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謎の人物

 アイザック様は長い足をこれ見よがしに組んで優雅にお茶を召し上がっていた。


「お呼びと伺いましたが何か?」

「クククッ、君は私に全く興味が無いのだな」

「興味?何を仰っているのか全く分かりませんが」

「いやいや、良いんだ。新鮮だったものだからね」

「⋯⋯」

 それ以上何を言っていいのか分からず黙り込んだ。


「そんな所に突っ立ってないでこちらに来て座りたまえ」

「はい、では」

 向かい合う形で座るとメイドがお茶を淹れてくれる。

「有り難う」

 何だか落ち着かない、観察されている様で。

 訳が分からず沈黙の時間が過ぎる。


「お話が無ければ⋯⋯」

「いや話があるんだ。実はね、知っているんだ」

「知っているとは?」

「お爺様が伴侶を探しているのを、そしてこちらの次女はどうかと話があった事も」

「何故それを?」

「お爺様から聞いたのさ、君の親は相手を姉では無く君にと考えていた様だ」

「⋯⋯」

「どうやら君も知っていたのか」

「それで姉にすり替わったので不思議でしたか?」

「いや、まぁそれも有る。興味を持ったきっかけだからね」

「それでしたらもう良いでは有りませんか。公爵様は姉と幸せになる、運命の二人という事で」

「君は⋯⋯まぁいいだろう」

「では他に御用がなければこれで」

「チョット待ちたまえ。何でそう直ぐに逃げたがる?」

「逃げる?」

 何だかバカにされた様で気に食わない。

 なのでにっこり笑って言った。

「色々掘り返しても碌な事になりません、少々誤差が生じてもそれはあくまで誤差。大筋から外れていなければ良いのではないでしょうか?」

「誤差ねぇ」

「終わり良ければ全て良しです。幸せな二人が見られて良かったですわ」

「まぁそうとも言えるが。ところで君、婚約者は居ないの?」

「⋯⋯」

 何と答えたらいいのか考えていたらつい沈黙が続いた。

「言いたくないと?」

「今はやりたい事がありますので考えられません、それだけです」

「何か事業でも始めるの?」

「何故そんな質問をされるのか、意図が分かりません。お答え出来ませんのでこれで失礼します」

 そう言って強引に自室へと戻った。


 一番最後まで何の為に残るんだろうと思っていたが結婚相手が替わった事が知りたかったのか。

 セシリアに聞いて一連の流れは知ってはいるがそれを聞いて何になるんだろう。

 もしかして相続の時に持ち出して姉を不利にするつもりかも知れない。

 でも笑い話にこそなれ、弱みにはならない。

 相手の思惑がわからない以上ペラペラ内情を話す訳にもいかない。

 弱みでも探しているのかも⋯⋯そう思って背筋が寒くなった。


 名家には色々有るのだろう、私を巻き込んでくれなければ勝手にどうぞと言いたい。

 そしてパトリシアは両親に明日の午後エリアルおば様の元に帰る旨を話しに行った。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「何ですって、向こうに戻るの?」

 母が驚きの声を出した。


「はい、明日最後のお客様を送り出した後です」

「もう行く必要は無いでしょう。戻ってらっしゃい」

「もう決めたんです、あちらに小さな家も見つけました」

「そんな事をしてどうするんだ、生活も出来ないだろう」

「仕事をするつもりです。この家には不要の人間ですから構いませんよね」

「何を言っている」

「勘当していただいて構いません。平民になるだけですから」

「貴族令嬢として生きてきて出来る訳が無かろう」

「そうですよ」母も同意する。


「今迄貴族令嬢らしいことはして頂いておりません。平民の生活にも直ぐに馴染めると思います。私の事はご心配なく」

 心を病んで体が弱い令嬢として社交界デビューもしていなければお茶会にすら連れて行って貰った事が無い。

 殆どこの家に軟禁状態で避暑にも私抜きで行く家族だ。

 今更と言う気持ちの方が大きかった。


「……」

「もう戻る事は無いと思います。お世話になりました」

「荷物はどうするの」

「荷造りは済みました。残りのドレス類はメイドに分けるなり寄付するなりして下さい」

 それ以上両親は何も言えないようだった。

 そしてセシリアにもお別れを言いに行った。


「お姉様も居なくなるのですか」

「あなたも婚約者と結婚して出ていくでしょう、それと同じよ。私は自立だけど」

「私の結婚式は?」

「私は平民になって働くつもりだから出席は出来ないかもしれないわ、ごめんなさいね」

「……」

「貴方も直ぐよ。だから元気でいてね」

「明日は何時に?」

「お客様を送り出したら直ぐ。もう荷造りも済んでるの」

「お姉様も居ないし、急に寂しくなるわ」

 セシリアにもお別れが言えたので使用人達にお別れしてから床に就いた。


 領地を離れる寂しさよりも新生活の方に心があった。

 向こうで新居の準備をしてくれているだろうエリアルおば様やマーサが待ってくれている。

 新生活に心は弾んでいた。


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