でっち上げ
パトリシアの姉ロザリンドは両親から呼び出され、公爵やその供の者達に間違っても聞かれぬ為、わざわざ離れた母の部屋へ呼び出された。
「何故お母様のお部屋にお呼びですの?」
「間違っても公爵様方のお耳に入れない為だ」
「丁度良かった、話が私の方もありましたの。所で何か内緒事なのですか?」
「ロザリンド、最近は公爵様とばかり出掛けたりしておるでは無いか、お前には婚約者が居るのだぞ」
「うちのお客様を持てなして何が悪いのですか?」
「限度があると言っているのだ。まさかとは思うが、ロバート君を蔑ろにしているのではあるまいな?」
「そんな事しておりませんわ。それより問題はあちら、ロバート様の方ですのよ」
「何?」
「何かあったのなら私達に話して頂戴」
「お父様、お母様。思い切って申し上げます。ロバート様は浮気をされているのです」
「何だと、あの真面目なロバート君がまさか……」
「真面目な人だからこそです。私と行く筈でしたお芝居に他の女性をお誘いになり、そしてその後二人っきりでお食事を夜遅くまで楽しまれたのです」
セシリアに聞かされた翌日、早速下男に金を持たせて聞き回らせて、芝居の後レストランで食事した事も掴んだ。
「どうして……もしかして噂になっているのか?」
「はい、お友達や知人に聞かされた時は耳を疑いましたわ。彼は浮気などする方では無かった筈ですもの」
「今の所は口止めしていますが、相当親しげで見ていられなかったと仰っていましたわ」
嘘である。誇張して伝える事によって、両親のロバートに対する心証を悪くしたかった。
「……」
黙ってしまった二人に追い討ちをかけるべく、次の言葉を出す。
「それに……いえやはり正直に申し上げます。そのお相手は何と私の親しい友人なのです」
「それは確かなのか?」
「目撃者が沢山いらして皆んな口を揃えて仰ったのです。あれはエブリン様だと」
「エブリン嬢は認めたのか?」
「いえ、もう顔も見たくありません、二人共。私を騙していたのですから」
自分が約束を反故にした事には触れずに畳み掛ける。
「それでお願いがあるのです。信頼関係は崩れました。この婚約を解消したいのです」
母親が上手い具合にベッドへと倒れ込んだ。
「早まるな、あんなに良い条件の縁談を解消すると言うのか」
「考え直して頂戴、ロザリンドお願いよ」
「お父様、お母様。信頼関係の築けない夫婦関係が何になると言うのでしょうか?私はこれから先ずっと不幸であり続けなければならないのですか?」
「彼も反省するだろう、私から彼にガツンと言ってやろう」
「もう遅いのですわ」
「どう言う意味なのだ、遅いとは?」
「もう解消する旨のお手紙をご両親と本人に、それぞれ送りました」
「何私達の同意も得ずにか!」
「お父様は私に不幸になれと仰るのですか!」
途端にロザリンドの表情が一変し、目が吊り上がり眉間にシワが寄る。そして癇癪が爆発する。
母親の大事にしている高級絵皿に突進して乱暴に手に取った。
「それだけは止めて頂戴!」
投げようとして母親が止めに入り、絵皿は無事回収された。
次に横の宝石箱を手に取って振りかぶる!
「あなた何とかして!それにはもっと高価な宝石が……ローンがまだ残っているのぉ」
「また私に無断で買ったのか」
構わず投げると父が必死で胸元にキャッチして事なきを得た。
その代わり相当痛かったらしく顔を歪める。
「ロ、ロザリンド分かったからもう止めなさい」
「私の宝石は無事?」
「私の身体よりもか!」
「い、いえ。あなたお身体は大丈夫?」
「心にも無い事を。宝石の方が大事と見える」
父親がいじけて拗ねてしまった。
「……」
そしてカミラ夫人は大きな宝石箱をパカっと開ける。
そこには整然と並んでいた溢れんばかりのキラキラが、衝撃でゴチャゴチャになっていた。
「私の宝物がぁー!」
カミラは目の玉が飛び出んばかりに叫んで、ロザリンド問題が頭から消え失せた。
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そのどさくさに紛れてロザリンドは部屋からまんまと抜け出した。
やれやれと思いながら自室に戻ろうとすると、妹のセシリアが立ち聞きしたらしく行く手を阻む。
「お姉様正気?」
「ふふん!もうすでに婚約破棄の手紙は出したの。あなたのお陰」
「後で後悔しても知らないわよ」
「後悔なんてするもんですか!」
「私はこの件には関係無いからね!」
「安心なさい。責任なんて取らせないから」
「その言葉忘れないわよ」
「ちょっと、生意気よ」
「忠告はしましたからね、後で困っても頼らないでね!」
そう言って踵を返して行ってしまった。
「何を後悔するのよ、明るい未来が待っているのに」
ロザリンドは信じて疑わなかった。
皆さんこんにちは。(^-^)/
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