第五章・望みの果てに ⑦
薄暗い街道をゆっくりと歩き、リスタッツァを目指すその途中。
「じょ嬢ちゃん、あああれ」
街道の真ん中で三匹の魔物が食事をしていた。こちらが近づいてもお構いなしで屍を貪り続ける。
「慌てるな、すぐ片づけ……」
パニックに陥られないように笑顔を見せておこうと視線を向けると、男は帰り道ではなく西の山を見上げていた。男の視線を追って山を見れば、そこには夜空を背景にシルエットをはっきりとさせた狼がいた。ただの狼でないのは一目瞭然、四足歩行動物が二足で立っていれば誰だって魔族だと疑う。
「嬢ちゃん早く逃げるんだ! ありゃ魔族だっ! このままじゃ俺た――き消えた?」
消えたと思える速度でこちらに向かってくる。
「揺れるぞ!!」
肉体の悲鳴を無視して魔力を放出、身に纏って地を蹴る。男を運ばせている影の量を削り、減らした影を通行の邪魔となっている魔物の首に走らせて即座に三つ落とす。
単身であれば追い付かれる前に町に辿り着けた筈が男を連れていては追い付かれる。しかし助けたことを恨む暇はなかった。林の中でも容易く並走する魔狼の姿を視界の端で捉える。
悠長にオロチを取り出している暇はなく、飛び出してきた魔狼に対してオロチを投げ飛ばす。容易に弾かれてしまうが想定内、弾かれたオロチを影を伸ばして手元に引き寄せれば、取り出しと接近の拒絶に成功したが、その代わりに逃げ道を失う。
「よせ、争うつもりはない」
出来れば人間の前で対話をしたくなかったが、仕方がない。
「嬢ちゃんっ! 言葉が通じる相手じゃねぇ逃げなきゃ食われちまうぞ!」
だから嫌だったんだ。唸るだけの魔狼も、クレハやロメットたち同様に対話ができるというのに、人は魔族と魔物の区別しようともしない。害を成す化物としてしか見ることはなく駆除する対象。助けている筈の男に殺意が芽生えそうになる。
「嬢ちゃん!!」
「黙ってろっ!」
同胞である事を明かせない原因を強い口調で黙らせ、唸って警戒する魔狼には武装を解いて戦う意思がない事を伝える。
「……なぁ頼む」
真っ直ぐと目を見つめて懇願が通じ、魔狼は唸るのをやめてくれた。しかしやめたのは唸る事だけだった。
「っ!」
突然の接近に反射のみで後方に飛ぶが、十分な距離を取れず腹が裂かれる。痛みや裂かれた事よりも、言葉が通じないことで混乱。それで頭を埋め尽くされ、受け身を取る事も忘れる。
そんな俺を正気に戻してくれたのは商人のおっさんだった。
「嬢ちゃん!!」
無様に尻もちを付いた俺を踏み潰そうする魔狼の足を横へ転がって避け、解いた武装を今一度纏う。
通じていないのか、通じていて無視しているだけなのかはわからない。可能性は様々あるが、戦わなければ殺されることがわかっている現状、考えることを放棄する。
腰を落とし、オロチを握りなおす。
身に纏っている闇を自身の攻撃の反動で壊れない程度に補強し、残りで翼と尾を作り出す。人の形をしながら最も戦闘能力の高い姿を模倣する。即ち竜人。
「恨むなよ。戦うことを選んだのはお前だからな」
全力で戦うことを選んでもらえたことが嬉しいのか、魔狼は空に向かって遠吠えを上げた。
前回ここまで投稿してしまえばよかったと後悔しています。大変短くなって申し訳ありません。




