第二章・安息の地を求めて ④
「先に行きます」
「気をつけろよ」
勢い良く駆け出しても肉体は脆弱なままだ。遅い俺を置いてミリアは瞬く間に大広間から消えていった。
情けないと思いつつも、より急ぐ事はせずに、逆に走る速度を落としてミリアを追う。遅くするということは、それだけミリアが一人で戦う時間が増える事を意味するが、共に戦う事が目的ではない。
目的は敵の排除であり、戦うのは手段でしかない。故に戦わずに済むのであればそれが理想だ。そんなことは稀、などと考えながら走り続けると、耳に届いた音が戦闘音ではなく声だった事に、もしかしたらと希望を抱いてしまう。
「ミリア! 自分が何をしているのかわかっているのか!?」
しかし、怒気に満ちた声に、やはり理想だなと嘲笑する。
「レイは……魔王は貴女が思うようなことをしない!」
影に身を潜め、会話を聞きながら敵を伺う。
ミリアと言葉を交わしている三角帽子を被った如何にも魔術師だとわかる女。その後ろに支給された甲冑を身に纏った三人の兵士が松明を掲げていた。
「目を覚ませ! 今は力を封じられているから大人しいだけだ! 力を取り戻せば再び世界を血に染まる!」
「シェリー……」
「成長したのは身体だけか? 少し考えればわかるだろ? 勇者が元の世界に戻った今、魔王が力を取り戻したらどうする? 誰が奴を止められる?!」
帰ったという発言に怒りがこみ上げてくる。このままじっとしているのが正解だとわかっていても、黙ってはいられない。
「……ふざけるなよ」
「なんだ貴様……あぁ魔王だな?」
「よくまぁいけしゃあしゃあと言えるもんだ。何が元の世界に帰った、だ! 殺しておいてふざけたことをぬかすんじゃねぇぞ!」
「レイ! 待って!」
ミリアに腕を掴まれるが、振り払って進み続ける。
「どうやって帰ったんだ!! 言ってみろ!! 二年間、二年間も探し続けて何の手がかりも得られなかったことを! お前は知ってるって言ってんのか!!」
「落ち着いて! レイ! ね?」
抱きつくミリアを邪魔だと思い、振り解こうと思った時、耳に届いた弱く小さい悲痛な懇願に足は止まっていた。
「……お願い、お願いだから」
「我々が勇者を殺す? 何を喚き散らすかと思えば……狂ったか?」
ミリアのお陰もあり、本気で勇者は無事に帰れたと思い込んでいる様子に気付いてしまい、怒りよりもやや困惑が上回ってしまう。あれだけ大掛かりな勇者討伐戦を知らない筈がない。
「シェリー、本当なんです」
「お前まで……。もういい、最初からお前の事は気に食わなかった。なぜ力もないお前が同行を許されて、師匠の下で修行していた私が留守番しなくてはならなかった……ここでお前よりも優れていることも証明してやる。全員戦闘準備! ここで魔王の脅威を完全に潰すぞ!」
戦う意思を示したシェリーに呼応して兵士たちは一斉に抜刀。シェリーは何もない空間から大きい杖を取り出した。
「……おいあれって」
シェリーが取り出した杖を指さすと、ミリアが気まずそうに告げたのだった。
「貴女の角、です」
さぞ強力な武器になっている事だろうが、戦わなければ自由はない。
「来るぞ!」
叫ぶと同時に、シェリーの持つ杖先が火を吹く。
到底生身では受けれない。範囲外へ逃れる為に後退するが、ミリアはその場から動こうとはしなかった。
「ミリア!」
咄嗟的に名前を呼んでしまったが、避ける必要がある俺と違い、ミリアには避ける必要がないだけの話だった。
「サラちゃん!!」
彼女には炎の扱いに長けた心強い仲間がいるのだ。
炎が炎を喰らい合い、離れていても肌が焼けるような熱さ瞬く間に広がる。近づく事を許されない俺や兵士たちは、ただ見ている事しかできず、勝負を託すことしか許されなかった。
