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勇者亡き世界に魔王は憂う  作者: 雲乃内晴
第一章・プロローグ
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第一章・プロローグ

楽しんでいただければ幸いです。

 この手で殺すと決めていた男が、目の前で無残な死を遂げた。

 喜ぶべきか悔しがるべきかを悩んでいると、男を死に追いやった者たちが勝鬨(かちどき)を上げた。


「勇者を討伐! 勇者が死んだぞ!!!!」


 俺が抱くべき感情は、喜びでも悔みでもない。人々の為に命がけで魔の王と戦い勝利した男が、人の手に依って殺された、哀れみが抱いた感情だった。


「……魔王、か?」


 勇者を殺した烏合の衆の一人が俺に気づき、血の気を引かせた顔でそう尋ねてきた。


「元、と言えるがな?」


 返答にお祭り騒ぎが一瞬で静まり返ってしまった。


「そう警戒しないでくれ。仲間じゃないか? 勇者の死を望んだ者同士のな」


 微笑んで友好的に接してみたものの、彼らは警戒を強めて投げ捨てた武器を持ち直した。


「殺るか?」


「……強がるなよ魔王。お前の力が奪われている事は知っているぞ」


 事実に二度頷いて答えた後、血の海に沈んだ勇者を指差す。


「封じた奴は今しがた死んだがな?」


 魔王の力は勇者によって奪われた。今や誰もが知っている事実だが、どの様にして奪われたのを明確に知っている者は少ない。故に彼らは俺に力が戻っている事を疑わなかった。


「安心しろよ、何もしなきゃ何もしねぇから」


 流石に鵜呑みにする者はいなかったが、戦意は十二分に削げた。


「騙されてはなりませんよ皆さん。今の彼は見て通りの少女ほどの力しかありませんから」


 戦意を喪失した兵士たちの間から、一目で身分が高いとわかる格好した男が現れる。


「ザウル……だったか? 人が悪いな、死ぬのが自分じゃないからと無謀な事を言う」


 一月前までは小隊の隊長程度だった男も今や万もの大軍の軍師殿だ。

 そんな彼は頭を振り、手に魔力を集中させた。


「では、やりますか?」


 ザウルが集めた魔力量は大したものではない、と魔王だった頃なら言えるが、今の俺では運が良くても四肢のいずれかは再起不能になる量。力が戻っていないと断言できるからこその強気な態度だ。封じられ方を知っている者がいたのが運の尽きだと、素直に両手を上げて降参の意を示した。


「宜しい。危害を加えるつもりはありませんので、どうか大人しくしてください」


 それだけ言って、背中をみせるザウル。無防備な背中から襲っても勝てない自分の肉体が情けない。


「……遺体の回収を。手の空いたものは帰宅の準備をしてください。あぁあと協力してくださった冒険者の方々全員に報酬、そうですね金貨一枚を支払ってあげてください」


「どうして殺さない?」


 兵士に指示を出しまくるザウルに愚問を投げたのは、自分の未来を探る為だ。


「貴女にはやってもらう事がありますので」


「と言うと?」


「それは後のお楽しみです」


 実に爽やかな笑顔で答えてくれたが、そうでなくともろくでもない事だと容易に推測できた。

 とはいえ、利用価値がある内は殺されないとだけわかれば今は十分だ。ひとまずは大人しく流れに身を任せる事にした。

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