表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者亡き世界に魔王は憂う  作者: 雲乃内晴
第五章・望みの果てに
37/39

第五章・望みの果てに ⑫

「待たせて悪いな」


「いえ、問題ありません」


 というミリアに対して。


「本当よ」


 というネイビル。


「可愛くないな」


「はぁ?! エルフと比べないでよ! エルフと人じゃ人なんて皆不細工でしょ!」


 それは言い過ぎな上に容姿の話をした訳じゃない。容姿だけを言うのなら、ネイビルの発言はただの自虐だ。


 恋愛経験をして男が好む態度を学べと思う俺に意外な人物から注意が飛んでくる。


「ダメだよレイちん、ネイちんお堅いから」


 大人の色香を振りまくお姉さんよりお子様体形の猫人の方が上手のようだった。


「ゴホン!! それじゃ案内するから付いてきてくれるかな?」


 盛大な咳払いをするエスカリーオに軽く謝り、案内に従う。


 店の出入り口とは反対側に進み、荷揚げ場に辿り着く。数多の種族が数多の商品を売り買いする光景にミリアやルザリーが感嘆の息を漏らす。


「興味があれば手に取ってみてもらって構いませんよ?」


「いえ、お仕事の邪魔をしてはいけませんから」


 申し出をやんわりと断られたエスカリーオは止めた足を再び動かして更に奥へと進む。手入れの行き届いた中庭には多くの机と椅子が並べられており、その上には食べきれるとは思えない程の料理が山の様に詰まれていた。


「これ全部食べていいの?!」


 誰よりも食い意地のあるルザリーが瞳を輝かせると、エスケリーオが誇らしげに頷く。許可を得たルザリーは鎖から解き放たれた野犬の様に料理へと向かっていった。


「でもこんなに、食べきれません」


 ミリアが行儀の悪い食べ方をするルザリーに注意をしないで、そっちの心配をしていることに物申してやりたいがエスケリーオの言葉の方が先に出てしまう。


「そうなりましたら彼らが食べますので、ご心配いりません」


 納得したミリアはルザリーの下へ行くのを見送る。注意はしないようだった。解せない。


「ネイビルさんもどうぞ気兼ねなく食べて行ってください」


「えぇ、そうさせてもらうわ。でも……こんなご馳走を前にするとほしくなるものがあるのだけど?」


「……これは失礼しました。お昼と思ってご用意を避けたのですが申し訳ありません、すぐにご用意します」


「待て待て! 俺もほしいとは思うがすぐ酔う奴が言うか?!」


「そんなすぐ酔わないわよ!」


 開いた口が締まらなくなる。自覚がないとは嘆かわしい。


「好きにしろ、俺は知らん」


 そうさせてもらうと言って、ミリアたちとは別の机に向かう。


「さぁ嬢ちゃんも好きなだけ食ってくれ、酒は後で持っていくから安心してくれ」


「あぁ。だがいいのか? ここまでしてもらうほどのことをしたつもりはないんだが?」


 出会った最初の俺の心境を考えると、これほどのもてなしは逆に萎縮してしまう。


「……嬢ちゃんは最初、俺を助ける気なんてなかっただろ?」


「あぁ、むしろ逆を考えた」


 気付かれていたのなら隠す必要はない、素直に認める。


「それでも救ってくれた、感じた恩がでかくなったのもそうだが、嬢ちゃんに見られた時、俺は死ぬのが運命なんだと不思議と受け入れちまった」


 そこで一度区切ったエスケリーオは自嘲気味に笑う。


「魔物に襲われたときは死にたくないの一点張りだったのにだぜ? でもまぁこうして生きてる、死にたいとは思わねぇ、嬢ちゃんにまた殺意を向けられたくねぇから胡麻擂ってんだよ」


「そこまで殺意を向けたつもりはないんだが?」


 大げさに身を震わせて己の身を抱くエスカリーオ。


「冗談きついぜ、呼吸も忘れちまうほどだったぞ?」


「悪かった。しかしよく気付けたものだ」


「これでも色んな奴をみてきたからな。どんな風に見られていて何を考えているかは、大体目を合わせりゃぁわかるってもんよ。さ! 無駄話は終わりだ! 食ってくれ。俺は酒を持ってくる」


 見送って食べに行こうとした途端、エスカリーオが慌てて踵を返してくる。


「そうだった。さっきも言った他の連中がここに混ざるのは問題ないか?」


「ん? あぁ問題ない。騒ぐのに人数は必要だろ?」


 返答に満足したエスケリーオが盛大に笑いながら去っていくのを見送り、料理の並ぶ机の前に立つ。

 食えるのか怪しい料理から、見るからに美味そうな料理、色とりどりのある中から真っ赤な身が綺麗に並ぶ刺身を摘まんで口に頬る。


「レイぃ? お行儀が悪いですよ?」


 口に広がった魚の味わいが台無しだ。


「皿をくれ」


 受け取った皿に刺身を更に乗せて白米を探す。


「レイ、それ生ですよね? 食べれるんですか?」


 懐かしい反応だ。俺自身も最初にこれを見た時は嘘だろとおもったものだ。


「美味いぞ?」


 刺身を摘まんでミリアの口元に寄せる。


 疑いの目を向けられながらも更に刺身を寄せれば、瞼を強く瞑ったミリアが勢いよく喰らいついた。


 親鳥とはこういう気持ちなのか、癖になりそうな感覚を噛み殺しながら、味を伺う。


「……美味しい」


「だろ? 東の島国の民族料理らしくてな。あいつの故郷にもあった料理らしいぞ」


「え?! それってすごい事なんじゃないんですか?!」


「すごいかはわからないが、共通する物の発見だったからな、とにかくその国に行ってみようってなった……その途中だったんだがなぁ……」


 ディフラズ帝国を横断したが運の尽きだった。


「……。では、私たちで行ってみますか?」


 影が刺した表情を少し無理矢理に明るくするミリア。


「それもいいんだがな」


「何か問題でも?」


「問題という程じゃないんだがな」


 他料理も皿に乗せながら会話を重ね、座って食べるの為に用意された長椅子と机に向かう。

評価やブックマークなどしていただけますと、モチベーションにつながります。どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