしないで欲しいのだけど⋯⋯」
「何でしょう、おば様」
「アイザック様ってパトリシアちゃんの事が好きよね」
「ゴフッ」
思わず紅茶が気管に入る所だった、しかし鼻には逆流した。
ハンカチで鼻の痛みに耐えながらパトリシアは首を振った。
「面白いとは言われましたけど、多分好きとかでは無いですよ」
「見ていれば分かるわ」
おば様は身を乗り出して言う。
「お暇で退屈しのぎだと思います」
「何故?」
「私はあの父の家系の誰か似だからです。姉や妹みたいに金茶の髪の青い目だったらですけど」
「あらパトリシアちゃんだって茶色のサラサラヘアーに琥珀色の瞳可愛いじゃないの」
家では両親にも貶されていた容姿だ。
「それに顔はお世辞にも可愛いとは言えない父の家系譲りですよ。父にそっくりじゃ無くて良かったけど」
「うーん、パトリシアちゃんは自己評価が低過ぎるのよ。そんなに可愛いのに」
おば様は腕組みして首を傾げる。
「おば様だけです、そんな風に言って下さるのは。おば様が男の方だったら良かったのに」
本当に残念だ、おば様が男ならパトリシアから申し込んだかも知れ無い。
「でも居るじゃない、僕見て君が」
「ボクミテクン?」
「僕を〜見てくれパトリシア〜って言ってる様な物じゃない」
舞台俳優の様に身振り手振りで表現する。
「おば様、それ盛大な勘違いです!それに公爵家ですよ。婚約者がちゃんと居るに決まっているじゃないですか」
「勘違いかしら?私の勘、割と当たるんだけど⋯⋯」
おばさまは首を傾げたがパトリシアは信じなかった。
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