火属性で戦いを続けても勝てないと判断したシェリーが素早く詠唱を始める。
「《我が道を阻む全てを吹いて飛ばせ『悪戯な風』》」
放たれたのが火に有利な水ではなく、風だった事がシェリーの戦闘能力の高さが伺えた。火を消すなら水だが、焔や熱気を相手に押し付けるのなら風が有効だ。しかし、風ではまたしてもミリアのほうが上手だ。
「ふーちゃんお願い!」
長ったらしい詠唱を必要とする魔術師に対して、精霊使いは頼むだけでいい。その上火も風も攻撃力はミリアの方が上、このままでは勝ち目がないと踏んだシェリーが別の属性で攻めたいと思うのは当然の思考だった。けれど、彼女の魔力属性は火であり、別属性の魔術を発動させるには詠唱が必要となる。詠唱している間、高温の熱を宿した風を生身で耐えなければならないが、耐えれる程の優しい温度ではなく、熱の押し付け合いを続けるしかない。続けると言う事はミリアに軍配があがる事を意味する。
「シェリーさん! 今のうちに!」
「すまん!」
兵士たちが盾を並べて防風壁を築く間にシェリーは詠唱を始める。敵ながら見事と素直に思えた。
「《大いなる母よ我らに降りかかる災いをその慈愛を持って包み退けん『大いなる母の守りの手』》」
地形が変化し、地面がシェリー達を包み込んでいく。やがて姿が見えなくなり、熱風を吹かせ続ける意味はなくなった。ミリアは透かさず次の指示を出す。
「ふーちゃん切り裂いて!」
不可視の刃が甲高い音を立てながら飛び、土壁へ衝突。相性の問題だが、気体で物体を裂くにはそれ相応の魔力が必要だ。表面を削ることはできても中に隠れた敵には届かない。
「サラちゃん!」
火の精霊を呼びながら走り出すミリア。
火と風では土の守りを崩せないと判断していた俺にはミリアの行動を理解できなかったが、続いて起こった事に驚愕する事となる。
土壁に手のひらを当てた次の瞬間、眩い光と共に鼓膜を破れそうになる爆音が響き渡った。
何が起こったのかを理解できない。わかっているのは、視界の霞みと耳鳴りに襲われている事だけ。
とにかくミリアの無事を確かめようと立ち上がろうとするがままならない。
「――!」
ミリアの名前を呼んでみるが、自分の声すら自分の耳に届かない有様。
逸早く状態を正常に戻そうと、瞼を閉じて回復を試みる。効果があったのかはわからないが、ようやく視界が正常に戻り始め、最初に目に入ったのは、横たわる騎士の横で俯くミリアの姿だった。
「――リアっ!」
駆け寄って肩に手を乗せるとミリアの身体が小さく跳ねる。
「ミリア?」
ゆっくりと顔を上げたミリアの表情に勝利の喜びなどどこにもなかった。
「わ、わたし……殺す、つもりなんて……」
大人びた容姿をしていてもまだ十五の小娘。命を奪うのは初めてだったのか、戦わせてしまった事を酷く後悔した。
「すまない。後は俺が。……君はフランの所へいって休んでおいで」
「で、でも!」
「いいから、な?」
気力のないミリアを無理やりに立たせ、この場から離れる様に促す。脱力しきった背中を見送った後、遺体の片づけに取り掛かろうと遺体に目を向ける。
「ん?」
おかしいと感じ、確かめる為に騎士の一人の鎧に手を当てる、はやり熱くなかった。他の遺体にも目を配って確認する。一人はミリアが起こした爆発に最も近くにいたのだろう。鎧のあちらこちらには石の破片が突き刺さっており、死因がはっきりしていた。もう一人の騎士にも外傷はなく、魔術師に至っては衣服に焦げた痕すらなかった。
どういう事か、今一度最初に調べた騎士の兜を取って調べなおす。二十台半ばの顔立ちを横に向けて耳を調べる。あれだけ凄まじい音だ、鼓膜を通して脳を破壊された可能性を考え、確認するが異常はない。口鼻目と順に調べていくが解明には至れない。至れないからこそ、一つの可能性にたどり着く。
