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勇者亡き世界に魔王は憂う  作者: 雲乃内晴
第五章・望みの果てに
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第五章・望みの果てに

 夜の帳を眺めながら荷馬車で町を目指す。疲れた体に揺れる荷馬車は揺り籠、眠気を追いやれないミリアの体は荷台の揺れと船漕ぎで大きく揺れる。同乗する他の客に迷惑にならない様にミリアの体を引き寄せて俺の体にもたれてもらう。


「……なんだ?」

「え? いやその……」


 俺をじっと見つめるネイビルに問いかけると歯切れが悪い返事が返ってくる。聞きにくいことを聞きたいのは明らかだった。


「同性愛者かって?」

「え違っ! 私が気になってるのはた……、例の中身よ」


 同乗する同業者たちに聞かれると面倒だとわかっているネイビルは言葉を伏せる。


「俺も気になるところだが、鑑定してみないとな」

「本当にわからないの?」


 確かに中身がわからないというのは嘘だが、疑われる要因はなかった筈だ。


「なぜそう思う?」


 嘘に嘘を重ねるよりも先にまずは要因の確認。


「……私に見えない物がルザリやミリアさんが見えるのはわかるのよ? 獣人族にエルフ族だもの、でも……さ?」


 あの時か。

 強化術を施していたと偽ることを考えたが、魔術師には見破られる可能性が高い。なにより俺を恩人と呼ぶネイビルが疑いを言葉にした時点で相応の確信があると判断するべきだ。降参を伝える為に両の手のひらを見せる。


「やっぱり。今すぐにでも聞き出したい所だけど後でいいわ、その代わり……町に戻った後の予定を教えてくれるかしら?」


 後半はやや真面目な口調だった。


「……そうだな。まずはギルドに行って昇格、その後は……」


 袖からロメットからもらった書簡を取り出す。


「この依頼を完遂させにいく」

「木等級の貴女に個人依頼って……」


 驚きよりももはや呆れの方が上回る。

 俺が持つ依頼書は依頼者がギルドに出す高価な用紙であって、冒険者が普段持つことになるギルドが発行する安い羊皮紙とは訳が違う。


「でもそんなものを受けれる貴女たちがどうして昇格試験を?」

「単純にいつでもこうして仕事にありつける訳じゃないから、だな」

「確かにね。……ねぇ? その依頼。私も一緒には、ダメかしら?」


 冒険者にとって仲間を失うのは喪失感に襲われるだけではなく、明日どうやって生活していくかにも悩まされる。前衛を務めていれば辛うじて一人でやっていける可能性はあるが、前衛に守ってもらわなければ仕事ができない後衛は文字通り死活問題だ。ネイビルが共に仕事をやりたがる理由から頷いてはやりたいが、だからこそ首を横に振るしかなかった。


「この依頼の報酬はすでに受け取って使っちまってる。報酬なしで仕事ができるなら構わんが?」


 冒険者は儲かる仕事、そう思われるのは一部の成功者たちがいるからであり、実際は日々の食費に宿、装備の手入れに消耗品の買い足し。そして明日終わるかもしれない命に貯蓄は不要と酒に逃げる者が多く、金に余裕のある冒険者は数少ない。


「そう。返事はルザリと合流して相談してからでいいかしら?」

「無報酬だぞ?」

「わかっているわよ」


 表情と口調から苦渋の選択であることは伺えたが、そうまでして共に仕事をしたがる理由がわからない。

 ネイビルとルザリーの冒険者としての実力は中堅と言ってもいい。魔力切れでへばる事もなく、加入させてもらったと念頭に置いてパーティに動きを合わせる努力をすれば誤射もなくなるだろう。おまけに見目も麗しい二人の女、引く手数多といっても過言ではない筈。

 いや、逆か、と考えを改める。

 ネイビル一人なら引く手数多だが、ルザリーを連れているとなると話が変わる。リスタッツァでの獣人の扱いは奴隷一歩手前。入れてやる代わりに、戦力とは違うものを求められる可能性は十二分にある。そうなれば芋づる式に彼女にも求めらえる。


「わかった。可能な限り協力するが、話は全員揃った後にしよう」


 ミリアが寝ている内に助けないと決めたことを知られるのも怖い。この話は保留することが最善。


「迷惑を掛けるわ」


 視線を進行方向に向けたネイビルに釣られて南を見れば、町と共にお金がないからと自分の足で町に戻ったルザリーが門の前で暇そうに座っているのも見えてくる。


「ミリア、起きろ着いたぞ」


 鬱陶しそうな顔をされるが、負けずに体を揺らす。


「んん……レイ?」


 一度意識が戻れば後は早かった。寝てしまったことを申し訳なく思うミリアは慌てて意識を覚醒させてくれる。


「ごごめんなさい、寝ちゃっていました」

「気にするな。休める時に休むのがプロだ」


 荷馬車から順に下りて賃金を御者に手渡すと先に町にたどり着いていたルザリーが元気よく走ってくる。


「やっときたぁああ。待ちくたびれたよぉ」

「奢るって言ったのに、それでも歩くって言ったのは貴女でしょ?」

「ネイちん忘れたの? パーティ内でお金の借り貸しは禁止だよ?」


 貸し借りとは違い、また崩壊したパーティのルールを厳守する意味が俺にはわからないが、勿論口には出さない。


「そうだったわね。……それじゃまずはギルドに行きましょうか?」

「え? ご飯は?!」


 空腹で仕事に向かうつもりはない。

 食事をしてギルドへ行って昇格手続きする場合は選べる飯屋がギルドの近くに限定されるが、昇格手続きをしてから食事ならばどこで食べるかを相談しながら飯屋を探せる。


「悪いなルザリー、先に昇格させてくれ。お詫びに馳走するから」

「え? いいの? わかった!」


 快く承諾してくれたルザリーらを連れてギルドへ向かう。

四章が思いの外長く、急遽分けたのですが、意味があったのかはわかりませんし、サブタイトルに悩みました。今後変えるかもしれませんがよろしくお願いします。


また、☆5評価やブックマークなどしていただけますと、モチベーションにつながります。どうぞよろしくお願いします。


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