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馬車の中で

 翌日、アイザック様がようやく出発される様だ、外から声が聞こえる。

「アイザック様、お気を付けてお帰り下さい」

「世話になりました、お爺様のこと宜しくお願いします」

「それはもう、任せて下さい」

 父親は胸を張って言う。

「パトリシア嬢が見えないようだが⋯⋯」

 アイザック様は余計な事に気がつく。

「あの子も今日出発しますので準備があるようです、もう来ると思うのですが」

 余計な事を耳に入れないで⋯⋯と思いながら急ぎ足でお見送りに加わる。

「遅くなりました、姉の友人から結婚祝いをお持ち頂いたので」

 たった今エブリン様の従者からお祝いの言葉と共に届けられた物だ。

「何、傷む物じゃないなら王都で渡そうか?」

「お願いできますか、ではお持ちしますので少しお待ちください」

 そしてエブリン様が贈られた品物とお手紙をアイザック様に託す事になった。


「ところで君は何処に行くの?」

「え⋯⋯」

「ご両親からお聞きしたよ」

「⋯⋯旅行です」

「旅行?」

「はい」

「何処に」

「いえ、知り合いの所です」

「ご親戚?」

「アイザック様、出発が遅れますよ」

 王都は遠方だ、私は親切に到着が遅くなると教えて差し上げる。

「ふーん、怪しいね。教えてくれないなんて」

「遠縁の所ですのよ、オホホホ」

 母が口を挟む。

「そう、ではお世話になりました」

 そう言うと馬車に乗り込みやっと帰ってくれた。

 ドッと疲れそしてホッとした。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 それから私は旅行鞄を持ち、涙に暮れる使用人と妹に見送られて一人乗合馬車乗り場まで来ていた。

 切符を買おうと足を向けていると肩をトントンと叩かれた。

 ギクリとして振り返ると、帰ったはずのアイザック様が立っている。

「はぁ?」

 思わず大きな声が出た。

「何処に行くの?」

「お帰りになったはずじゃあ⋯⋯」

「うん、そのつもりだったけど旅行に行くなら送って行こうかと思ってね」

「いえ、反対方向ですのでお構い無く」

「反対方向って何処?」

「⋯⋯」

「まぁ良いか、ほらお荷物お持ちして」

 そう従者に言って鞄を奪う。

「止めて下さい、乗合で行きますので返して下さい」

「さぁ乗って」

 そして強引に乗せられてしまった。


 そして従者から聞かれたので仕方なく行き先を言う。

「あそこは良い所だね、僕もどうせだから遊んで行こうかな」

「⋯⋯」

「何、さっきからダンマリなんだね」

「アイザック様、お暇なんですか?」

「今はね、退屈しているからどうしようかな⋯⋯と」

「領地での結婚披露宴には出られないのですか?」

「結婚披露宴と言っても領地だからね、本格的な披露宴は王都だからまだまだ時間がたっぷり有るんだよ」

「そうなんですか」

「どうせだからこの際ゆっくり休暇を取ろうかと場所を探していたんだ」

「遠縁のおばのところですが良いところですよ」

 あそこはホテルも多い、会う事も無いだろう。

「うん楽しみだね、案内頼めるだろう?」

「無理です、忙しいので」

 間髪入れずにお断りだ。

「何で忙しいの?」

「お仕事です」

「やっぱり事業始めるんだ」

「いえ、仕事を探して働きます」

「えっ!」

「いずれ知られるでしょうから、申します。私は両親とは縁を切りまして平民になりますので」

「それ、お爺様の件が原因?」

「いえ、その前からの事ですから」

 流石にはいそれも引き金の一つですとは言えない。

「今回の事も多少関係有りそうだね、話してくれる?」

「済みませんがプライベートな事も含まれますから」

「じゃあ話す気になるまで側にいるかな?」

「本当に止めて下さい、脅すのですか?」

「人聞き悪いなぁ」

「⋯⋯」

「じゃあ、その遠縁のおば様だっけ?聞くから良いよ」

「困ります、お忙しい方なので時間は取れないと思います」

 エリアルおば様にご迷惑を掛ける訳にはいかない。

「秘密は守る、話してご覧」

 私は迷ったが他に道もなく、相手はしつこい。

 諦めて話す事にした。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 話を気味が悪いほど黙って聞いていたアイザック様は大きなため息をついた。

「よくそんな状況で我慢できたもんだ、尊敬するよ」

「いえ、今迄は勇気が無かったので」

「でもよく決心したね」

「あの家では私の幸せの道はありません、あっても今回のような、あっ済みません」

「いや良いよ。でも随分ふざけたご両親だね」

「ですから私から捨てたのです」


「⋯⋯君は強い人だね」

 彼は目を細めて言った。

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