相談②
パトリシアは前日気持ち良くゆっくりと休み、旅の疲れを癒すことが出来た。
夕食も領地でとれた新鮮な食材でバランスよく構成されており、薄味だが材料そのものの良さを活かした味付けで、会話に花が咲いた。
食後の入浴には湯船にお庭で咲いている薔薇の花びらを浮かべてあり、マーサと思わず勿体無いと笑ってしまった。花は見るもので、こんな風な使い方が出来るのだと感心するとともに、心遣いに感謝した。
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翌朝はお陰でスッキリと起きることが出来て、気持ちの良い朝を迎えた。
エリアルおば様とおいしい朝食を頂き、食後のコーヒーを応接室で頂くことにした。
「ごめんなさいね、早く貴方のお話が聞きたくて気が急いてしまったわ」
「いえ。こちらこそ、あんな言い方をしたら気になって眠れなかったのではありませんか?」
「大丈夫よ。寝付きはいいの。其れよりメイドのあなた、マーサさんでしたかしら?あなたもこちらにお座りなさい」
マーサも私が食事中は、メイド専用食堂で朝食を済ませていた。
私の横を勧められて恐縮しながらも腰を下ろす。
「あなたコーヒーは?」
「朝食時に頂きましたから私の事はお気遣い無く」
「そう」
暫く美味しいコーヒーを頂いて昨日の続きを相談することにした。
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「では話して頂戴」
「まず何から話しましょうか。私の置かれている状況からにします」
「エリアル様、私も同席して宜しいのでしょうか?」
「マーサさん、あなたの客観的な意見も是非聞かせて頂戴」
「其れならば⋯⋯分かりました」
「自分で言うのは恥ずかしい事なのですが、私は家族に疎まれています」
「⋯⋯」
「お話した通り避暑は勿論お茶会、パーティなど私は参加したことがありませんし、婚約者もおりません」
「何ですって?其れは本当なのマーサさん」
「はいその通りです。他所行きのドレス一枚お持ちではありませんでした」
「最近になって其れではいけないと思い直して、実は婚約者も自分で見つけるようにと言われていたので⋯⋯」
「待って、其れはどう言う事なの?」
「9歳の時に自分で見つけるように言われたのです。ですがそのような場所にも連れて行っては貰えず、つい最近まで引き篭もりのような生活をしていたのです」
「なんて事!……ちょっと待って、あの時までは違ったわよね」
エリアルおば様には思い当たる事があるようだ。
「其れで意を決して父に訴えたら、参加すればいいと言われましたがドレスも持ちません。私の割り当てられた費用があるとその時に初めて知り、そのお金を小切手で下さいとお願いしたのです」
「⋯⋯」
「そして小切手を取りに行く時に偶然、両親の本心と企みを聞いてしまったのです」
「本心と企み?」
「二人は私を結婚させるつもりが無かったのです、最初から。私に婚約者を作らせず、行き遅れとして王城か高位貴族の元に奉公に出すつもりだった様なのです」
「本人に決めさせずという事?」
「はい。聞かれたこともありませんし、婚約の話を潰したと言っていました」
「何故そんなこと」
「三人の結婚持参金は無理という事です。誰かに犠牲になって貰うと。お金の無心をするつもりもあるような口ぶりでした。でもそれだけじゃ無いのです」
「⋯⋯」
「実は今回こちらに父がお願いした事に繋がるのですが、私をある方の妻にしようと企んでいるのです」
「話が分からないわ。奉公させるつもりだったのでしょう?」
「其れよりも自分達にとって都合がいい相手が見つかったのです」
「パトリシアお嬢様もしかして?」
「そう。あの方よ」
「誰なの?」
「この話は最初父の従姉妹に来た話なのです。65歳の公爵の後妻です」
「なっ、何ですって!」
「お可哀想なお嬢様」そう言ってマーサが泣き出した。
「つまりパトリシア、話を整理すると親戚にきた話を横取りして、祖父と同年代の公爵にあなたを嫁がせる計画があるという事ね」
「そうです。両親は後妻に入っても、何年かで相手が亡くなれば多額のお金が入ると。奉公とは桁が違うから、後妻にしようと二人の意見が一致したのだと思います。多分、お金を巻き上げる気なんだと思います」
「はぁー、鬼なのあの二人は」
「其れで公爵がウチに友人と言う触れ込みで来る事になったのですが、ここで思わぬ誤算が生じました」
「誤算?」
「姉のロザリンドが、その公爵のお相手をすると言い出したのです」
「其れはどういう事?」
「其れに関しては私からお話しします。ロザリンド様は、公爵家から縁談があると思われたのだと思います。確かにそうと言えますが、お相手がまさか老人だとはご存知無かったのでしょう。自分が選ばれるかもと思われたのかも知れません」
「婚約者が居るのでしょう?」
「はい居られますが、自分がお相手すると酷い癇癪を起こされて、物を投げまくられたのです。昔からよくそう言ったことをなさいましたが、ご両親は注意もせずに甘やかしておられたので。其れで通るとお思いになったのでしょう」
「まぁ、呆れた」
「普段は無視している婚約者の居ない私を指名されたので、誤解したのだと思います。多分、自分の相手より高い地位の嫁になる事が許せなかったか、そのあたりだと推察します」
「パトリシアお嬢様が、それならロザリンド様が適任だと言って、上手く逃げられたのです」
「私は両親から貰った小切手で、もしもの備えをする事にしました、逃げる為の」
「でも其れなら癇癪を起こしてもどうしても貴方にって、ならなかったの?」
「姉も妹も癇癪を起こして暴れますが、両親は物を買い与えたり避暑に連れて行くことを約束したりで、今まで怒ったことがないのです。幸か不幸かそれで今回は姉の要求に助けられました」
「そうだったの」
「流石に一旦話のあった親戚から縁談を横取りする形になるので、私を避難させるのは知らない所という判断で、此処にお願いしたのだと思います」
「其れでなのね。急だったので驚いたけれど、私はパトリシアに会いたかったから」
「ご迷惑をおかけしますが、もし強引に縁談が決まったら逃げるつもりなんです」
「それはそうね、私でもそうするわ」
「こちらの雰囲気を見て、この街の片隅にでも働きながら暮らせないかと思ったんです」
「お嬢様、そうなったら私もお連れください」
「マーサまで付き合う事はないのよ」
「いえ、お嬢様と一緒が良いのです」
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