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勇者亡き世界に魔王は憂う  作者: 雲乃内晴
第三章・再始動
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第三章・再始動 ④

 ギルドの仕事といえば、討伐や狩りなどの戦いが前提の仕事が多く、ギルドの建物内にいるのは屈強な肉体をした男が大半以上を占め、小柄な者や線の細い者が野次られるのは通過儀礼と言っていい。

 迷子になったのか、子供が来る場所じゃない、などは耳がタコができる程言われてきた。


「ようこそいらっしゃいました。ご用件をお伺いします」


 しかし、何事もなく受付までたどり着いてしまう。


「どうかなしましたか?」


「レイ?」


 理由はどうあれ、面倒がないのなら喜ぶべきだ。


「いやなんでもない。仕事を探してるできれば非戦闘のものを頼む」


「え? あはい、畏まりました。ライセンスの提示をお願いします」


 館内の様子が少し変な事は気になったが、ライセンスを求められたことの方が重要だ。ギルドで仕事をするのは初めてではないが、リーダーとなる人物がライセンスを提示すれば依頼を受けることができた。その為 俺がライセンスの提示を求められた事はなく、持ってすらいない。


「もってるか?」


 相方に確認してみるが、予想通りの答えが返ってくる。


「この場合は?」


「では、登録をお願いします。こちらの用紙に記入を」


 渡された紙は二枚。俺が二枚も書く意味はなく一枚を受け取って、もう一枚をミリアに渡す。


「え? 私もですか」


「はい。以前は代表者様にのみお願いしておりましたが、現在は皆様に登録をお願いするようになりましたので」


 それで二枚と納得する。確かに誰かが出してくれるからと書かないでいても、結局はこうして書く羽目になるのだ。全員に義務付けた方が二度手間を避けられる。

 内容は昔と変わらずに、名前性別生年月日に役割と武器種、得手不手と備考。


「わからないものは無記入でいいんだよな?」


「構いません。ですがその場合、ご依頼主様によっては紹介できない依頼が出てくる事もございますのでご承知ください」


 仕方がないと受け入れる他ない。産まれた日など知らない、知っていたとしてもとてもじゃないが書けるものじゃない。

 受付の横に設置されたペン二本を取ってミリアに渡した後、自分の用紙に名前から書く。性別に丸を付けた所で、ペンを持ったまま固まるミリアに気づく。


「どうした?」


 などとぬけぬけと言ってのける自分の性格の悪さを自覚する。


「言ってくれなきゃわからない。どうしたんだい?」


 ミリアは無言で用紙を俺の胸に押し付けてきた。


「書けません!」


 素直に認めたミリアにそれ以上の意地悪はやめる。文字の読み書きができて当然と思うのは、恵まれた環境に産まれた証拠だ。生きる為に必死で仕事をして金を稼ぐか狩りをして食つなぐか、読み書きなど生きる上で必要のない能力と二の次にされがち。


 確かに読み書きを学んでいる間は苦しい日々が続き、苦しい生活の中にいる者ほど勉学よりも金を稼いだ方がいいと考えに至るのは仕方ない。しかし、短絡的と言わざるを得ない。読みと書きができるとできないとでは、任される仕事の量も探せる仕事の量も違い、当然報酬の額にも差ができる。より安定した生活を望むのなら読み書きは必須能力だ。

 とりあえず今回はミリアの分も俺が書くことにして、さっさと済ませる。


「見てくれ」


 二枚分を書き終え、受付に確認させる。


「ミリアさんとレイナさんですね。プレートをお作りしますので少々お待ちください」


 そう言って奥へ消えてしまう。待つだけの暇な時間、受付の机に軽く寄りかかってギルド内を見渡す。


「静かですね」


 口に出さない俺に対して、口に出すミリア。町の活気からは信じられないほどの静か、と言うよりも静かを通り越して辛気臭い。獣人族も人間族も安酒をちびちび飲んで大人しい。


「なぁ。ここは幽霊屋敷か?」


 試しに煽ってみたが、一瞥をくれるだけですぐに自分たちの世界に戻っていってしまう。その中で一人だけニタニタと笑いながら俺を指さす男がいた。


「アンタ新入りかい?」


 受付嬢とのやり取りを聞いていればわかること、自分の世界に入り浸りすぎだ。


「まぁ、そんなところだ」


 声をかけてきた獣人は、机に突っ伏したまま手をひらひら振る。


「悪い事は言わんよ。北に行った方がいい」


「なぜだ?」


 獣人は、綺麗な三角の形をした獣の方の耳を掻き、めんどくさそうにする。


「仕事がほしくてきたんだろ? ここには仕事はないって話だぁあよ」


 妙な事を言う。仕事のないギルドなど存在価値がないと言ってもいい。それに仕事がないのなら受付嬢がライセンスの提示を求めるのも不自然だ。


「お待たせしました」


「仕事がないって聞いたんだが?」


 丁度よく戻ってきた受付嬢に聞くと情報の出元を軽く睨んで溜息を零した。


「いえ、ご希望の緑依頼でしたらあります」


 緑は採取系統の依頼であり、赤や青の討伐や護衛は人気の依頼だ。


「あ、説明がまだでしたね。緑依頼とは採取などを主とな……?」


 説明してくれる受付嬢に手を振る。


「以前リーダーを立てて利用させてもらってる。必要ない」


「左様でしたか。では早速ご希望の緑依頼ですが、こちらになります」


 差し出された依頼用紙を受け取り、人気のなさに頷く。


「……草刈り、ですか」


 少し嫌そうに呟いたミリア。


 冒険者になったのなら、こんな地味な仕事など受けたくもないだろう。しかし今の俺たちでは赤や青は不可能だ。冒険者になったばかりの者に誰も依頼を受けてほしいと思わないからだ。


「それとこちらが冒険者である証となりますプレートです」


 首に掛けられるように黒い紐で括られた木の板。知る限りでは新米でも銅は与えられた筈。しかし木だろうと銅であろうと証には変わりない。受け取ってフードに気を付けながら首に付ける。


「へっへ頑張れよ新入りいいい」


 応援を背中に受けてギルドを後にする。


「本当にやるんですか?」


 広場に出て、依頼主の居場所を確認している最中に聞かれる。


「やるよ。そもそも今の俺たちじゃ他の仕事は受けれないぞ」


 初仕事が簡単なものになるのは、実力とは無縁の話だ。


「この仕事を通して依頼の受け方ややり方、報酬の受け取り方を学ぶんだ」


「お詳しいですね?」


「手続きだけは何度も見てきたからな。ちなみにあいつの時は馬の世話だったぞ」


「そっちの方がよかったです」


 やってみればわかる、動物の世話はいうほど簡単じゃない。


「俺は糞塗れになりたくないけどな」


 世話する事になった馬が悪かったと言えなくもないが、二度とやりたくない仕事だったのは確かだ。


「頑張りましょう草刈り!」


 やる気を出したミリアと共に初仕事へと向かった。

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