第五章・望みの果てに ⑩
少し早めに足を止めたミリアは、レイナが歩いてくるのを待つ。レイナもミリアに合わせて正面で歩みを止めた。
「心配しました!」
魔狼と戦ったことを知らない筈のミリアにそう言われて驚くレイナだったが、すぐに出来事は関係ないなと思い直す。
「あぁ、悪かったよ」
「本当にそう思ってますか?」
「思ってる。でも連れて行かなくてよかったとも思ってる」
ミリアは一瞬、両立する感情なのかを考えそうになるが、後で考えればいいことだと、とにかく自分の思いを告げる。
「今度からは連れて行ってください嫌とは言わせません! もう、与り知らない処で大事な人を失いたくないんです」
誰のことを言っているのかを聞くまでもなく、そうなった一端が自分にあると後悔するレイナには返す言葉がなかった。
「お願いします。レイに心配されないぐらいに強くなってみせますから」
レイナは軽く息を吐いてからゆっくりと首を振る。
「違う、違うんだミリア」
戦いをする上で強いに越したことはなく、ミリアは十二分に強いと言える実力を持っている。けれど強さ以上に大事なものをミリアは持っていない。
「君は敵として立ち塞がる人族を殺せるか? 殺す覚悟ができているか?」
レイナがミリアを連れて行かなかった最大の理由、敵の種族がわからない調査の依頼だったからだ。計画的な誘拐であることから、知を巡らせる種族である可能性が極めて高い。犯人が人の可能性もあれば、ミリアと同族である可能性も捨てきれない。
「私……は……」
普段ミリアに向けている優しい眼差しはなく、冷厳な態度のレイナに息と言葉を飲む。生半可な答えは許されない。
「できていない、と……思います」
望みを叶える為に偽りの覚悟を示すことはできた。しかしそれができないのがミリアであり、そんなミリアの答えにレイナは自分のことの様に誇らしげに微笑んだ。
「それでいい。悪い事じゃない」
「でも! ……置いていかれたら助け合うこともできません!」
敵を殺せなくともできる事は多くある。実力がある者なら猶更だ。
「そう……だな。わかった」
本音は待っていてほしいと思うレイナであったが、魔力が十分にあり敵が人族以外であれば、ミリアの戦闘能力は心配を必要としない。敵がわからなかった最初とも違い、ミリアの意思を無視する理由はもはやなかった。
「じゃ!」
先ほどまで悲痛な面持ちだったのが嘘のように喜びで満ちた笑みが弾ける。
「あぁ、だが無茶はしないでくれよ?」
「はい!」
「ん、なら行こう。後ろもお待ちかねだ」
振り返ったミリアの表情から事がどう運んだかを察知した三人は釣られて微笑む。
「えっと、お騒がせしました」
ミリアの謝罪に全員が笑顔を見せる中、レイナはケイミを視界の中心に留める。
「ケイミ、悪かったな」
「ちょっとちょっと、なんでケイミだけなのよ」
ネイビルの主張にそーだそーだと同調するルザリー。
「お前らは寝たければ寝れるだろ」
唯一ケイミだけが眠たくても仕事で眠れない職業にいる。
「いいのよ。好きで一緒に起きてたんだもの。それに最初にいったけど二人を優先するのが私の仕事だから」
「そうか、ならいい。ところでこの後、昼前ぐらいまで寝たい。いいか?」
「それは構わないわ。一応今日で宿泊最終日だけど……どうするつもり?」
「とりあえずは出る。あの部屋は居心地がいいが、支払いに困るからな。町に滞在する場合はまた来る」
店と客のやり取りを終えて店の中へ。
「それじゃ私は軽く開店の準備しちゃうからここで。おやすみね」
元々二人で泊まっていた部屋に四人で向かう状況を少しばかり面白く感じながら階段を上る。
「起きた後だが、ある商人から招待を受けた、俺とミリアは行くとしてお前たちはどうする? 付いてくるか?」
部屋に入ってすぐレイナは服の一部の脱ぎながら二人に尋ねる。
「仕事?」
「いや、昼食に招待されただけだ。だが、相手は商人だからな、直接的な稼ぎにならなくとも良い伝手にはなるかもしれない。どうする?」
視線を交わしてどうするかを考える二人。待ってやりたいと思うが、瞼の重いレイナはベッドに身を投げる。
「昼食前までには決めておいてくれ」
言うだけ言って枕に顔を埋め、眠りへと落ちていく。
「レイ? もう少し詰めてもらえませんか?」
そんなミリアの願いがレイナの耳に届くことはなかった。
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