激しい炎の戦いの後、密閉された空間、外傷もなく息絶えた、それらを考慮して導き出された答えは一つ。
「……酸欠か?」
それ以外に理由が思いつかない、という方が正しく、それ以上の追及は知識不足だと断念した。
熱くなければすぐにでも運び出せる。兜を外した騎士を起こし、背中側から脇に腕を通して引きずって運び出そうとするが中断する。
「そうだった」
要塞は移動している状態。その状況では出入口がどうするのかわからない。壊された以上開いている方が濃厚だが、地上と繋げられていない可能性もある。
遺体が独りでに動くことはない。一旦片づけを中断してフランの元へ向かうその途中で、都合のいい事にフランと鉢合わせる。
「マスター、ミリア様の命を受けてお手伝いに参りました」
「あぁ、丁度良い」
一人になりたかったのかもしれない、などと考えながら、出入口の状態を尋ねる。
「地上との接続は完了した状態であり、また破損した状態では侵入が容易と判断、修繕を開始、完了した状態です」
命令しなければ動かないと思っていたが、案外臨機応変に対応してくれたことに感謝しつつ、遺体の片づけに協力を頼む。
「マスター、遺体の処理は魔力回収で可能ですが、しない理由をお聞かせ願います」
ミリアがもう一度遺体を見せない様にする事ばかりを考えすぎて失念していた。
「そういえばそうだった。どれぐらいで回収しきれる?」
「優先事項と定めていただければ半刻もかかりません」
それぐらいの時間であれば、移動させる必要もなさそうだ。頼むと回収の指示を出す。
「承りました。それでは最優先事項に魔力回収を設定、魔力回収を開始致します。対象は二体の遺体」
「なんだと?」
力を手に入れる方法を考え始めていた俺は、事務的なフランの言葉を危うく聞き漏らす所だった。
「最優先事項に魔力回収を設定及び開始、二体の遺体を対象と申し上げました」
「四の筈だぞ?」
遺体が動くわけもないとわかっていながら改めて数える為に歩く速度を速める。
「訂正はありません」
間違っている事を認めないのは人間ぐらいだ。つまり生きているという事だ。
助けるべきか、息の根を止めるべきか。
襲ってきた敵の命を奪わないということは、再び襲われる覚悟も必要だが、何よりも襲撃者に命まで奪われないと思われるのが最悪だ。それが原因で勇者が死んでいる以上、息の根を止めるのが最善。
「助けられるか?」
甘いなどとは思わない。ミリアの重荷を少しでも軽くできるのなら、再度襲われるなど安い事。次に襲われた時、この手で殺すと決意して今回は助ける方針を取る。
「救命行動は非推奨であると助言致します」
「いいんだよ」
「了解しました」
フランを連れて戻り、誰が死に誰が生きているのかを確認する。
「この二人だな?」
生き残った魔術師の女と兵士一人を並べて寝かせ、フランは間で片膝を付く。右手で女の、左手で男の胸の上に手を乗せる。
「どうだ?」
「治療に当たって魔力を消費しますが、よろしいでしょうか?」
頷くとフランの両手が薄い緑色の光を灯し始める。中々の練度だ、などと思っている内には収まってしまう。
「もう……終わりか?」
「肯定。肉体の損傷は皆無に等しく、回復に必要なものは濃度の高い酸素供給と報告します」
要塞もドールも三代目の魔王が作った物、彼は魔王として君臨した年月が僅か五十年と少し、それ故に最弱と汚名を受けているが、彼がもし二百年ほど王として生きていたのなら、世界の情勢は今とは違っただろう。生き物が呼吸をしなければ生きていけないと誰もが知っている事でも、なぜ必要なのかを知る者は多くない。三代目の魔王はそれを文字にして残している。読んだ当初こそ馬鹿にしていたものだが、今は事実だと知っている。
フランが手元に収まってくれたのは、これ以上ない幸運だったのかもしれない。
