第四章・新たな呪い ④
一部修正しました。
「それで? 武器は何にするんだ?」
エルフという種族は非力であるが、俊敏性が高く魔力量や操作に長けた種族、足を生かして接近を許さずに遠距離から一方的に攻撃するのが最も理想であり、長年の経験から子に教えるのは弓と短剣の扱い方。それ故にエルフの武器は決まって弓だ。
「正直、どれがいいのか決めかねるのですが……」
エルフが戦う上で弓が理想である以上に、ミリア個人は強力な風精霊に守護されている。それも考慮すれば、ミリアの持つべき武器は弓一択と言える。
「やっぱり弓でしょうか……?」
「まぁ……もろもろを考えて、ベストだと思う」
「じゃぁ弓の練習しなくちゃですね!」
小さくガッツポーズを作るミリアに根を詰めないようにと諭す。
「でもいいのでしょうか? 弓はお金がかかりますけど……」
「矢の代わりに魔力を飛ばせばいい」
「そんなことまでできるのですか?!」
矢の代わりに魔力、そうするよりも矢と共に魔力を飛ばす、の方が効率的で強力、なのだが、口だけで説明するよりも実際にやりながらの方がいい。
「あぁ、それについては後でな?」
また魔力の話題になりかけるが、ギルドに到着した以上、先に済ませておきたい用事がある。
「レイナさんにミリアさん、おはようございます。今日はお早いですね」
「おはようございます、ロウィーナさん」
「仕事を貰ってきた、通してくれるか?」
ロメットから受け取った書類を渡し、処理してもらう間、相も変わらず閑古鳥がなく館内を見渡す。
「ロウィーナ、飲んだくれの姿が見えないが?」
昼夜問わずに机で突っ伏して酒を引っ掛けている犬人がいなかった。
「ザックでしたら昨日の晩から仕事にでました」
来る途中に買った梨に齧ろうとする手を止めてロウィーナを見る。
「お前が酔っぱらってんのか?」
「失礼ですよレイ!」
「あはは……私も驚きましたけど、レイナさんやミリアさんを見て感化されたんだと思います。最近は皆さん仕事に励んでいますよ。……それでレイナさん、こちらの依頼は青依頼になるのですが」
「問題が?」
「はい、その……木等級の方には受理できる依頼は緑のみでして……」
本当にこの仕組みに嫌気が刺す。
「本来ならギルドを通す必要のない依頼だぞ?」
「そうなんですが……通す場合は等級を上げていただくしか……」
ならば通さずに依頼を遂行するだけ、と考えたいがそういった考えをしていたからこそ、今こうして付けが回ってきた。
「いいじゃないですか。ロメットさんも了承していましたし、ゆっくりやっていきましょ?」
「ロメットが? いつ?」
会話を思い出すが、そんな会話をした覚えはない。
「私たちが等級を上げるのに苦労しているのを察してくれた上で、こうして依頼書を預けてくれたんですから」
その会話には覚えがあるが、あれは等級を上げるのに苦労しているという話であって、等級が足りないから依頼を受けれないという類の話をしていた訳じゃない。
「ロウィーナ、期日は書いてあるか?」
だが、例えミリアの言い分が揚げ足を取っているに過ぎないものでも使える手は存分に使うべく確認する。
「書いていませんが……いいんですか? 依頼主を裏切っているようなものですが……」
「依頼を完了させる為に等級上げに勤しんだ、言い分は全うだ。で? どうすればいい?」
「はぁ……等級を上げるには北館に行ってもらって試験を受ければ可能です」
試練を受けなければならないのはわかるが、どうして北にいかなければならないのか。納得のいく説明を求める。
「昇格試験は支部長以上の職員の許可が必要になるのですが、支部長は南館には来てくださらないので……」
今にも閉館しそうな南館よりも賑わう北館を優先するのは、冒険者としては納得できないが、利益を得られない集団は消え去るのみ、仕方ない。
「わかった。北にはいくのはいいが、一筆頼めないか?」
今なら絡まれても俺が対応できるが、面倒は極力避けたい。長く滞在すれば絡まれる可能性が高くなり、ロウィーナに一筆してもらえれば北館にいる時間を短くできる。
「わかりました。少々お待ちください」
「外套を取りに戻ります?」
そうするべきかと考えるが、隠す事で好奇心を刺激しかねない。
「やめておこう」
ロウィーナが認める間に齧り損ねた梨に齧り付く。立ったまま食事する事を行儀が悪いと思うミリアは何か言いたげだ。
「冒険者になったんなら、立ち食いぐらいできるようにしておけ?」
梨を両手で受け取ったミリアは、梨と俺を交互に見た後、意を決して齧り付いた。ミリアが悪い道へ進む姿を眺めながら食べる梨は実に美味い。
「お待たせしました」
朝食が終わるとともにロウィーナが書簡を差し出してくる。待っていてくれたのかもしれないと思いながら受け取り、中身を確認する。
「確かに。手間をかけさせたな」
「いいえ、お二人がきてくれたお陰で賑わいを取り戻せた気がしますから、そのお礼とでも思ってください。それでは気を付けていってらっしゃいませ」
ロウィーナに見送られながら南館を後にして北館を目指す。
中央区を抜けた先、北区にたどり着くと人の多さに圧倒される。
「こちらはすごい、人ですね」
日は昇ったと言っても、まだ朝早い時間。それでもごった返しの状態、リスタッツァの人口半数が北に集まっていると言っても過言ではないかもしれない。
「ミリア」
名前を呼んで手を出す。はぐれない様に手を繋いで北の大通りを北上。
南区同様に広場に面して館を構えるギルド北館、館内に入りきらない冒険者たちが広場にまで広がっている。
「この人たちは皆冒険者ですか?」
大剣や杖、自身の得物を石畳に座って手入れする者や数名で談笑する者たちや出張販売する商人たちと交渉する者たち。一見南で聞いた話がデマにも思えたが、所々にいる獣人や鳥人がまるで奴隷のように人の荷物を持たされたり、忙しなく走らされている。
「俺たちも冒険者だ」
気後れするミリアにそう告げてると引き締まった表情に変わる。
人波をかき分けて館内に入ると、早速歓迎の口笛が吹かれるのだった。
ブックマークや高評価の方、よろしくお願いします。




