第3話 アルディオン帝国軍の思惑
俺達は村を離れ安全なところを目指す為に同行する事にした。
今はセルゲイと自ら名乗る老人に案内して貰っている。本当にセフィア達は何者なんだ。
俺の憶測ではセルゲイがなにかを知っているように思えた。故に俺はこの老人に賭ける事にした。
「儂が気になるか、小僧」
むぅ。小僧って俺の事か。確かに気になるけど今は軽く名乗っておくのが筋か。
「俺は小僧じゃない。シオンだ。それでこっちがラディアスだ」
軽くは言っておいたから今後は大丈夫だろう。多分だけどこの老人は信用してもいい筈だ。
「そうか。シオンにラディアスか。ところで訊きたいのだがそこの少女の名前はどうしてセフィアなのだ」
ここはどうしようか、言っても差し支えないように思えるけど。どうすればいいんだろうか。
「俺が名付けた。この子は今でも記憶喪失だ」
言ったか。ラディアスの判断に委ねるのが適切だな、今は。
「そうか。それは助かる。……記憶喪失なのは儂が魔法を掛けたからだ」
意味深に黙っていると感じたらそう言う事か。だけどどうしてそんな魔法を掛ける必要性があったんだ。
「どう言う事だ?」
だな。ラディアスの目付きが変わった。だけどセルゲイは言っていた。今は元帝国軍で反逆者だと。
「主らが助けたセフィアについてだが果たして耐えれるかな。ここからは実に酷い話だ。覚悟はいいか、小僧共」
気になる。覚悟なんてとうに出来ている。俺達は知りたいんだ、セフィアの身になにがあったのかを。
「……帝国軍の被験体だったのだ、セフィアは」
俺達の無言を覚悟と捉えたセルゲイは淡々と言い始めた。いや。どこか苦しそうな感じもした。てか。被験体ってなんだよ。
「主らはこの世界がどうして闇に覆われたのか気にならんか」
え? なんだよ、急に。まるでセフィアが全ての元凶みたいじゃないか、それじゃ。
「全ての元凶なのだよ、残念ながら。セフィアはな。生まれ付き善悪を増幅させる力を持っていた」
なんだよ、それ。善悪を増幅させる力ってなんだよ。俺には解らないよ、セルゲイがなにを言っているかなんて。
「主らは知らんだろうがな。旧聖王国はな。悪に塗り潰されたのだ。故にこの世界はセフィアによって闇に包まれた」
解らない。どう言う事だ。なんとなくだけどなにもかもが嘘と信じたい。だって余りにも複雑だから。
「辛かっただろう。全ての民の増悪をセフィアは一身に受けていたのだからな。それがある日急に暴発したのだ」
そんな。こんなにもあどけないセフィアがそんなにも辛い過去を持っていたなんて。俺は今までなにをしていたんだ。
「よいか。腐敗の原因は全て今のアルディオン帝国軍にある。だがな。儂は一縷の望みに懸けたのだ。善ある者――。即ち救世主が現れるのを」
救世主? 俺なんかがなれる訳ない。ラディアスもそうだろうに。だけどなんとなく解った気がする。真の敵が。
「よいのか。これから向かう先は前途多難な道。儂とセフィアは早急に救世主と会わねばならん」
はぁ。俺達はなにも期待されてないな。だけどセフィアと出会った以上は責任を取りたい。だから俺は付いていく。どこまでも。
「そうか。有難う。仲間は一人でも多いに越した事はない。今はセフィアの記憶はない方がいい。儂はそう思う」
勘のいい爺さんだ。確かにそんなに辛い過去があるなら俺は反対しない。だからあんなに帝国軍から逃げたかったのか、セフィアが。
「それで? これからどうするんだ」
ラディアスは冷静に言った。確かに行く当てを訊いていた方がいいな、ここは。俺達じゃ判断は出来ない。
「まずは魔神教と敵対しているクリスタル正教まで行くべきだ。そこに救世主と合流する。未来は着々と魔神教の思惑通りに進んでおる」
うん? 魔神教? クリスタル正教? 意味深だけど訳が解らない。ただ救世主に会えるのなら目指すべきだろう。
「彼奴らは全てのクリスタルを停止させた。いずれは空の光を取り戻せねばならん」
なんだか解らないが空の光だなんてどうやって取り戻すんだ? 俺には解らない。どうしたらいいんだ。
「それが出来るのがクリスタル正教だ。よいか。セフィアの持つブローチに救世主の光を宿し全てのクリスタルを復活させよ。そうすれば自ずと天は開かれていくだろう」
クリスタルがなんなのかさえ解らない。だけどなんだかここから壮大な冒険になりそうなのは解った。俺は果たして生き延びれるのだろうか。
「本来ならば天の光を媒体にクリスタルが輝く。だがな。世界は闇に包まれておる。それでも儂は信じておる。極少数の中には希望と言う光を捨てぬ勇敢な者がいるとな」
なんだかそこは解ったような気がする。唯一に残された光は人の心の中にあると。つまりセルゲイはセフィアの力を信じているんだ。
「だからセフィアか。悪に利用された……か。だが今は違う。シオン。少なからず俺達も希望と言う光を捨てないでおこう」
捨てない。俺は俺だ。もう逃げない。面目が立たない時が前にはあったけどもう裏切れない。セフィアの為だ。俺は生き延びてやる。
「そうか。なら付いてくるといい。この先に儂の友人がおる。ちょっとした隠れ蓑だがないよりはあった方がいい。さ。先を急ごう」
隠れ蓑? うーん。隠れ家みたいな物か。解らない。もし隠れ家なら凄く助かる、俺とラディアスは宿屋か野宿の二択のみだったから。
こうして俺達はセフィアの過去を知り仲間関係が整ったところでセルゲイの友人宅へと急いだ。果たして俺は希望と言う光を捨てずにいられるのだろうか。
未来はこうしている間にも着々と進行している。それに負けないように俺はセフィアと共に邁進していくつもりだ。これは最後まで諦めない俺の物語だ。