第四章・新たな呪い ⑩
待ち受ける牛魔は咆哮を上げた。戦いへの経験値が低い者であればそれだけで戦意を削げる咆哮、それを物ともしない挑戦者を喜ぶが如く更なる咆哮を上げ、角先をレイナに向けて走り出す。両者が敵と定めた者を目掛けて走る中で、レイナの視線が牛魔から外れる。目的は戦闘ではなく目標の回収。牛魔との衝突間際に身を捻り牛魔とすれ違う。
無防備な首筋、一刀で落とせる可能性を見送り、レイナは目的に従って札を拾い上げる。札を袖に放って振り返り、再び突進してくるのを待つが、牛魔は入り口付近から動こうとしない。
逃がさない為にも思えるが、容易く避けられた突進を再度するほど馬鹿ではないということだ。
「どうした? 一回で終わりか? 来いよ」
地上に存在する牛魔であれば対話が可能だが、今目の前にいる牛魔が発するのは言語ではなく動物のそれ。挑発は無駄に終わる。
「なるほどな」
しかし挑発が無駄だという事でわかることもあった。目の前にいる牛魔は姿形こそ本物だが、中身は偽物だということ。そしてダンジョンが地上にいる生き物を設置できる性質から、一層で見たゴブリンとワーム、相容れない筈の二匹が仲睦まじくしていた事、突如出現した事も説明できる様になる。
入り口を人で固められているこのダンジョンは新たな魔物や動物が入ってくることはほぼなく、自生させることで内部にいる冒険者を狩る性質を重点に置いた、とレイナは結論付けた。
「次は実力も模倣するんだな」
容易く倒せる相手に逃げる必要はない。魔力を放出して闇を纏う。腕と足が折れない様に重点的に保護し、残りの闇を背中に集め、広げて地を翔けた。
迫る敵を迎え撃とうと牛魔が戦斧を振りかざし、間合いに入ったレイナにこれ以上ないといえるタイミングで勢い良く振り下ろす。が、翼代わりにした闇に戦斧を受け流された牛魔の首が、宙を舞ってから床に落ちた。
「レイッ!」
戦闘が終わって近づいてくるミリアの表情を見て、レイナは素早く両手を合わせた。
「いやすまん、逃がしてくれなさそうだったからな」
「心配しました」
「約束は一人にさせないことだろ? 守ったぞ?」
言い返すことのできない主張にミリアはそっぽ向く。すると倒れた牛魔を突くルザリーの姿が目に入る。
「ルザリーさん?」
「え? あいやだって、倒すなんて信じられないもん」
首が落ちても死なない生き物は確かに存在するが、牛魔は死ぬ生き物。しかしダンジョンが作った牛魔であり、レイナも本当に死んだのか疑問に抱くが、杞憂で終わる。牛魔の体は雲散し始め、完全に消え去るとその場には宝箱が残される。
「罠じゃないわよね?」
宝箱で仲間を失ったばかりのネイビルは用心と疑りを深める。
「経験上は、な。まぁ不安なら下がってろ」
そうすると言ってネイビルがフロアから出ていく、その後を追ってルザリーとミリアもフロアから出て行ってしまう。仲間を失った二人はわかるが、ミリアまでも出ていくことに若干の不満はあったが、レイナは気にするのをやめて高さが腰にまで達する宝箱に歩み寄る。施錠はされておらず簡単に開いた箱の中身を確認したレイナは予想だにしなかった中身に口を覆った。
レイナがそれほどまでに反応する物とは何か、好奇心が恐怖心を上回った三名は恐る恐るもレイナに近づいていく。
中身を見た三人は、獲得者であるレイナを凝視した
「あの、レイ?」
「ちょっとこれって、さ?」
「卵ぉぉだよね?」
レイナは卵形をしているだけで卵とは違うものと考えてみたが、誰がどう見ても卵でしかなかった。
「みたい、だな」
箱から取り出し、無精卵の可能性を考えて中身を探ってみるが有精卵だとわかってしまう。
「あり得るんですか? その……色々と」
「可能と言えば可能だが……」
アイテム袋とアイテムボックスの最大の違いは容量ではなく中身の劣化速度。箱以上に巨大な魔石で作られた要塞のインベントリーは時間経過を受け付けない究極の保存先ではあるが、どの入れ物も共通して入っていない物を取り出すことはできない。どうやって要塞が卵を入手したのか、なぜ魔力として吸収しなかったのか、その二点だけはいくら考えてもレイナにはわからなかった。
「レイちん、そんなに変なの?」
「ん? いやどうなんだ? この手の事はそっちの領分だと思うんだが?」
「んん~~、わっかんない! でもいい物が出たって喜べばいいんだよ!!」
物ではなかったからこそ気にしているんのだが、ルザリーの助言に耳を傾けて深く考えることをやめた。
「質問いいかしら?」
前置きしたネイビルの問いこそが、最初に考えるべきことだった。
「何の卵なのかしら?」
本章ラスト回でした。
投稿を初めてからまだ一月も立っていない若輩者の書き物をここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。引き続き投稿を頑張ろうと思っていますので、ブックマークや評価の方をお願いします。
またレビューや感想をいただけますと、作品をより良いものに仕上げられる切っ掛けになると思いますので、ご助力の方をよろしくお願いします。
引き続き当小説をよろしくお願いします。