帰宅、そして……
パトリシアはもう戻るつもりの無かった実家へと戻って来た。
両親の企みからの避難を目的とした唯一の自衛手段だったが、パトリシアの与り知らぬ内に短期間で大きく事態が動いていた。
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出迎えの家族の中に見覚えの無い老人がいる。
あれが私の相手になるはずの手紙にもあった公爵様なのだろう。
しかしその公爵様、何と大胆にも姉のロザリンドの腰を引き寄せ気持ちが悪いほどくっついている。
満面の笑顔の公爵を尻目に横の姉は目が死んでいる。
それを見ただけで何となく不在中の出来事がわかる様な気がして来た。
手紙には姉が元々の婚約を解消して新たに婚約したことが書かれていてそのお相手が公爵だと書いてあった。
直ぐにでも式を挙げたいから戻る様にと言う事だった。
公爵は姉をいたく気に入り、直ぐに式を挙げて領地に連れ帰りたいらしい。
そんな所迄話が進んでいることに驚いたが、何より姉がそれを了承した事に一番驚いた。
それにしても姉は随分と青い顔色をしていて今にも倒れそうだ。
大丈夫だろうか?
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「ただいま戻りました」
「お帰りなさいお姉様」セシリアが何とも言えない顔つきで言う。
「お帰り」
両親は短く言って公爵を紹介した。
「公爵様、これが二番目の娘パトリシアで御座います」
「パトリシアと申します、病気で失礼致しました。もうほぼ完治しておりますので、ご安心ください」
これは手紙で指示があった内容だ。
「これはこれは。ワシの妹君か、宜しく頼む」
「お姉様、おめでとう御座います。大恋愛だったそうで……」
これも指示のあったセリフだ。
「ありがとう」姉から気の抜けた返事が返ってくる。
「さぁ、家に入りましょう」
母が顔に作り笑いを浮かべて応接室に移動する。
移動中セシリアが横に来て
「驚いたでしょう」
「えぇ、一体何があったの?」
セシリアが声を潜めて耳元で言う。
「お姉様が盛大な勘違いしてこうなったの、詳しくは後で」
そう言って腕を組み一番前を歩く二人を見つめた。
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応接室ではそれはもう公爵は上機嫌で皺くちゃの顔に満面の笑顔で姉の手を握り自分の膝の上に引き寄せていた。
両親も多分当初の思惑とは違ったが、この国で最も影響力のある公爵家と縁続きになれる事を少なからず喜んでいる様だった。
今更嫌だ、間違いだと言えば我が家は消し飛んでしまうかもしれないから……と言うのもあるが。
「静養中に済まんな。パトリシア嬢。一刻も早く式を挙げて連れ帰りたいんでな」
「お式はいつになりますの?」
「一週間後に決まった。領地にもめでたいことなので早馬で知らせた。皆来るそうだ」
「そうなんですか、おめでとう御座います」
「急に決まったのでな、無理を言って教会を押さえて貰った。いやこの歳で照れるがな、ロザリンドは初めてだからちゃんと式をしてやらんと」そう言ってワハハハと笑った。
案外良い人らしく姉には年齢以外で合っているのかもとパトリシアは安心した。
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それからセシリアの部屋でここ最近の出来事を聞いた。
「……そんな訳でね、お姉様婚約をあっさり破棄したのよ」
「それからどうなったの?」
「それでその足で喜び勇んで公爵に報告したら喜んじゃって公爵様」
「お姉様が報告を?」
「そう、そしたら公爵様がうちに嫁ぐかって聞いたんですって」
「お姉様喜んじゃって勿論喜んでって飛びついたのよ公爵様に」
「それで勘違いをされたと?」
「話を聞くと元々公爵様の花嫁探しをする為に両親が呼んだらしいのね、お姉様それなのに息子か孫のと勘違いして」
「よく聞きもしないで婚約を破棄しちゃったの?」
「そう、気がついた時には話が進んでいて取り返し付かなかったの」
「そうなの」
「私は止めたのよ、何だか嫌な予感がして」
「そう、でも良い方に見えたわ。お年は召していらっしゃるけどお姉様を大事にしてくれそう」
「まぁ、ここまで来たら断るのは無理ね」
「逃げたりなさらないかしら、お姉様」
それで自分にお鉢が回って来たら堪らない。
「もう無理よ。大きな声では言えないけどもう寝室一緒なのよ」
「えぇー!」
「公爵がべったりと張り付いて案外赤ちゃん早いかも」
「うわぁー」
「でしょう、公爵をお義兄様と呼ぶのよ。ほら練習、お義兄様」
「オ、オニイサマ」
片言になってしまった。
でもこの件で今まで何となくギクシャクしていたセシリアとの関係が変わった様な気がした。
姉妹でこんなに打ち解けて話したのは何時振りだろうか、子供時代?
こんな些細な会話にも飢えていた自分も自立を決意した事で少し変われたのかも知れない。
パトリシアはそう思った。
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