「わかった。外に運び出そう」
協力して生き残った二人を外へと運び出そうと思う俺だったが、フランは二人の襟を掴んでずるずると運び出してくれる。
「助かるよ」
手ぶらでフランの後を追い、要塞の外へと向かう。
久しぶりの空の下、出来ることなら日の光を浴びたい所だったが、時刻は真夜中で、草木が風と戯れる音しかない。それ故か、頬を撫でる風も心地よく、空気を一層おいしく感じる。
「マスター、運び出しの完了を報告します」
フランも長い事地下生活をしてきた身だろうが、俺のような感傷に浸っている様子は皆無だ。
「助かったよ。俺ならもっと時間がかかっていただろうからな」
「当機はマスターの役に立てることが喜びです」
そう告げるフランのことを座って説明を求めたい所だが、ミリアのことも気になる。
どちらを優先するべきかを考えてみたが、悩む間もなかった。
「俺はミリアの様子を見てくる。お前は彼女たちが目覚めるまで、いや出来れば目覚める少し前まで見張っていられるか?」
「了解しました。目覚めを間もなくとした時の当機の行動の指示をください」
「広間に戻ってきてくれ」
了解の言葉を受け取って、要塞内部に戻る。
出入口から広間までの距離はそれなりにあり、要塞の内部構造の弄り方を考える。出入りする上では近いほうがいいが、今回のような侵入に対しては距離があった方がいい。どっちにするべきかを考えながら、大広間の扉の前にたどり着く。ミリアは寝ていると思い、忍び足で大広間に入ると、ベッドに腰掛けて俯くミリアの姿が目に入った。
「なんだ、寝てないのか?」
眠れない、という方が正しいのかもしれない。
「……あ、おかえりなさい。その……どうしても、考えてしまうんです。シェリーや彼らには、帰りを待つ人がいたんじゃないかと」
死んだ二人の事を知らない俺には、ミリアの疑問に答える事はできなかった。
「喜べるものかはわからんが……」
ミリアの隣に腰を落とす。
「シェリーともう一人の兵士は生きていたよ」
下ばかりを向くミリアの顔が勢いよく上がり、ようやく目を合わせてくれた。しかし二人は殺したとすぐに俯き始めてしまう。
「……君が助けてくれて戦ってくれたりしたから俺は、今こうしてられているんだ。でも今の君を見ていると俺は、助けてもらうべきじゃなかった、なんて思っちまう。だってそうだろ? 助けなきゃ人を殺すこともなかった。……でもだからと言ってなかった事にはできないからな。俺は俺なりにどうすれば君が俯かずに済むかを考えてみた。……これから、君が俺を生かしたことを誇れるような、胸を張れるような存在になるから、だから……、俯いていないで、顔を上げて見届けてくれないか?」
「……でも、それは私が背負――」
ミリアの頭の上に手を叩き置く。
「俺の手紙にはお前をよろしくって書いてあってな、お互いによろしくし合えってことだ、だからまぁ笑顔でいてもらわなきゃ困る」
少し無理をしてではあったが、微笑みを見せてくれたミリア。
「それでいい。さ、少し休め」
立ち上がって半ば強引に寝床に寝かす。
「レイ、ありがとう」
「お互い様だ」
頷いて瞼を閉じたミリアの頭を軽くなでてから、コアの所へ行こうとするが、袖を引っ張られる。
「あの、居てくれませんか?」
自分の身体が大人びている事を忘れているのだろう。可愛らしいお強請りも今のミリアでは誘っているように見えてしまう。とは言え、本人にそんな意思があるとは到底思えず、また約束もある。黙ってベッドの端に腰を落とし、ミリアが眠るのを待つ。
「ふふ、ありがとう」
「さっさと寝ろ」
乱暴に頭を撫でまわす。
「……眠る時に、誰かがいるのっていいですね」
「起きた時に誰かがいるのはもっといいぞ」
「……楽しみにぃ……していいですか?」
