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勇者亡き世界に魔王は憂う  作者: 雲乃内晴
第四章・新たな呪い
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第四章・新たな呪い ⑥

 五分ほど走り続けると分かれ道があり、道の間に設置された簡易的な案内が、森に伸びる道がダンジョンに続く道だと教えてくれる。更に走ると小規模の集落が見えてくる。ダンジョンに入る前に道具を揃えようとする冒険者を客とする商人や布を張って宿を営む者や町とダンジョン間を行き来して運送する者までいる。


「遅かったですね」


 先にたどり着いたミリアが息切れもなく近寄ってくる。


「ふぅぅ……悪かったな」


 オロチのお陰で格段に早く走れる足にはなっていたが、跳躍と滑空を交互に行い移動するミリアとでは土台が違いすぎる。


「早速潜るとしたいが、その前にこれを渡しておく」


 買えなかった弓の代わりに短剣を渡す。


「短剣だろうと弓だろうとやる事は変わらない、矢の代わりに短剣へ風なり熱なりを纏わせて使ってみるといい」


 力強く返事をしたミリアと共にダンジョンへと入っていく。


「広いな」


 ダンジョンは獲物を招き入れやすい様に低層で漂わせる雰囲気を洞穴程度にするものだが、ここのダンジョンは一層から大洞窟を思わせる雰囲気だ。


「はい。許可している範囲に下りる場所がありません」


 風精霊に偵察させるミリアが言うのだから、勘違いということもない。


「仕方がない。ぼちぼち探しながら行くか」


 下層への道はミリアに任せて索敵に専念する。一層から広いダンジョンに先を思いやられたが、それだけ冒険者の数も多く、接敵することはなかなかなかった。


「ありました。こっちです」


 ミリアに従い下層への道を目指す途中、ミリアの手を掴む。


「待て。敵だと思う」


「? 思う、ですか?」


「いや、気のせいじゃなければ、突然沸いて出てきた」


 不可解な現象に警戒しながら進み、索敵に引っかかった魔物が三匹いた。


「ワームとゴブリン、ですか」


 落ち着いた様子でミリアが言う通り、ゴブリンが二匹とミミズが一匹。争っているのなら分かるが、あり得ない事に仲良く行動している。


「どうしました?」


 同種でもないのに協力し合える魔物など聞いたことがないが、普通に受け入れているミリアに説明できる自信がなく首を振った。


「いや、とりあえず倒す。見ていてくれ」


 ダンジョンに入るのならフランを連れてくればよかったと後悔しながら、戦闘を開始した。

 突如現れた俺に身構えるゴブリンだったが、奇襲に対してその場で身構えるという愚策、容易く腹部に足がめり込み、壁にその身を埋めた。

 予想以上の威力になった蹴りに驚きと喜びを抱きながら、空かさず二体目の処理に視線を向けた瞬間、視界が突如傾く。何が起きたと理解できない内に右肩が地面と衝突していた。


「レイっ!!」


 ミリアの声でゴブリンが木の棒を振り上げている事に気づく。

 回避が間に合わないと瞬時に悟り身を固める。相手の武器は刃物じゃない、致命傷にはならないと判断しての事だったが、来る衝撃はいつまでも訪れなかった。


「レイ! 大丈夫ですか?」


 ミリアに抱き寄せられる間にどうなったのかを確認すれば、ゴブリンの体は未だに棍棒を振り上げた恰好をしていたが、首から上がなくなっていた。


「あぁ、助かったよ」


 体に痛みはなく正常だ。一体何が起こっていたのかが今尚わからない。


「足は……もう、治っているんですね」


「足?」


「気づいてなかったのですか?! 折れていましたよ!!」


 再度確認するが正常だ。仮に折れていたとしてもオロチを持つ俺の体がすぐに元の状態へ戻る、正常であることに違和感は覚えない。


「そうか、オロチ」


「どういう事ですか?」


 オロチが齎す力は他の呪われた武具よりも強力だとクレハが言っていた。


「振るった力に対して肉体が耐えきれないんだ」


「そんな事……」


 あり得ないと続けたいミリアだが、現に蹴りを入れた俺は無様に転がっている。


「厄介な代物を掴まされたもんだ」


「ですが、考えようによってはすごく……強力な力にも思えますが……?」


 強力な力であることは間違いないが、オロチに肉体の所有権を奪われた場合、肉体の酷使と再生を繰り返し、死ぬこともできずに使われ続けることを意味する。オロチを単なる回復する道具と思って扱ってはならないと気を引き締める。


「ま、大体わかった。悪かったな、心配かけた」


「……反省してください。本当に」


 力を取り戻して慢心していたにしろ、よもやゴブリン相手に窮地になるとは一生の恥かもしれない。


「そういえば……」


 一体目のゴブリンは俺が始末し、もう一体はミリアが倒してくれたが、ワームがいた事を今更ながら思い出す。

 ワームは首が飛んだゴブリンの後ろで身を二つに裂かれて悶えていた。


「腕を上げたな」


 魔物たちの背後の壁にくっきりと残る切断の痕。貫通力と威力を高めながら、ゴブリンの腕を切断しない範囲調整、実に見事だ。


「もうレイより上ですよ?」


 生意気を言うミリアの額を小突いてやりたいが、ヘマをした手前助けてもらった。


「頼りになる相棒で助かったよ」

「素手での戦闘は危険ですから、武器を持ってください」


 狭い洞窟で長すぎる大太刀を振るうのは避けたいが、肉弾戦も避けたい。どっちがマシかという話。相棒の忠告通りに袖から大太刀を引っ張り出す。


「ん、ふんっ!」


 腕を命一杯伸ばしても袖から太刀の切っ先が出てきてくれない。


「……レイ」


 鏡を見ずともわかる、今の自分は滑稽だ。

 もう一度太刀をインベントリーに戻して腕を振るう、振った勢いを使って太刀を射出し、地面へ突き刺す。


「うっし、こうすれば問題ない」


「……戦闘中じゃなくてよかったですね」


 本当にそう思うが、半目のミリアには同意を示してやらない。


「そう拗ねるなよ」


「拗ねていませんよ?!」


 面白い反応に軽く笑い、突き刺したオロチを持ち上げる。


「次も援護を期待するよ」


 中々望む返事が貰えず、甘える様に上目遣いで首を傾げると溜息を吐かれてしまう。


「……ずるい人です」


 求めていた回答は得られなかったが、とても満足できる表情を見せてくれる。


「魔族だからな。……いこう」


 反省しない俺に呆れ顔をするミリアを連れて、ダンジョンの奥へと進む。

この様な場所で言うことではないかもしれないのですが、誤字脱字のご報告に対して感謝をお伝えしたいとこの場を使わせてもらうことにします。

ありがとうございました。

ミスはないように努めてきましたが、まだまだだと反省するばかりです。

常に見られているものだと気を引き締めて続けていきたいと思います。


高評価やブックマーク、読んだ感想など、反応をいただけますとモチベーションになりますので、よろしくお願いします。

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