相談①
私は迷ったが、思い切って疑問に感じていた事を、聞いてみる事にした。
「エリアルおば様、失礼とは思いますが、うちの母とは何かあったのでしょうか?」
「どうしてそう思うの?」
「私は記憶力には自信があるのですが、幼い頃の法事の件は覚えていなくて。先程はお話の途中で、母が私を引き離した様に感じたものですから」
「うふふふ、そう感じた?」
「はい。それに……」
「それに?」
「すみません、はっきり聞いてもいいかわかりませんが」
「構わないから話してご覧なさい」
「今日こちらに来て驚いたのです。こちらにお邪魔する事になったので、予めこの領土の下調べをしたのですが、余りに洗練されて整った街並みや、そして賑わいも。街全体が活気に溢れていて素晴らしいものでした」
「……」
「其れで街並みを通りながら考えたのです。こんな素敵な避暑地でもある場所に、母が姉妹を連れて避暑に訪れた事が無い事に気が付いたのです」
「貴方は?」
「私は避暑に連れて行って貰ったことがありませんから」
「そうだったの」おば様の声がワントーン低くなる。
「それにそう言った人気の避暑地を持つ親戚がいるのなら話題に上がって、必ず此処にも来ていると思うのですがそれも有りません。まるで避けているかの様で」
「それにはね、理由があるのよ」
「やはり何かあったんですね」
「ずいぶん察しがいいのね」
「考えたりする時間はたっぷり有りましたから」
「話してもいいのかしら?」
「教えてください。その他の事も関わっているのでおかしいと思ったのです」
「他に何かあるの?」
「身内の恥になる事ですから言い難いのですが聞いてもらえますか?」
「何か貴方一人で抱えているのね」
「……」
「他言はしないわ。貴方の許可がなければ、口は堅いのよ」
「あの、図々しいお願いなんですが、もしもの時はこちらの領土で内密に、私を雇って頂けないでしょうか?」
「もしもの時?何かあったのね」
「はい、それには家族関係から話さないと、長くなります」
「分かったわ。今日は長旅で疲れているでしょうからゆっくり休んで頂戴、話は明日聞かせてもらうわ」
「有難うございます。現在の私にはマーサしかおりません。どうかお力を貸してください」
「さぁ、そうと決まればお食事を摂ってゆっくり入浴すると良いわよ。熟睡できるから」
「はい。そうさせて頂きます」
私は安心して緊張を解いた、すると疲れが出たのかどっと怠くなった。
長いこと馬車に揺られたのだ、長距離は乗り慣れていない。
今日は安心して眠れそう、そう思ったのだった。
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一方でマーサは、パトリシアお嬢様が侯爵夫人と話をなさっている間に部屋へと案内され、荷物を手早くクローゼットに納め終わり、そしてその部屋の隣の使用人専用部屋にも案内されて自分の荷解きも済ませた。
時間を持て余していると、パトリシアお嬢様が夕食まで一旦お部屋で休まれるとのことだったので、部屋に用意してあった茶器でお茶を淹れる事とした。
「マーサただいま」
「お嬢様お疲れ様でした。お茶をお淹れしましたから」
「あちらでも頂いたから貴方がお飲みなさい。貴方も疲れたでしょう」
「いえ私は隣の使用人部屋の水差しがありますので」
「いいから。私はこれを飲むとお夕食が入らなくなるわ。だからお願い」
「⋯⋯分かりました。では頂きます」
「あのね、マーサ」
「はい何でしょうか」
「明日おばさまにご相談するのだけれど、貴方も同席してもらえないかしら?」
「私がですか?」
「貴方の意見も聞きたいの。お願い出来ない?」
「分かりました。お力になれるかは分かりませんが、同席させて頂きます」
マーサにはここまでの一連のお嬢様の行動からある程度察しはついていた。
明日⋯⋯マーサは少しでもお嬢様のお力になれるように、頑張る事にした。