「いい子に寝ないのに楽しみがあると思うか?」
「意地悪」
掛け布団を頭まで被って背中を向けてられてしまう。
なるほどと納得してしまう。これまでこの身体の所為で俺を守りたがる男にうんざりしてきたが、守ってあげたいとはこういう感情か。まさかこの俺がこんな感情を抱く事になるとは思いもしなかった。
「レイ」
呼ばれて振り向くと少しだけ顔を覗かせたミリアが恥ずかしそうにしていた。
「……おやすみなさい」
返事の代わりにミリアの腰をぽんぽんと叩くと、ようやく瞼を閉じて眠りに就いてくれる。ミリアが完全に眠るまでの間、彼女を守るにはどうすればいいのかを考える。
ミリアとの約束を果たす為にも、彼女を戦いから遠ざける為にも、力を手に入れたいところだ。
しかし、この身に受けた脆弱化の呪いは、そう容易く力を手に入れさせてくれない。現状、戦う力を手に入れられるとわかっている方法は、僅かに二つ。二つと言っても、一つは精霊との契約であり、精霊との契約が出来ない身である以上、実質一つ。残った方法は神剣に代わる武器の入手だ。
探す、買う、作る、奪う、貰う。手に入れる手段はそんな所だが、探すのは時間がかかり、買う金はない、作れるには技術がなく、奪うとなれば戦いになる。そして価値のある物を無償で譲る奴はいない。だが有償ならば一つだけ心当たりがあった。しかし、出来れば頼りたくないのが本心だ。
「……れい」
呑気に寝言を言い始めたミリアを見て決意を固める。何を対価に求められるかはわからないが、現状で最も見込みがある手段だ、背に腹は代えられない。
目的を達する為に、早々に要塞を動かしてどこか大きな町に向かいたい所。しかし、残っている俺の魔力は二割と少し、それでどれぐらい移動できるのかがわからず、足りなければ魔力が回復するのを待たねばならない。俺なら一週間飲み食いしなくても平気だが、ミリアでは三日と持たないだろう。そう考えると武器を手に入れるよりも先に生活の基盤を安定させる方が先決な気がしてくる。
どうするべきかを瞼を閉じて考えていると、寝不足が続き走って疲労も貯まっていたから眠たくなってくる。しかし牢屋にいた時とは違い、無防備に寝れる状態ではない。今更ながらフランには戻ってきたら出入口を閉めろと命令を出しておけばよかったと後悔する。
自分の判断ミスを悔みながら、ブーツのひもを解いて靴と共に靴下を脱ぐ。素足となった右足をふとももの上に乗せ足の裏を満遍なく親指で押していく。首や肩も動かして解しながらフランの帰りを待つが、全身のマッサージが終わっても未だ帰ってくる事はなかった。やる事もなくなり、身を寝転ばせようと身体を傾けると背中に堅い感触が広がる。ミリアが寝ている事を思い出して納得するが、肌の堅さではない。掛け布団を軽く剥いで正体を見れば靴を履いたまま。下男よろしく靴をゆっくりと脱がしていく。
慎重の甲斐あって、ミリアを起こさずに脱がせられた靴をベッドの横に並べて置き、剥がした掛け布団を整えて立ち上がる。眠気を飛ばすために大きく伸びをしていると背後から誰かが近寄ってくる気配を感じた。
「マスター。戻りました」
「おかえり。戻って早々で悪いが、出入口は閉めてくれ」
「すでに閉鎖しております」
「わかった。なら……」
要塞内部を弄るつもりだったが、急ぐ理由はない。
「いや、明日にしよう。今日はもう休んでくれ。俺も休む」
フランは深々と頭を下げた後、壁まで歩いていき壁に向いたまま停止した。
「おやすみ」
そんな彼女にそう告げて、ミリアの眠るベッドの横で床に身を転がす。
「……そこ、だめぇ」
いい夢、見れそうだと思うのだった。
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