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企み

「言えた言えたわ」

 パトリシアにとってハッキリと意思表示出来たのは初めてだったかも知れない。

 それも父にだ、頬を赤らめて小走りで部屋に戻る。

 ドアを閉めた途端、胸がドキドキして何か大きなことをやり遂げたかの様な高揚感があった。


 パトリシアは元来大人しい性格で事勿(ことなか)れ主義ではあったが、この家では強く自己主張しなければ自分の置かれている状況が変わる事がないと思い到ったのだ。

 他の姉妹との違いに憤慨もするが、今迄訴えてこなかった自分にも非がある。

 今なら何でもできる様な気がして、これからはハッキリ物事を分析して嫌なことは嫌とハッキリ言おう。

 そう決意したのだった。


 そしてパトリシアが心を落ち着けて小切手を受け取りに行ったが、父が書斎に居ない。

 メイドに尋ねると母の部屋に向かったとの事だったので、そちらに足を向けた。


「……そんなことを……まぁ……」

 ドアをノックしようとして途切れ途切れではあるが会話が聞こえてきた。

 反射的に私のことを言っているのだと思いメイドが使う衣装部屋の扉から中に入り、コッソリと部屋の中を伺った。

 子供がいたずらする感覚でやったのだが、思いも寄らない両親の本音を聞く事となった。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「それで小切手を渡すのですか?」

「しょうがなかろう、騒ぎ出すと面倒だ」


「やはり婚約者なしというのがまずかったのでは」

「三人も娘がいるんだぞ、持参金も高額だ。誰か一人に犠牲になって貰わんことには財政が立ちゆかん」


「折角話を潰して行き遅れになったら高位令嬢の侍女にでもして働かせるつもりが宛てが外れたと言うことでしょう?」

「王城にでも上がって王妃様か王太子妃様の侍女を狙っていたんだが」


「そこは本人にも知られてないのでしょう?何とかうまく誘導できませんの?」

「いや、あの口振りでは結婚の意思がありそうだ。困ったことだ全く」


「それなら取り敢えず何回かは渡してみたらどうでしょう」

「いい気になって使いまくるぞ」


「だからそれでもお話がなければ諦めますって」

「本当にそうだろうか?」

「良い話があっても今までの様に潰せば良いのですし、何ならホラあの公爵の後妻という手もありますわ」


「あの話は私の従姉妹に来た話じゃ無いか」

「若い方が殿方もお好きでしょう?」


「しかし幾ら何でもあの公爵は65歳だぞ」

「確か後妻に入ってくれさえすればその身一つで良いとのことでしたのよ」

「……」


「パトリシアにとっても何年か我慢すれば莫大な遺産が手に入りますわ、良い話だと思いませんか?」

「確かに、嫁に出す時契約書を作ればそうかも知れん」


「子供でも産めば悪い様にはなさらないでしょう?例え女児でも」

「うむ、男の子を産めば跡取りは無理かもしれんがお持ちの子爵位でも下さるという話だったな、確か」


「奉公に出してもそんなにお給金が貰えるわけもないし、ましてや見初められることもあの子なら無いでしょうから公爵の後妻で決まりでしょう」

「そうだな、何とか誘導してみよう。その方が遺産で好きなこともできるしな」


 パトリシアは目眩がしてふらついた。

 まさかアレが自分の両親の本音だったなんて。

 確かに可愛がられた記憶もない、いつも一括りにされただけ。


「私だけ年寄りの後妻ね、まさか父親より年上に嫁がされるとは」

 愛されていないと認めるのは辛かった。だから目をいつも背けてきた。

 部屋に戻るとベッドの中で声を殺して泣いた。

 普通の結婚も許されないなんて。

 ひどく寒気がして此の世に一人取り残された様に感じた。


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