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勇者亡き世界に魔王は憂う  作者: 雲乃内晴
第五章・望みの果てに
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第五章・望みの果てに ⑪

「何をしたらこうなるのか、教えてもらえるかしら?」


 ルッツ商会に入ると、慌ただしく現れた執事がこれ以上ない丁寧な態度で案内してくれた一室、座る間もなく開かれたネイビルの開口一番がそれだった。


「何って、魔物から助けただけだ」


「護衛がいるでしょ?!」


「戦いに絶対はないからな」


「そうね! 仰る通りよ!」


 何がそんなに気に食わないのか。卵の時と違って独り占めにしないで共有したというのに。


「ネイちんの言いたいことはまぁわかるかなぁ。大物を助けてうんちゃらかんちゃらなんて冒険者が夢見る状況の一つだもん」


「なんだ。夢を一つ叶えちまったから怒ってるのか」


「違うわよ! 全然わかってないわね貴女! 卵といいそんな状況に容易くなってる貴女にムカついてるのよ! 何かやってるんじゃないの?」


「偶然だっうぉと!」


 見るからに柔らかそうな長椅子に勢いよく腰を落とすと、沈みすぎて、ない筈の玉が締まる感覚に襲われる。


「何やってるのよひゃぁ!」


 自分なら平気とでも思ったのか、威勢よく座って無様にも背もたれにしがみ付いた。


「阿保だな」


 反論はなく、ひじ掛けに頬杖を立ててそっぽ向く。弄りすぎて本気で怒られても面倒だ、ネイビルをそっとしておき、未だ座らない二人を見る。部屋のそこら中に置かれた調度品、どれも高価とわかるものを突くルザリーと見守るミリア。


「壊すなよ」


「わ、わかってるよぉ!」


 ルザリーはその性格上やりそうと思えたが、育ちがよさそうなミリアが調度品に興味を示すとは意外だ、などと思っていれば、扉がコンコンとではなくガチャっと鳴いた。


「嬢ちゃん! 待ちかねたぞ!」


 体質なのか慌てていたからなのか、額に汗を付けたエスカリーオが上機嫌で現れる。


「悪いな、思いの外寝入ってな」


「いや無理もねぇ。急かした俺が悪い。っとまずは嬢ちゃんのお仲間に自己紹介だ」


「あえっと初めまして、ネイビルと申します」


 少し忙しない様子で立ち上がるが、冒険者とは思えない綺麗な一礼。


「ネイビルさん、だな。エスカリーオ=ナステオ・ルッツだ、よろしく頼む」


 差し出された手にネイビルが両手で応える間、エスカリーオの視線は調度品で遊んでいた二人に向けられる。


「ミリアと申します」


「ルザリーです」


「ミリアさんとルザリーちゃん、だな。よろしく頼む」


 それぞれの名前をそれぞれが記憶し合い、自己紹介は終わる。


「いや嬢ちゃん、俺はまだ嬢ちゃんの名前知らねぇぞ」


「ん? あぁそうだったか? レイナだ」


 名乗ってから、名乗っていなかったかを記憶を辿るが、確かに名乗っていない。


「レイナ、さん? くくっいやすまねぇなもう嬢ちゃんで定着しちまっててな」


「それでいい。どう呼ぶかは任せる」


「助かる。さてお嬢さん方、早速昼食の招待したいんだが、少し待ってくれ。嬢ちゃんと仕事に近い話がしたいんだ」


 椅子に座って膝に肘を乗せて少し前のめりになるエスカリーオは神妙な面持ちで口を開く。しかし言葉はなく、口が開閉するだけ。


「どうした?」


「いやすまん。場所を変えさせてくれ」


 座ったばかりのエスケリーオが立ち上がりさっさと部屋の外への扉に向かってしまう。仕方なく後を追って部屋を出る。


「悪いな突然、あれだ嬢ちゃんのと約束あるだろ? お仲間にも言ってない可能性を途中で頭に過ってな」


 秘密が第三者の口から零れれば、当事者二人の信頼をズタボロする可能性がある。しかしミリアに魔狼のことを言われても過度な心配と多少のお怒りを受けるぐらいだ。エスカリーオの気遣いは気にしすぎなものではあるが、俺との約束を確実に守ろうとする確固たる意思の表れでもあった。


「そういうことか。で? その話が仕事とどう繋がる?」


「いや仕事ってのは咄嗟の言葉だ、忘れてくれ。話は街道にいる魔狼のことだ。嬢ちゃんとの約束があるからな、組合に報告はしてねぇんだが……あのまま放置する訳にもいかねぇと思ってな」


 報告しないということは、討伐隊が組まれないという意味であり、いつまでも魔狼がうろついていることを意味する。何も知らずに街道を通った誰かが次の被害者になると考えるのは自然だろう。


「心配するな、あれは俺が対処するつもりだ」


 意思の疎通ができなかった理由を知りたいのもそうだが、あの状態の同胞を放置する訳にもいかない。加えてロメットの依頼の犯人があの人狼だった可能性もある。


「そう、か。だったら猶更組合に報告するべきじゃねぇか? 討伐依頼がでりゃぁ報酬もでるぞ?」


 無言を貫き、約束を思い出してもらう。


「意思は堅いってことだな。わかった、片が付くまでそれとなく街道の封鎖が続くように仕向けて嬢ちゃんとの約束を守るとするかね。それと入用なら遠慮なく言ってくれ。武器防具、消耗品なんかは言ってくれりゃぁ用意するからな? なんなら家を用意するか?」


 家には流石に笑った。


「いや、半分は冗談だが半分は本気だ。さっき咄嗟の言葉と言ったが、嬢ちゃんには依頼として俺の護衛をやってもらいてぇんだ。あぁ返事は今じゃなくていい、今断られたら折角のパーティを沈んだ気持ちでやる羽目になるからな!」


「俺も仲間と相談したいんでな」


 この町に定住するつもりのない俺の返事は決まっているが、ネイビルとルザリーが雇ってもらえるのなら、彼女たちが仕事に困ることはなくなるだろう。しかし俺を護衛にと言っていた事からどう話を転がすか、そんなことを考えながらエスカリーオと共に部屋へ戻る。

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